筋力という名の暴力と、新たな素材の予感
「よしっ……! いいぞレイ、筋の使い方のコツが完全に掴めてきたな!」
「ふぅぅぅ……っ! ハッ!!」
カァァァンッ!!
工房内に、腹の底まで響く重厚な金属音が炸裂する。
金敷の上で真っ赤に灼けた鉄塊が、ハンマーの一撃を受けるたびに大きく歪み、一気に高密度へと押し潰されていく。
『始まりの森』での実戦を経て、レベルは13まで一気に跳ね上がった。
そこで得たステータスポイントをほぼ全て『STR(筋力)』へと注ぎ込んだ結果、俺の身体能力は数日前とは比べものにならない域に達している。
かつては持ち上げるだけで腕がプルプルと震えていた重ハンマーが、今ではまるで己の手足の延長のように軽く感じられた。
(筋肉(STR)がついたおかげで、打点がブレない……! 叩き込む力も、昨日の倍以上乗ってるぞ……!)
「オラッ! 叩いて叩いて叩き潰す!!」
カンッ! カンッ! カンッ! ガァァンッ!!
筋肉の連動を意識し、背筋から腰、そして腕へと威力を伝達させる。
システムの補助に頼らない、純粋な肉体労働による力任せの手動鍛冶。
だが、その「圧倒的な力で鉄をねじ伏せる鍛造」は、金属内部の気泡を極限まで押し出し、異常なまでの硬度を生み出していく。
水冷の「ジュワァァァッ!」という大量の白煙とともに、完成した一本の長剣を引き揚げた。
名称:鍛冶試作・剛鉄の破断剣
品質:規格外(手製)
攻撃力:66
【要求ステータス】STR 90以上
【効果】構造破壊(ガードおよび建造物に対するダメージ+80%)
【効果】重量過重(攻撃時、自身のSTR値を攻撃力に直接加算)
真っ直ぐで綺麗な剣を目指して打ったはずなのに、出来上がったのは「刃がついた鉄柱」とでも呼ぶべき、圧倒的質量の鈍器剣だった。
「……まただ。どうして俺が作ると、毎回『相手を叩き潰すための物物しい塊』になっちゃうんだろう……」
俺がガックリと肩を落とすと、横から覗き込んだバルドさんが豪快に破顔した。
「ガハハハハ! 最高だレイ! お前、普通の職人がやる『叩いて伸ばす』じゃなくて、『力で叩き圧縮する』鍛冶やりやがってるだろ! これ、鉄の密度が普通の剣の三倍近く詰まってんぞ!?」
「いや、俺はシュッとしたスマートな神剣が作りたいんですってば……」
「そんな細っこい剣なんか要らねぇんだよ! 鉄ってのはな、作ってる奴の魂と肉体がそのまま形になるんだ。お前が筋肉で叩き潰した鉄は、そうやって力強い牙を持つ。誇れバカ野郎!」
(魂と肉体って……俺、そんなにゴリゴリの脳筋になりたいわけじゃないのに……)
思わず遠い目をする俺。
自分の無自覚な「STR極振り」がそのまま武器の性能と形状に反映されているとは、夢にも思っていないのだった。
その日の夕方。
作業を終えて汗を流した俺は、久しぶりにコウタと始まりの街の酒場で合流していた。
「――でさ! この前レイからもらった『影喰みの暗器』、うちのPTのスカウトに渡したらめちゃくちゃ重宝しててさ!」
ジョッキの果汁酒(ゲームの規約上、未成年でも安心なアルコール度数ゼロの気分の味を楽しむフレーバー飲料だ)を飲み干しながら、コウタが嬉しそうに語る。
「本当? 攻撃力23しかないし、メインで振り回すには数値が足りない試作品だから不安だったんだけど……」
「そりゃメイン武器には足りないけどさ、あの『クリティカル率+50%』がヤバいんだよ! スカウトの暗殺スキルと合わせるとほぼ確定で急所ヒットになってさ。まさに『痒い所に手が届く最高のフィニッシャー』だって大興奮だったぞ!」
「へぇ……そっか、一撃の火力を補うのに使えてるなら良かったよ」
「おう! で、今日は何を打ってたんだ?」
「うーん……今日は長剣を作ろうとしたんだけど、なんかすごく重くてゴツい大剣になっちゃってさ」
俺はテーブルの下から、先ほど完成した『剛鉄の破断剣』のウィンドウだけをコウタに見せた。
ウィンドウを見た瞬間、コウタがブッとジュースを吹きかけた。
「ゲホッ……! ゲホッ……!? え、ちょっと待ってレイ、これマジ……!?」
「え? なにが?」
「『攻撃力66』!? しかも『自身のSTRを攻撃力に加算』って……おいおいおい! 初期素材の鉄で、一陣のトップ層が使ってるメイン武器の領域に入りかけてんじゃねぇか!!」
コウタは目を丸くして、ウィンドウと俺の顔を交互に見つめた。
「えっ……でも、この前コウタ『トップ層は攻撃力80超えとか120レベルの神武器使ってる』って言ってたじゃん? それに比べたら、まだまだ届いてないし失敗作かなって……」
「いや、届いてないっていっても、お前まだゲーム始めて数日だぞ!? 一陣トップの職人たちがダンジョンのレア素材使って、アシストでギリギリ作ってるような領域に、初期の鉄素材で到達しそうになってるのがおかしいんだよ!」
「えぇ……? でも、この武器『STR 90以上』とかいう高い要求値だしさ。俺みたいにSTRを上げまくってないと持ち上げることすらできないし、結局使いにくい失敗作だと思うんだけど……」
「高すぎるっていうか……『STR 90』って、最前線でレベル35近くまで上げて、前衛としてバランスよく筋肉にポイント振ってるガチ勢がようやく持てる数値だぞ!? だから一陣の前衛なら喉から手が出るほど欲しい性能だけど……待てよ?」
そこでコウタはハッと目を見開き、背中にその大剣を普通に背負っている俺を二度見した。
「……なぁレイ、なんでお前、レベル13の時点でその要求ステータスを満たして普通に持ててんだよ!?」
「え? だって、ハンマー重いし毎日筋肉鍛えてたら自然とSTR上がって普通に持てるようになったよ?」
「どんな筋トレしたらレベル13で最前線レベル35のSTRに届くんだよバカ!!」
コウタの悲鳴のようなツッコミを、俺は「鍛冶屋の筋力補正ってすごいんだな」と呑気に受け止めていた。
(トップ生産職の人たちは、きっともっと低いステータスで誰でも扱える攻撃力100超えの綺麗な神剣を作ってるんだな……。俺は筋力に頼りすぎてるから、要求ステータスが無駄に高くなっちゃうんだ)
依然として「レシピのアシスト」の存在を知らない俺は、自分の手動鍛冶が生み出す極端なステータス要求と異常な威力を、単なる「腕の未熟さ(筋力補正のせい)」だと勘違いしていた。
「もっと綺麗な剣を作るには、鉄以外の素材も試した方がいいのかな……」
俺が呟くと、コウタが頭を抱えながらもニヤリと笑った。
「素材か! ちょうどいい話があるぞレイ。この街の少し先に行ったところに『岩山鉱山』っていうダンジョンがあるんだ。そこなら普通の鉄じゃなくて、『黒鋼石』とか『赤銅』みたいな質の高い金属がたくさん掘れるらしいぞ!」
「高級金属……!」
その響きに、俺の鍛冶師としての心が激しく踊った。
「そこそこ強いモンスターも出るけど、俺たちレベル30前後のPTが一緒なら護衛しながら掘れると思う。どうだ、行ってみるか?」
「本当!? 行きたい! ぜひ行ってみたい!」
レベルも13まで上がり、STRも十分に育った。今の俺なら、もっと硬くて質の良い金属を叩けるはずだ。
「よし決まり! 明日、みんなで『岩山鉱山』に採掘ツアーに行こうぜ!」
「うん! サンキュ、コウタ!」
新素材への期待に胸を膨らませながら、俺たちはジョッキを合わせた。
もっと硬い金属を叩くためには、さらに強靭な筋力(STR)と、重いハンマーが必要になる。
(明日新しい鉱石が手に入ったら……もっとSTRを上げて、思い切り叩き潰してやるぞ!)
勘違いのベクトルをさらに極太に折り曲げながら、レイは次なる「規格外の鍛造」へと踏み出していくのだった。




