一八話 回復した日常
「こんばんわ~」
岡宮の家に着いて、数分も経たないうちに若木とも合流する
「おー唯ちゃん、いらっしゃい」
「どうもどうも」
若木は部屋を見て首をひねる
「あれ?大和珍しいね?私より早く来るなんて。いつもギリギリに着くのに」
「いろいろあってな。さっき二人とたまたま会ったんだよ」
「そうなのー。なんか小磯くんいきなり商店街で走り出す奇行をしててさ」
「それは説明しただろ…」
「なにそれめっちゃ気になる!」
………
……
…
酒やツマミを広げ、思い思いに駄弁る
最近あったこと、昔のこと、大学の周りの店、他の友人のゴシップ…etc
豪華なレストランや有名な観光名所に行くよりも、こういう何気ない楽しみの方が重要ではないかと実感する
「そういえば、若木…」
隣に座っている若木に話しかける
「ん?何?そんなに小さな声で」
「俺達がその…付き合ったことを改めて二人に言ったほうがいいんじゃないか?」
「あー、そうだね…」
恐らくというか、確実にもう他の2人も知っているだろう
でも、なあなあで済ませるよりもはっきりと伝える方がある一定の区切りとして相応しい
「あー…二人ともちょっといいか?」
「…?どうしたの?」
「どうした?」
「知ってる奴もいるだろうが、改めて伝えておく」
「俺と若木は一昨日から付き合い始めた」
「それで別にどうと言うことは無いんだが、真っ先に二人に伝えたくてな」
「おー!おめでとう!」
「おめでとう」
二人が思い思いの祝福をしてくれる
こんなに良い友人を持って、本当に良かった
…そんな中、岡宮がキラキラした表情でずいと顔を寄せてくる
…なんだか、悪い予感がするぞ
「ねえねえ、どっちから告白したの?小磯くん?唯ちゃん?」
「え?え…?それはぁ…」
若木はすぐに顔を赤くして、俯く
「全く、岡宮はこういう話に免疫が無いな」
「えぇ…だって、恥ずかしいじゃん」
普段はどことなく男らしいくせに、色恋沙汰になると乙女な思考になる彼女は少し愛らしい
だが、このまま岡宮に詰められて余計なことを言われるのは困る
…やむなしか
「岡宮、実は俺から告白したんだ」
「おー意外。小磯くんも男らしい所があったんだねー」
「俺のことをどう思ってるのか、垣間見れる感想だな」
「ま、唯ちゃんも良かったじゃんね。収まるべき所に収まったって感じ」
「…そうだな。若木と大和は2人揃っていないと、気持ちが悪い」
「あ、ありがと…」
相変わらず、顔を赤くして俯いている
「ていうかさ、思ったんだけど」
「唯ちゃんはずっと『大和』呼びだけど、小磯くんの方はずっと、唯ちゃんのこと『若木』って名字で呼んでるよね」
「ちょっと可哀想じゃない?」
「そう!そうなの!」
若木がいきなり元気になって叫び出す
「大和さぁ…ずっと私のこと名字呼びなの…付き合ったら変わるかなーとか思ってたけどそれもナシ。はぁ…」
「…小磯くんの甲斐性なし」
「…」
岡宮にジト目で睨まれる
自覚はしていたが、改めて他人から言われると堪えるものがあった
「ほらほら、小磯くん。唯ちゃんはそう言ってるけど、なんか言うことないの?」
それは暗に、ここで名前呼びをしろと言うのか
他の二人が見てる前で…?
ちらりと若木を見る
「や、大和?む、無理しなくてもいいからね?別に私は平気だから…」
期待半分、寂しさ半分と言ったところだろうか
そんな表情をされては…もう覚悟を決めるしかない
「…少しいいか?」
「は、はい!」
若木の両肩を掴む
「ゆ、唯…」
「や、大和…」
「きゃー!小磯くんが唯ちゃんのこと、とうとう名前呼びしたよー!」
「ほう…これはこれは」
岡宮は大げさにくねくねしている
だが、それを見世物にされた俺達はたまったものじゃなかった
「や、大和…あのね?」
「な、なんだ?」
「名前で呼んでくれて嬉しかったよ。なんか…大和と恋人同士になれたんだって実感できる」
「これくらいならいつでもやってやる」
「ふふ…ありがと」
「ねぇ旦那様、あの二人、自分たちの世界に入ってしまわれたようですよ?」
「そうだな、奥様。これは俺達が邪魔みたいか」
「「…」」
そんな露骨な揶揄いに反論する気も起きない
「そ、それよりさ。大和が昼間してた奇行について聞かせてほしいなぁ」
「こ、こら…わか…唯。俺を売るつもりか」
「あーそうそう。なんか小磯くん、商店街でいきなり走り出してさ」
「えっこわ…どうして?」
「なんか、女の子を追ってたみたい」
「女の子…?」
ピキッと空気が一瞬固まる
「ふーん、大和。付き合って早々浮気なんて良い度胸してるね」
「ちょ、待ってって…」
「そうだよ、唯ちゃん落ち着いてって」
「唯ちゃんもあると思う。後ろ姿が誰かに似てて、つい顔を確かめたくなっちゃうこと」
「まあ…確かに」
「大和にとって、性別がどうとか関係ないんだと思う…多分」
「もうちょっと確信を持って言ってくれませんかね」
「…他に大和の奇行とかってあったの?」
「確か」
ここまで傍観を貫いていた西川が声を出す
「しきりに大和が呟いていた言葉があった。確か…さつきと」
「さつき…」
「皐月…?5月って連呼してたの?小磯くん、本当に変人だね」
「いや考えるべきは、前の女の子が『さつき』という名前だったということだろう」
「まあ普通に考えればそうだよね」
「大和、さつきって言葉、今回が初めてじゃない気がする。どこかで言ってなかったっけ?」
「…言ってたか?どこで?」
「うーん、改めて聞かれると言ってないような気もする…」
(ピロン♪)
唯と会話していると、丁度良く俺の携帯から通知が鳴る
『最近、どうして返信してくれないのですか…』
『もしかして私のこと、嫌いになりましたか…?』
『鬱鬱鬱鬱鬱鬱…』
…面倒くせぇ
「大和、なんの通知が来たの?」
どうしたもんかと返信を考えていると、唯が画面を覗き込んでくる
「いやいやいや!何でも無い!」
「そうやって、画面を隠すなんて怪しい…なんか隠してるんじゃないの?」
「まさか」
酒瓶を持って、全員のグラスに注いでやる
「よ、よーし、岡宮…今日はめでたい日だからな。岡宮のペースに付き合ってやろう」
「今日は沢山飲もうぜ」
「お、ノリが良いねー小磯くん。宅飲みはこうでなくっちゃ」
「ごまかした…」
唯の疑うような視線を無視しながら、度数の高い酒を一気に呷った
………
……
…
「うぅ…吐きそう…」
「岡宮、奇遇だな…俺もだ」
机に突っ伏してうめき声を出す
「「…」」
西川と唯が揃って冷たい目でこちらを見ていた
「西川くん、どうする?この二人」
「…はぁ、仕方あるまい。岡宮は俺が診るから、若木は大和を頼む」
「ま、そうなるよね。ほら大和。帰るよ」
「すまない、唯…」
唯が肩を貸してくれる
玄関をに向かう途中、後ろをちらりと見た
「唯、西川たちを見てみろ」
「え?西川くん?」
唯も釣られて後ろを見る
「西川くん~、辛いよー頭痛いよー」
「だから飲みすぎるなとあれほど…」
西川は岡宮をいつものように看病しているが、今日は趣向が少し異なっていた
仲睦まじげに手なんて繋いでいる
「ふふ…二人とも仲良し。少しほっこりしちゃう」
「本当にな」
………
……
…
ゆっくりと夜道を歩く
冷たい風が当たって、火照った顔も冷えていく
「そういえば、唯」
「何?」
「明日って暇か?」
「明日?うーん、日曜日だから全然暇だけど」
「じゃあ、デートしないか?」
「で、デート?酔っててノリで言ってない?」
「まさか、俺は本心から唯と遊びたいと思っている」
「そ、そういうことなら喜んで…」




