一六話 不可思議な接触
(カチッカチッカチッ…)
暗闇の中
どこからか、時計の音が聞こえる
(カチッカチッカチッ…)
音がだんだんと大きくなっていき、耳にがんがんと響く
それと同時に、暗闇からぼんやりと光が漏れでる
(あ、あれは…)
まるで光に釣られる夜虫にように、そっと手を伸ばす
誰かが、いる
光は振り子のように左右にゆらゆらと揺れ、その光から一人の女の子が照らされる
小さい体躯に長い髪
俺が再会を心から祈っていた相手
手を彼女に近づけるが虹のように触れることは出来ない
近づけば近づくほど、一歩、もう一歩と遠ざかっていく
(くそ、なんで届かないんだ)
がむしゃらに手足を動かす
あぁ、だめだ
ますます光が遠ざかっていき…
………
……
…
(PPPPPP…)
そこで俺は目が覚めた
「…」
ベッドから落ちてしまったらしい
頭をさするとピリッと鋭い痛みが走った
「あの夢は…」
立つことも億劫で、天井をぼうっと眺める
数年前までは毎日見ていた夢
彼女がすぐそこまで現れては、消えていく
最近になって頻度は減っていたが、改めてこう見ると、夢としては全く愉快なものではなかった
…どうして、今になって見るようになったのか
(ピロン♪)
そんなことを考えている内に通知が鳴る
『おはよ!大和!今日琳ちゃんの家で宅飲みするんだけど来るよね?今日休日だからどうせ暇でしょ?』
『貴方の愛しの彼女、唯より』
「へへへ…」
我ながら気持ちの悪い声をしながら、にやけ顔を作ってしまう
せっかく夢から覚めたというのに、他の理由で現を抜かしていては意味がない
…そうだ。昨日、若木と俺は恋人になったのだ
改めて考えてみると、今回の宅飲みはそれを他の二人に伝えるチャンスではないか
改めて関係性を、周囲に伝えておけば人間関係でねじれた事は起きないだろう
今回、若木が、岡宮の家に招かれている時点でそこまで険悪な関係ということもあるまい
二人の友情間の渦中にいる人間が何様という感じだが、俺は若木を選んだのだ
………
……
…
たまの休日ということで、いろいろやっておくことをやってしまおう
ということで、日用雑貨の購入や各種支払いのために商店街へと繰り出した
この商店街は改めて歩くと、豊富な店舗や品揃えがあることに気づく
家の近くのスーパーよりも2割増で価格が安いし、種類も豊富だ
昨今、物価高騰がうんたらと言われているご時世に、あまり余裕のない大学生にとって、この商店街はありがたいものだった
そうだ…ここで今夜のツマミも買っておこう
そんな取り留めのないことを考え、商店街をふらふらしていると
『ちりーん』と、特徴的な鈴の音がある
「え…?」
背後から聞こえたその音に、思わず振り返ってしまう
休日の、この商店街の雑踏の中に溶け込んでしまうほどの本当に…本当に小さなありふれた音
でも、この音を俺は知っていた
一瞬、視界の中に見慣れた、小さい体躯と長い髪を見た
「ま、まて!」
その少女は小柄故、こんな息が詰まるような雑踏も難なくすり抜けていく
それを追おうと、必死になればなるほどたたらを踏み、距離がさらに離れていく
「く、くそ!」
「あ、あれ?小磯くん?」
雑踏をかき分け、進んでいくと見慣れた男女に出会う
「西川と…岡宮か」
「どうしたんだ?そんなに、焦って」
「そうだよ」
至って、心配そうにこちらを見てくる
しかし、それに丁寧に答える余裕は無かった
「す、すまない。所要でね。どいてくれ」
「きゃ!」
「うわっ」
友人をこんなに雑に扱うなんてと、走り去った後に後悔した
後で、謝っておこう…
………
……
…
「はぁ…はぁ…」
その少女が商店街を曲がり、別の通路に入った頃
完全に彼女を見失ってしまった
「あの子は…」
どうして…
彼女は…ここに居てはいけないのに
全力で走った疲れと、頭の混乱状態から何をすることもなく、その場に立ち尽くしてしまう
………
……
…
~Rin Side~
私が小磯くんを見つけたのは、西川くんと宅飲みための酒とツマミを買おうと、商店街に繰り出した時
小磯くんと私達の距離は結構離れていた
「おーい!小磯くーん!」
かなりの声で彼に呼びかけるけど当然反応はナシ
「…」
「…あっ」
西川くんを見やると、ムッとした表情を私に見せていた
「ご、ごめん…」
「何で謝るんだ。別に何も言っていないだろう」
「西川くんは分かりやすいからね」
「…」
西川くんは不機嫌そうな表情から一転、恥ずかしそうな表情を見せた
改めて意識すると、西川くんは表情が豊かだ
周りでは、寡黙とか何を考えているのか分からないと評価されることが多いけど、私はそうは思わない
それとも…私にだけそういう表情を見せているのか
そう思うと少し、嬉しかった
「まあ、どうせ夜に会えるしね」
私は、小磯くんを呼ぶのを諦め改めて買い物をしようとするが…
「…あれ?」
前方から、小磯くんの声が聞こえる
「す、すみません!どいてください!」
小磯くんがこちらに向かって、全力で近づいてくる
(どん!)
「げふっ!」
「いたっ!」
「だ、大丈夫か?岡宮?」
そこに注意を向けていたからか、足元が疎かなって、髪の長い女の子が私の腰あたりにぶつかってくる
「なんか、小さい子がぶつかって来たみたい…」
下を向いて、女の子を見た
「大丈夫?きみ?」
「だ、大丈夫です…」
いかにも利発そうな女の子
彼女の少し鋭い目つきは、身長と声色からは、考えられないほどの大人みがあった
「か、かわいい…」
「確かに…なんだかどことなく岡宮に似ている雰囲気があるな」
「私が子供作ったら、こんな感じなのかな…」
思わず、頭を撫でてしまう
「すいません、急いでるので」
しかし、その女の子は身を捩り私の手から離れる
「あらら、残念」
「他人にそう安々と触るものじゃないぞ。嫌な奴だっている」
「それもそうだね…ごめんね?君。嫌だったでしょ」
「いえ、こちらもぶつかってしまったので…」
そう言ってペコリと頭を下げると走ってどこかに行ってしまった
「ものすごく躾のなった子だったね…」
「本当にな」
「あ、あれ?小磯くん?」
間もなく、小磯くんが目の前に現れる
「西川と…岡宮か」
「どうしたんだ?そんなに焦って」
「そうだよ」
しかし、小磯くんはものすごく焦っている様子で、しきりに私達の後ろを気にしていた
「す、すまない。所要でね。どいてくれ」
「きゃ!」
「うわっ」
話す間もなく、小磯くんは私達を走り抜けいく
…もしかして、あの女の子を追っていたのかな?
~Rin Side End~
………
……
…
「おーい、小磯くーん」
しばらくぼうっとしていると、岡宮達が追ってきた
「あぁ、岡宮達か。さっきは済まなかった」
「いいの、いいの。それで、何を探していたの?」
「あー…それはだな」
女の子を追っていただなんて言っても、何言ってるだと変な目で見られるだけだ
「もしかして、髪の長い少女を追っていたのか?」
「!?」
西川がドンピシャで当ててくる
「あ、図星なんだ?」
「さっきな、大和に会う前にな、我々も彼女と少し接触したのだ」
「そうそう、可愛かったよねー」
「そ、それは本当か!?」
「そ、そうだけど…あの子、小磯くんの知り合いだったりするの?」
「知り合い…そうだな。知り合いに似ていたからもしかしてと思って追ってみたんだ」
二人が『あぁ』と納得そうな顔を見せた
「あるよね、そういうの」
「知り合いだと思って、回り込んで見てみたら違う顔だったというのがオチだったりする」
「あー!分かる!」
「まあ…さ。とりあえず、私達、酒とツマミ買ってくるから一緒に買わない?」
「…そうだな」




