師匠の背中と、職人の領域
翌日の早朝。
コウタたちパーティとの待ち合わせ時間まで少し余裕があった俺は、いつものようにバルドさんの工房へと顔を出していた。
「おう、レイ。今日は仲間とダンジョン採掘だったな? 遅れるんじゃねぇぞ」
「はい! その前に、道具の手入れをしておこうと思って」
工房の奥では、バルドさんが腕を組み、真剣な眼差しで一本の刀身を見つめていた。
金敷の上で神秘的な青銀色の光を放っているのは、刃紋が細かな竜の鱗のように波打つ長剣だ。一切の歪みがない完璧なシルエットは、素人の俺が見ても思わず息を呑むほど美しい佇まいだった。
「バルドさん……それ、すごく綺麗ですね……」
「ん? ああ、これか。王都の騎士団にいる昔馴染みから頼まれてな。『ミスリル銀』と『黒鋼魔竜の角』を練り込んで、久々に本気を出して打った『真銀魔竜の長剣』だ」
バルドさんがフッと口元を緩め、剣を片手で軽々と持ち上げる。
その動作に合わせて、ふわっと武器のステータスウィンドウが表示された。
名称:真銀魔竜の長剣
品質:最高級(手製・特注品)
攻撃力:250
【要求ステータス】STR 45以上 / DEX 35以上
【効果】鋭利・極(切れ味+60% / 会心率+30% / 会心威力+50%)
【効果】重量軽減・極(必要ステータス大幅軽減)
【効果】魔竜の脈動(物理攻撃時に25%の確率で範囲衝撃波が発生)
【効果】竜威の圧破(大型ボス級モンスターに対する与ダメージ+35%)
【効果】不磨の加護(武器耐久値の低下を完全に防止)
(あ……あぜんとするほどの数値だ……!!)
俺はそのウィンドウを見て、口をぐうの音も出ないほど開けてしまった。
攻撃力は、驚愕の250。
最前線を走る一陣プレイヤーすら足元にも及ばないような、文字通り次元の違う超高威力だ。
圧倒的な切れ味と会心補正に加え、衝撃波の追撃や大型ボス特攻、さらにどれだけ激しく戦っても刃こぼれすらしない不磨の加護まで付いている。本来ならSTR 120やDEX 100以上を求められるような化物性能なのに、要求ステータスは『STR 45』と、本来の三分の一近くにまで抑え込まれている。
(250なんて化け物みたいな威力にボス特攻と耐久無効までついて、少し鍛えた前衛なら無理なく扱える軽さ……! 高級な素材の特性を引き出しつつ、長年の技術でここまでの性能に仕立て上げるなんて……これが、本物の職人の技なんだ……!)
俺が昨日作った『剛鉄の破断剣』は、攻撃力66を出すために「STR 90」というバカみたいな筋力を要求してしまっている。
それはつまり、俺に熟練の鍛冶技術がないせいで、己の力任せに鉄を押し潰しているだけの未熟な証拠だ。
「……バルドさんって、やっぱ次元が違うなぁ」
「ハッ、何寝ぼけたこと言ってやがる。俺は何年ハンマーを握ってると思ってんだ。お前も無駄な力(筋力)に頼らず、技で金属を扱えるようになれば、いずれこの領域に来られるさ」
バルドさんは豪快に笑いながら俺の背中をポンと叩いた。
(力力力って筋力に頼るのをやめて、もっと技術を磨かないと……バルドさんみたいな本物の鍛冶職人にはなれないぞ!)
改めて師匠の技の深さに感銘を受けた俺は、尊敬の念を深めながら工房を後にした。
街の広場に着くと、すでにコウタたちがフル装備で待っていた。
コウタのパーティは全員男の4人組だ。
前衛で大剣を構えるコウタ(アタッカー兼タンク)、レイの作った暗器を気に入ってくれているスカウトのライガ(スカウト兼アタッカー)、パーティ全体の回復と強化を一手に担うソラ(ヒーラー兼バッファー)、そして豪快な攻撃魔法で後方から火力を叩き込む魔法使いのガルド。役割分担が綺麗に整った、バランスの良い中堅パーティである。
「よっ、レイ! 準備はバッチリか?」
「うん! あ、コウタ。さっきバルドさんが王都の騎士団の知り合い向けに打ったっていう最高傑作を見せてもらったんだけどさ……やっぱ師匠ってめちゃくちゃ凄いわ」
「へえ、王都用か! どんな性能だったんだ?」
「ミスリルと黒鋼魔竜の角を使った剣で、攻撃力250。切れ味やクリティカル補正、衝撃波の追撃に大型ボス補正、耐久減衰無効まで特盛りなんだ。なのに要求STRがたったの『45』なんだよ! 長年の職人技でステータス要求を半分以下に削ぎ落としてるから、前衛なら誰でも扱えるのに超高火力なの。俺の作ってる武器なんて、ただの力任せの失敗作なんだなって痛感したよ……」
俺が本気で感心しながら話すと、コウタは一瞬フリーズし、それから思い切り頭を抱えた。
「……なぁレイ」
「なに?」
「師匠の凄さは【一陣すら拝んだこともない高級素材と神技で、ステータス要求を削ぎ落として誰でも使えるようにする職人技】だよな?」
「うん! 力に頼らない洗練された最高の技術だよ」
「……で、お前が作ってるのは【技術がないのを圧倒的な筋肉とパワーで強引にカバーして、初期素材の鉄で攻撃力66まで引き出してる暴力】だろ?」
「うぐっ……だから言わないでよ。技術がないから無駄に重くなっちゃうんだってば……」
落ち込む俺を見て、コウタは引きつった笑いを浮かべながら、隣にいたスカウトのライガや後方のソラ、ガルドと顔を見合わせた。
コウタ:(心の声:『トッププレイヤーすら足元にも及ばない王都用の特注品と比べるなよ!! 技術ゼロの初心者が筋肉(STR)だけで、ただの鉄から攻撃力66のバケモノ武器を叩き出してること自体が一番ヤバいんだよ!!』)
「まあ……うん! レベルを上げて高級な素材を手に入れれば、レイももっとすごいの作れるようになるって! ほら、行こうぜ『岩山鉱山』へ!」
「うん! もっと鍛冶の技術(と筋肉)を磨いて、いつかバルドさんを超える神剣を作ってみせるよ!」
「(だからなんで筋肉もセットで磨こうとしてんだよ……)」
コウタたちの微妙な視線に気づくこともなく、俺は新しい鉱石への期待に胸を躍らせながら、ダンジョンへの一歩を踏み出すのだった。




