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貞潔は記憶  作者: monoplayer
1章(現代編)
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13/22

一ニ話 岡宮との別れ

観覧車から降り、すっかり夜になってピカピカと光る商店街を訳もなく歩く

もう特に、やることも無いのだがお互いに別れを切り出すのが惜しいのだろうか


「「…」」


お互い無言のまま、帰路につく


「ねぇ」

「…なんだ?」


岡宮が小走りをして、くるりとこちらを振り返る

電気の光で照らされた白のワンピースは、あの話の後だと少し不釣り合いだと感じてしまった


「今日は…どうだった?」

「楽しかったよ」


嘘偽りなくはっきりと言える

岡宮とのデートは…本当に楽しかった

この数時間、俺は岡宮が何を考えているのか、何を好き好むのか、ずっと眺めてきた

岡宮は、彼女…里月にそっくりだ

変化を恐れ、自らの真意を隠す

当初こそはこれも気高い精神と思ったがそれは違う

ただそれは、心の故障だ

本当ならば、淘汰されなければならない考えなのだろう

しかしそれ故に、近しき人間は惹かれあってしまうのだ

それが、俺と岡宮なのだ

さらに、岡宮は…


「私と付き合う気になった?」

「そうだな…岡宮と付き合えば苦労は無いし、楽しくやっていきそうだなと思った」

「何その言い方?もっとはっきり言ってくれないと分からないよ」

「…」


期待するような眼差しでこちらを眺めてくる

その視線は俺を貫かんばかりに、真っ直ぐとこちらを捉えていた

だから…俺も誠意を以って返答しなければならない


「岡宮と…岡宮とのデートは本当に楽しかった。でもダメだ。俺達は付き合えない」

「…」


一瞬、岡宮の表情が固まる


「…どうして?理由を聞いてもいいかな?」

「俺達があまりにも…近すぎるからだ」

「…意味が分からない。近すぎて問題になることなんて無いでしょ?」

「むしろメリットだと思うよ。お互いに不必要に干渉しない、利害が会うところだけつるめばいい…こんな都合の良い関係なかなか無いよ?」


手をわなつかせ、語気を大きくなってくるのを感じる

こんなにしつこく食い下がってくる岡宮は初めてだが、同時に見たくはない光景だった

それに、それは交際ではなく、それこそ『フレンド』ではないか…

そんな中途半端な関係は認めることが出来ない


「…ダメだ」

「どうして!!私はこんなに大和のことを理解してるのに!」


周囲の通行人が何事かとこちらを振り返る


「大和がどこで何を経験してそんな性格になったのかは知らない。でも、結果的は私達は似た者同士。惹かれ合うんだよ」

「…そうだな。岡宮と付き合うのはさぞ心地が良いだろう。でも、それだけじゃあダメだ」

「それはただの傷の舐め合いだ。二人きりで閉じた世界に篭っても何も解決しない。問題の先送りだ」

「そこに待っているのは、破滅しかない…お互いに壊れてしまう」

「俺だけだけならまだしも、岡宮にまでそんな世界に引き入れるわけにはいかないんだ」

「…はは、おかしな話だね」


岡宮が一歩、後ずさる


「私と大和は似た者同士だと思ってた。けど半分正しくて半分間違ってたよ」

「私はこの世界から立ち止まってしまったけど、大和は違う」

「ちゃんと現実を見据えて動こうしてる。私とは大違いだった」

「…そんな立派なものじゃない」

「どうであれ私とは違う人間なんだ、大和は」

「…」


岡宮と俺

そこになんの違いがあるのか

それは破滅を知ってるか否か、これに尽きるだろう

俺はこの目で破滅を見てきた

だから…せめて自分だけは…自分の周りだけはそうならないようにと強く願っていただけだ

岡宮も大なり小なり同じような経験をする日が来る

でも、そこで手を差し伸べるのは俺じゃない。『似た者同士』ではない誰かだ


「あーあー…本当に何してんだろ、私」


手で顔を覆い、下を向く


「私ね、勝てない勝負しかしない主義だったの。でも、このザマ」

「大和には振られるし、唯ちゃんにも嫌われるようなことしちゃった」

「…」


ここで甘い言葉をかけてやる事はできない

岡宮の行動は全くの自業自得だった

でも…せめて…


「岡宮、何事も手遅れってことはない。若木と仲直りをしてやれ。彼女は絶対に応じてくれる」


岡宮と若木にはずっと仲良くいて欲しかった

『彼女』は言っていた

『それは仕方の無いことです。無常という言葉があるくらいですから』

『永遠普遍なんてものは、有り得ないものなのです』

永遠普遍なんてものはない

でも、自分の周りくらいでは永遠普遍があって欲しかった


「随分適当なこと言うんじゃんね。大和が渦中の人間だって言うのに」

「お前と若木の友情は男を巡って拗れるくらい軽薄なものなのか?」

「…詭弁だよ」


ふっと鼻で笑われる

…これでいい。岡宮はそんな表情よりも笑顔が似合っている


………

……


「私、こっちだから」


岡宮との会話の後、静かに帰路に着く

俺と岡宮の肩と肩の距離は行きよりも、おおよそ一人分離れていた


分岐路で岡宮が指を指す


「ああ、そうだったな」

「…」


岡宮が何か言いたげにしている


「なんだ?」

「ううん、何でもない。ばいばい、また大学でね」

「じゃあな。大学で」


岡宮がくるりと背中を向け歩いていく


「あ、そうそう」

「…なんだよ」


再びこちらを向く


「結局、唯ちゃんに対する答えはどうするの?」

「…近い内に結論を出すつもりではいる」

「ふーん…ま、色よい返事を期待してるよ」


岡宮の表情は、いつも見慣れていたのと大差なかった


………

……


~Rin Side~


角を曲がり、大和が自分を見ていないか確認する

それを認識した途端、糸が切れたように脱力する

そして、感情の波が…押し寄せてきた


「う、う…ぐす…」

「大和ぉ…」


あまりにも滑稽

心の中では分かっていても、感情は理解を拒んでいる

そんな中、前方から一つの人影が見えた

その歩き方、姿は私がよく知っているもので…


「西川くん…」

「…」

「悪趣味だよ。女の泣き姿を見るなんて。いいや、その前にどうして私の場所が分かるの」

「…お前が言ったんだろう。大和とデートしたいから、二人きりにさせてくれと」

「岡宮が行きそうなところなど分かる。どれだけお前に付き合わされたと思っている」

「西川くんが勝手についてきただけだけどね」

「記憶の捏造はやめてもらおう」

「でも…その調子だとうまくはいかなかったようだな」

「…うるさい。冷やかしのために私にわざわざ会いに来たの?」


わざとらしく音を立てて、西川くんを横を通過する


「待てっ!」


西川くんが私の腕を強く握る

その力は強すぎるくらいで、とても痛かった


「離して。痛いんだけど」

「お、岡宮。お前に言いたいことがある。こんな時に言うなんて自分でもほとほと卑怯だと思っているが」

「好きだ…岡宮。俺と付き合ってくれないか」

「え…」

「どうして…どうして私なの!?」

「私は…私はこんなに汚れてるんだよ!?」


ずっと、ずっと前から西川くんが私に好意を持っているのは知っていた

私は、唯ちゃんや大和のように鈍感でもお人好しでもなかった

だから、その好意に気づいた時、私はどう利用しようかとしか考えなかった


「私がね、ずっと西川くんと仲良くしてたのは、大和のためだったの!」

「二人で出かけたのも、こうやって4人で集まる機会を作ったのも全部大和のため!」

「私は最初から西川くんを利用してたの!」

「ああ、知っているとも。そんなことは、最初から分かっていた」

「なら、どうしてそんなこと言うの…」


声が震える

こんなにも怖いと感じたのは、大和に告白した以上だった


「それでも…岡宮が心配だからだ。岡宮が誰とどんな関係になろうが別にいい。でも…岡宮には幸せになって欲しかった」

「ただ、それだけだった」


西川くんがそっと後ろから抱いてくる

彼の胸はとても温かった

私は西川くんの腕を、控えめに握って問う


「どうして…そう思ったの」

「初めて出会った時だ…岡宮は不安定な人間だと思った。吹いたら飛びそうな…そんな儚さがあった」

「だから、誰かが岡宮を見守ってやらないといけない」

「その相手が大和なら…申し分ないと思ったが…今の体たらくじゃ岡宮を見ていられない」

「だから…頼む。俺と付き合ってくれ」

「私、私は――」


~Rin Side End~





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