5 告げられた現実を飲み込むきつさ
これは本当に飲み込むことがきつい現実だった。
さて、一泊二日の術前検査の日が来た。剃毛して、T字帯というふんどしのようなものをはいて検査室へ。
この検査は鼠径部から造影剤を入れて脳の血管の3Dモデルを作るものと言われていた。
この検査が今思い出しても過去一きつかった。
造影剤を入れるたびに、文字通り脳がしびれて痛いし造影剤の影響か吐き気は止まらないし、何より血栓防止のため一晩中足を延ばしたままの状態を保たないといけなくて、姿勢を変えられないから辛くて辛くて……。久々に腰痛になったよ。
でも翌日、先生に脳の3Dの画像を見せてもらった時はだいぶ感動した。痛くてきついの我慢して良かったって思うくらい感動した。
自分の頭の中の血管が3D画像になっていて、表面だけじゃなくて脳の奥のほうまでわかる。これはすごい。
「右側の血管のほうが発達してるので、左側は手術のアプローチが予定通り問題なくいけそうです」
と、血管の間をここから切開して、と説明してくれた。これがもし右側に腫瘍ができていたらこのアプローチはできなかったと。
私はといえば、初めて見る自分の脳の血管の網目にだいぶ感動していた。すごいな、脳ってこんなにたくさんの血管が走ってるのかって。
あれは見た人ならわかる感動だと思う。人体の構成のすごさの一端だった。
それから後遺症の説明。
「可能性が高いのが顔面麻痺と左半身麻痺、あとは記憶障害です」
「記憶障害?」
「はい、文字通り記憶に障害が出ることです。可能性はあるかと」
「……例えば?」
「ねねこさんの腫瘍は、ここ、側頭葉と呼ばれる部位に少し近いんです。脳の部位自体は別れてはいますが、ここは海馬と言う記憶をつかさどる場所になります。もし手術の影響でヘルニアなど起こすと圧迫されて、こちらに影響が出たりします」
え、めっちゃ嫌だ。
私はオタクなので、自分の大好きなものを忘れたりするのはおそらく耐えられない。
「この手術はとにかく顔面神経の温存を最優先に行います。顔面神経は腫瘍に押されて今大きく広がってしまってこうなっている状態です」
と、先生が紙で文鎮を包むのを見せてくれた。つまり顔面神経が紙みたいに広がって腫瘍を包んでいるような状態だと。
S先生の説明は本当に分かりやすい。
「なので、全摘はできません。この病気に完治や根治はないんです。目指すのは寛解です。問題なく日常生活に戻るのがゴールです。片耳の聴力はなくなると思ってください」
「あの、つまり私の左耳は……」
「手術をすると完全に失聴します」
これは本当にショックだった。ライブも映画も楽しむのは難しくなるってことだ。
音楽を含め「音」が片耳だとどう聞こえるようになるのか、まったく想像がつかなかった。この時点はまだ辛うじて左耳の聴力は少し残っていた。




