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貞潔は記憶  作者: monoplayer
1章(現代編)
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15/22

一四話 若木との出会い

そうして、若木に強引に連れられるように商店街へ繰り出した

若木と俺の街への繰り出した方は非常に似ていた

ウィンドウショッピングというものをそれほど重視はせず、目的のものを真っ直ぐと買う。そんな目的思考的なあり方であった

そういう面では、若木はなんというか…非常に男らしい

だからこそ、ただ目的もなくこうして様々な所にぶらつくだなんて、本当に珍しかった


「うーん…」


そんな中、若木がふらりと入ったぬいぐるみショップで、かなりの長考を決め込んでいた

正直、男にはこんなファンシーな所に居場所なんて無く、ものすごく浮いていたが、若木の表情を見るのは楽しかった


「どうした?そんなに唸って」

「この2つのぬいぐるみのうち、どっちかを買おうと思うんだけど、すごく悩んじゃって」


そう言って若木が提示したのは、シマエナガとライオンのぬいぐるみであった

どちらもデフォルメ化が施されており、丸っこく、愛らしい


「がおがお、ライオンって格好良くていいよね」


そう言って、若木がライオンのぬいぐるみを掲げる


「…確かに、若木にライオンってしっくり来るほど似合うな」

「えぇ?なにそれぇー?私ってそんなカッコいい系女の子だっけ」

「うーん、なんか…表現出来ないんだが、ライオンぽい」

「説得力ゼロだねー」

「んーそれなら、琳ちゃんの方がライオンぽいけどなぁ…クールだし」

「岡宮は…」


若木には申し訳ないが、岡宮にはライオンは似合わない

その弱さと冷たさを間近で触れている身としては、そう岡宮を評価出来るものではなかった


「…キツネだと思うな」

「…キツネ?なに?大和、私に媚び売ってたりする?」


…まあ、キツネに似てると言われて、喜ぶ者なんて少数派だろう

故事や絵本では、良く悪役として描かれる

でも俺は、それは半分正しくて、半分間違っているように思える

故事や絵本では、キツネはとても造詣に富んだ存在だ

だからこそ、人一倍苦しみを背負ってしまう

…そういう存在なのだ。岡宮(キツネ)


「直感でそう思っただけだよ」

「ふーん…そっか」

「じゃあ、シマエナガはどう?」


次に若木はシマエナガを掲げた


「ふむ…」


確かに、この地域ではシマエナガは珍しくはない

このぬいぐるみショップでも、目玉商品として売っているようだし

だが…


「若木には似てないな」

「えーひどい!」

「ていうか!別に私に似てる動物を買いたい訳ではないし!」

「それはそうか」


ちなみに値段はいくらなのだろうかと、値札をちらりと見た

…あぁ

案外、ぬいぐるみは高かった。4桁後半は下らない


「よし分かった。俺が一つプレゼントしよう」

「え?いいの?」


奢られることを想像していなかった表情だ


「…色々、あったからな」

「色々…ね。分かった!じゃあ有難く奢られてもらうね」


若木が太陽のような笑顔を見せる


「…っ!」


その笑顔は…昔に見た誰かにそっくりだった

………

……


その後、俺達はなんともなしに、街中をぶらぶらと散策した

時刻はちょうど申の刻、1ヶ月前にはもう日没だったために、季節の変わり目を強く実感する


『ああここのごはん屋さん昔行ったよね。』

『あそこの駄菓子屋さんまだ残ってたんだ、全然人こなさそうなのにね。』

『ここの服屋潰れちゃったんだ。お気に入りだったのに。』

『あそこの公園、冬はライトアップしてるの綺麗だよね。』


本当に、取り留めの無い会話

だが、その一つ一つに記憶が詰まっていた

この街に住み着いてから早3年。若木と居なかった日々を思い出す方が難しい


「ねぇ、あそこ。また登ってみようよ」


若木に指差された先を見ると、商店街から少し離れた先にある電波塔

高さこそは、そこまでのものの街中を見渡せるとして、客足は途絶えない有名な場所だった


………

……


「うわぁー…綺麗…」

「…そうだな。綺麗だ」


俺達は鏡に張り付かんばかりに、景色を眺める

ちょうど夕方が近くなった頃だからだろうか

水平線から漏れでるオレンジ色の光が、建物を反射し、キラキラと輝いている

ここに来たのはそれこそ3年ぶりだろうか

あれは、そう…


「ねぇ大和。3年前のこと覚えてる?」

「あぁ、今俺もそれを思い出したところだ」

「ふふ…そうなんだ。まさかあんなに不仲な私達がここまで仲良くなるなんてね」

「ほんとにな。人生、何があるか分からないな」

「大和は…私と友達になれて良かった?」

「当然だ。若木が居なかったら、どれだけつまらない人生か分からない」

「それは…喜んでいいのかな?」


そう、あれは桜舞う季節


………

……


俺は、地元に母親を一人残し、友人を捨て、その身を全て勉強と修練を費やし、この地へやってきた

満足感や将来の展望は何一つない

ただ、それが自分の運命だと疑わなかった

何も変化しない世界、穏やかな街並み

それだけが、俺の望みだった

そんな世界に、一人の女がやってきた


「危ない!ちょっと退いてぇッ!」

「え?」


どーん

世界が反転する


「いたた…」

「痛えな!おい!何すんだ!」


この大学は自転車通学がとても多い

だから、接触事故はこう絶えないのだが、まさか生身の人間にぶつかって来るなんて思っても見なかった


「こっちも痛いんだけど!」


がばっと起き上がり、反論してくる

お互い激突した割には、双方ともにピンピンしていたのが不幸中の幸いか


「大体、本読みながら歩くとかどういう神経してんの?」

「普通、こういう場所では控えるのがマナーだよね?」

「…は?」


まさか、自転車衝突を起こした張本人が逆ギレしてくるとは思っても見なかった

それを好機と見たのか、この女は自転車を再び支え、先に向かう


「ばいばーい。あと3分くらいで授業だからもう行くね!キミも遅れちゃだめだよ?」

「お、おい!待て!」


………

……


「なんだあの女…」


胸の中に煮えたぎるものを感じながら、完全に遅刻した授業に向かう


「…すみません。遅れました」


教授に軽く会釈をして、そそくさと後ろの席に座った

…が、


「「あっ」」


隣を見やると、さっきの女が座っていた


「お、おい!お前!」

「あー!さっきの前方不注意男!」


本当に馬鹿馬鹿しいと思う

こんなことでムキになって、しつこく絡むなんて

だが、以外にも彼女と接することに不快感は無かった


………

……


「おい、さっきのこと謝ってもらうぞ」


授業中も軽く小競り合いをしていたが、授業後も俺達の口論は続いていた

道中、何事かと俺達を見るが、周囲のことを気にする余裕なんて無かった


「やだね!ていうか、お互い様でしょ?私が謝るなら大和も謝ってもらわないね!」

「な、なんで俺の名前を…」

「さっき、出欠で呼ばれてたじゃん。遅刻したから」

「誰のせいで…」


びきびきとこめかみがひきつくの感じる


「せめて、お前の名前を教えろ」

「やだね!私もう帰るから!」


自転車で全力疾走して逃げる


「ま、待て!」


これが、若木との出会いだった


………

……


「いやぁ…最初の出会いは本当に最悪だったな」

「ね!でも大和もしつこいよね。毎回授業で、私に絡んでくるんだから」

「ふん、若木みたいなふてぶてしい女、人生で初めて見たからな」

「えーひどいなぁ」


若木は言葉ではそう言っているが、口元はにやけていた


「それで、街中追いかけっこして、結局たどり着いた所がここだもんね」

「…そうだな」

「ここで食べたアイスクリーム、美味しかった」


全力で走り回り、汗もだくだくにかいた俺達は、花に釣られる蝶のようにアイスクリームの屋台に引き込まれていった

そこで食べた味と思い出は、一生ものだ


「…あぁそうか」

「え?どうしたの?」


どうして最初の出会いの時、若木に不快感を感じなかったのか

それは、硬直した俺の思考をぶち壊すかのように、若木には新しい風が流れていた

そして、『僕』にとって、新しい『異世界』に手をとって連れていってくれる案内役だと直感的に感じたのかもしれない

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