実践は最大の鍛冶!?
「――ってなわけでよ、レイ。今日はお前、一度工房を出て外で暴れてこい」
「……はい? 暴れてこい、ですか?」
早朝の工房『鉄槌の獅子亭』。
炉の火起こしを終え、腕まくりをしてハンマーを握り直した俺に向かって、バルドさんが腕を組みながらとんでもないことを言い放った。
バルドさんは顎で、金敷の横に置いてある俺の試作武器――『裂鋼の大刃』を指差す。
「いいか、鍛冶屋ってのはただ鉄を叩けばいいってもんじゃねぇ。自分が叩き上げた鉄が、実戦でどう噛み合い、どう肉を断ち、どう衝撃を骨に伝えるか……それを自分の手と身体で知っとかなきゃ、次に打つべき刃の『答え』が見えてこねぇんだよ」
「いや、でも俺、レベル6の初心者生産職ですし……戦闘なんてこの前の鉱山調査の時にちょっと行ったくらいですよ?」
ちなみに、昨日作った『影喰みの暗器』は、コウタが「PTのスカウト役に買い取らせてくれ!」と持って行ってしまったため、今手元にあるのは背中のゴツい大剣一本だけだ。
「だからだよバカ野郎!」
バルドさんの雷のような怒号が工房に響く。
「自分の作った武器の感触も確かめずに『次はもっと綺麗な剣を打つぞ』なんて、寝言もいいところだ! 街の外の浅い森でいい。自分が作った武器を担いで、数匹モンスターを叩きのめしてこい!」
「うぐっ……! た、確かに……使い心地を知らないで良い武器なんて打てないか……」
ぐうの音も出ない正論だった。
実際に獲物を斬り、叩きつけた時の衝撃を知ることは、手動で鍛冶を極める上で絶対に避けて通れない道なのかもしれない。
「分かった……行ってきます! 自作の武器でレベリング、やってみます!」
ルーメンの街の東側に広がる『始まりの森』。
ここは最近ゲームを始めた『第2陣(後発組)』のプレイヤーたちで賑わっていた。
「わぁ、見て見て! あの大きなウサギ可愛くない!?」
「油断するなよ、角が生えてるやつは突進が痛ぇからな!」
木漏れ日が差し込む森の入り口付近では、カラフルな初心者装備に身を包んだ2陣のプレイヤーたちが楽しそうに狩りをしていた。システムアシストで作られたスマートな初期装備を構え、軽快にモンスターを倒していく。
その中に、俺は一人で足を踏み入れようとしていた。
全身、汗と煤でうっすら汚れた鍛冶師の作業着。
背中には、まるで建物の鉄骨をそのまま削り出したかのような、ノコギリ状の刃紋が走る物物しい大剣。
……どう考えても、爽やかな初心者エリアに浮いている。
「ねぇ、あの人……背中の武器、何あれ……?」
「すげえ威圧感……一陣のガチ勢の人かな?」
「カッコいいけど、なんか凶悪すぎない……?」
すれ違う2陣のプレイヤーたちが、ヒソヒソと囁き合いながら俺の背中の大剣を二度見していく。
(う、うわぁ……見られてる! やっぱり手製で作ったから見た目が歪で変に見えるのかな……恥ずかしい……!)
俺は周囲の視線から逃げるように、森の少し奥へと足を早めた。
「よし……この辺なら人が少ないな」
息を整え、背中の『裂鋼の大刃』の柄に手をかける。
ステータスポイントを全てSTR(筋力)に振ったおかげで、かつては持ち上げることすら危うかったこの鉄塊が、今ではしっかりと構えられるようになっていた。
その時、茂みがガサリと揺れた。
「グルルルル……ッ!」
現れたのは、この森の中層に出没する『スパイダー・ウルフ(レベル9)』だ。
体長1.5メートルほどの巨大な狼で、レベル6の俺からすれば本来ならパーティーで挑むような強敵である。
狼が前脚を踏み込み、鋭い牙を剥き出しにして飛びかかってきた!
(早い……! でも、鉄を叩く時の集中力に比べたら――動きが見える!)
俺は跳びかかってきた狼の軌道を見切り、STRを注ぎ込んだ両腕で『裂鋼の大刃』を横一文字に振りぬいた!
ガコォォォンッ!!!
重金属が質量と力任せに物体を砕く、破壊的な重低音が森に響き渡った。
『裂鋼の大刃』の攻撃力53に、俺の極振りされたSTR、そして【重量超過】の威力が乗った一撃。スパイダー・ウルフは悲鳴を上げる隙すら与えられず、一撃で輪郭が弾け飛び、光の粒子となって霧散した。
「……えっ? 一発……!?」
衝撃波で周囲の落ち葉が舞い散る。
あまりの威力を前に、俺自身が一番驚いていた。
(重心が少し先走りすぎているから、振り抜いた後に隙ができるんだ。あと、刃の根元側の密度をもう少し増やせば反動を抑えられる……!)
実戦で使っただけで、改善点が次々と頭に溢れ出てくる。
その後も俺は現れるモンスターたちを次々と一振りでワンパン粉砕していき、あっという間にレベル10まで駆け上がった。
戦えば戦うほど自分の作った武器の「長所」と「欠陥」が鮮明に見え、夢中になっていたその時、不意に木々の奥から絶叫が聞こえてきた。
「くそっ! なんだよこの突進、範囲広すぎだろ!」
「回復薬がもう切れる! 一旦引こう!」
覗き込むと、3人の2陣プレイヤー(剣士、魔法使い、回復職)が、この森のプチボス『大角イノシシ(レベル15)』に追い詰められていた。
「キャッ!?」
魔法使いの少女が倒れ込み、イノシシが巨大な角を振り立てて突進を開始する。直撃すれば全滅は免れない。
(まずい……! あのままだとみんな死んじゃう!)
「そこ、離れて!!」
俺は地面を強く蹴り出し、突撃するイノシシの前に躍り出た。
そして、正面から『裂鋼の大刃』をフルスイングで叩きつけた!
ガシィィィィンッ!!!
凄まじい金属音が響き渡り、大角イノシシの巨体がピタリと停止した。
【重量超過】と【防具破壊】が同時に発動し、イノシシの硬い皮が粉砕され、レベル15のプチボスのHPが一瞬で7割以上吹き飛ぶ!
「う、嘘だろ……!? ボスの突進を正面から止めて、あのHP削り……!?」
剣士の男が絶句する。
「お二人とも、下がっててください!」
俺は大剣を構え直し、体勢を崩して怯む大角イノシシの頭部へ、上段から二撃目を全力で叩き下ろした!
ズガァァァンッ!!
衝撃波が森を揺らし、大角イノシシは絶叫とともに光の粒子となって消滅した。
わずか二打。ボス戦はあっけなく幕を閉じた。
【ピローン! 大角イノシシを討伐しました!】
【大量の経験値を獲得しました!】
【プレイヤーレベルが上がりました!(LV 10 → LV 13)】
「うわ、レベルが一気に13まで跳ね上がった……!」
レベル15のボス討伐経験値が入り、レベルはついに13へと到達した。
イノシシが消滅した場所には、ボスドロップである『大角イノシシの頑丈な角』と『硬質の皮』が転がっていた。
俺はそれらの素材を拾い上げると、呆然と立ち尽くしている3人の元へ歩み寄った。
「あの、これどうぞ! さっきのボスのドロップ素材です!」
「えっ……!? あ、いや、最後にとどめを刺したのはお兄さんですし、全部受け取ってください! 僕たち、助けてもらっただけで……!」
剣士の男が焦ったように手を振るが、俺は苦笑いしながら首を横に振った。
「ダメですよ。元々は皆さんが戦っていたボスなんですから、俺が取っちゃ横取りになっちゃいます。俺は途中で割り込んだだけですし、経験値もたくさんいただきましたから! ほら、受け取ってください」
そう言って素材を手渡すと、3人は申し訳なさそうに、けれど感激した面持ちでそれを受け取った。
「あ、ありがとうございます……! 命を救われた上に、こんな貴重な素材まで……!」
「本当にありがとうございました!! もしかして、第1陣のトップ攻略組の方ですか……!?」
「えっ!? い、違います! 俺はただの初心者鍛冶屋ですよ! 街の端っこでひっそり修業してるだけの生産職です!」
慌てて手を振る俺に、魔法使いの少女が目を輝かせて言った。
「た、ただの鍛冶屋さん……!? でも、その背中の武器……すごく無骨で力強くて、めちゃくちゃカッコいいです!」
「あ、カッコいい……ですか? ありがとうございます。これ、俺が自分で打った試作品なんです。まだまだトップ職人の人たちの綺麗な神剣には遠く及ばない失敗作なんですけどね」
「これで失敗作……!?」と目を丸くする3人に別れを告げ、俺は街への帰路についた。
街に戻る道中、俺は新しく手に入った大量のステータスポイントを、迷うことなく『STR(筋力)』へと全て注ぎ込んだ。
「よし……! レベル13になったし、STRもかなり上がったぞ。これでまた一歩、重いハンマーを軽々と振るえる身体に近づいた!」
トップ生産職の人たちが『レシピ』という便利な機能で攻撃力100を超える神剣をレイと比べると比較的簡単に作っていること。
そして、自分がやっている「筋肉極振りのガチ手動鍛冶」が、システムの制限をブチ破るイかれた異常値を引き出していること。
そんな事実には相変わらず一切気づかないまま、レイは更なる手動鍛冶の苦行へと突き進むのだった。
「バルドさん! 帰りました! 武器の改善点がいっぱい分かったので、次の鉄を叩かせてください!」
「ガハハ! いい顔になって帰ってきやがったな! よし、炉に火を入れろ!」




