クエスト完了と初クラフト
「……なぁレイ。お前、鍛冶師だろ? なんで買い出しでピッケル担いで戦場みたいな鉱山に行こうとしてんの?」
「いやー、このゲーム自由すぎてさ。憧れの生産職になったのに、思ってたんと全然違うんだよ」
始まりの街ルーメンの東門を抜けた街道の上。
全身を銀色の金属鎧で固め、背中に立派な一発物の槍を担いだコウタが、呆れ果てたような顔で俺に視線を向けていた。
その隣を歩く俺はといえば、初期装備の質素な布服に、さっきギフトボックスから手に入れた【初心者用ピッケル】を肩に担いでいる。どこからどう見ても、これからダンジョンへ突撃するパーティの姿じゃない。
「まあ、護衛としてついてきてくれるのはマジで助かるわ。サンキュな、コウタ」
「へっ、礼には及ばねぇよ。これでも第1陣の先行組だからな! 2陣のお前に先輩の頼もしい背中ってやつを見せてやるよ」
そう言ってフッと鼻で笑うコウタ。相変わらずイキり方がわかりやすい奴だ。
だが言葉通り、道中に現れるレベル1〜2の【ウッドスライム】や【野良ウサギ】といった雑魚モンスターは、コウタが一突きの槍技でサクサクと片付けてくれた。
「ほら見ろ! この『スラスト』からの『サイドステップ』! 脳波同期の感覚に慣れれば、自分の体みたいに動けるんだぞ!」
「おおー、すげえすげえ。パチパチパチ」
棒読みで拍手を送りつつ、俺たちは目的の場所――ゴツゴツとした岩山にポッカリと口を開けたダンジョン『始まりの鉱山』へと到着した。
『――エリア進入:始まりの鉱山(推奨レベル:3〜5)』
うっすらと青白い光を放つ発光苔が壁を照らす洞窟内。ひんやりとした湿った空気が肌を撫でる。五感の完全再現を謳うクロノス社の『New World』だけあって、ダンジョンの空気感まで本物そっくりだ。
「よし、レイ。奥に行けば『岩石スライム』とかが出没するから、俺がヘイトを買ってる間にササッと掘れよ? 買い出しリストの鉱石ってなんだっけ?」
「えーっと、鉄鉱石10個、銅鉱石10個、魔鉱石3個だな」
「は!? 魔鉱石!? お前それ、初心者ダンジョンの最深部か、レア鉱脈からしか出ねぇやつじゃん! バルドってNPC、2陣の初心者に何要求してんだよ!」
「やっぱりそうなんだ……。ま、掘るしかないんだけどさ!」
俺は壁面に浮き出ている黒っぽい鉱脈に近づき、肩に担いでいたピッケルを構えた。
スキル【採掘 Lv.1】と【鉱石鑑定 Lv.1】が発動し、視界の隅に黄色いマーカーがぼんやりと表示される。
(ここを叩けば綺麗に割れるってことか……?)
すーっと息を吐き、身体の軸を意識してピッケルを振り下ろす。
――カァンッ!!
甲高い金属音が洞窟内に響き渡った。
腕に伝わるズシンとした手応え。手のひらに残る独特の痺れ。
視界にシステムメッセージが流れる。
【システム判定:ジャストヒット!】
最高効率で鉱床を破壊しました。
『高品質な鉄鉱石』×2 を獲得!
「うおっ!? 打撃感がマジで本物だ! え、たっのし……!」
「おいおいレイ、一発で2個出たのかよ!? しかも高品質って……お前、採掘の才能高すぎだろ」
「へへん、鍛冶師の初期ステータスはDEX(器用さ)が高いからな! よーし、どんどん掘るぞー!」
そこからの俺は無我夢中だった。
「カァン! カァン!」と心地よい音を響かせながら、壁の鉱脈を次々と砕いていく。
時折、音を聞きつけたモンスターが襲いかかってきたが、「お前ら、俺の作業の邪魔をするなー!」と叫びながら、コウタが槍で撃退してくれた。
「おいレイ! 奥の小部屋に光る鉱脈があったぞ! たぶんあれが魔鉱石だ!」
「マジで!? ナイスコウタ!」
コウタの誘導で辿り着いた洞窟の最奥部。そこには紫色の怪しい光を放つ鉱石が岩肌に埋まっていた。
俺は一気にピッケルを振り下ろし、見事に目標の【魔鉱石】を3個GET! 鉄鉱石と銅鉱石も目標数を大幅にオーバーして回収完了だ。
「っしゃああ! 買い出し素材、コンプリート!!」
「ふぅ……俺、ただのボディガードじゃなくて完全に『レイの作業要員』だったな……。まぁ、無事に集まって良かったわ」
肩で息をするコウタに感謝しつつ、俺たちはルーメンの街へと帰還した。
そして――時刻は夕暮れ時。
俺は再び、あの熱気溢れる工房『鉄槌の獅子亭』の暖簾をくぐっていた。
「バルドさん! 頼まれていた買い出し、集めてきました!」
奥でフイゴを吹いていたドワーフのバルドが、ハッと振り返る。
その顔には「どうせ手ぶらで泣きついてきたんだろ」と言いたげな意地悪な笑みが浮かんでいた。
「ふん、手ぶらで帰ってきたか。言ったろ、2000ルピじゃ全部は買えねぇって――」
ドンッ!!
俺は革袋から溢れんばかりの鉄鉱石、銅鉱石、そして怪しく光る魔鉱石を、金敷の横にある作業台へ叩きつけた。
「……あ?」
バルドの動きがピタリと止まる。
彼は信じられないといった様子で目を丸くし、おそるおそる作業台の魔鉱石を手に取った。
「これ……『始まりの鉱山』の最深部で採れる特級品じゃねぇか。おい、お前……渡した2000ルピはどうした?」
「ピッケルと採掘スキルで自力調達しました! お金はそのまま手つかずで残ってます!」
「……」
バルドは呆然と俺を見つめ、それから――「ハッ!」と大きく息を吐くと、腹を抱えて爆笑し始めた。
「ガハハハハハハッ!! 買い出しって言われて、足りねぇ分を自力で掘ってきただと!? まだ武器も持ったことないヒヨコが初日にそこまでやるか普通! ガハハッ、最高だ! お前、マジでイかれてやがる!」
【クエスト:買い出し(特殊クエスト)をクリアしました!】
【報酬:バルドからの信用 UP / 経験値 50pt 獲得】
【プレイヤーレベルが Lv.2 に上がりました!】
ファンファーレとともにレベルアップの光が体を包む。
バルドは笑い涙を指で拭うと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて俺の肩をバシッと叩いた。
「いい度胸だ、レイ! 約束通り、お前を俺の弟子と認めてやる! さっそく本物の鍛冶ってやつを教えてやるから、そのハンマーを握れ!」
「はいっ!! ありがとうございます!!」
ついに来た! 夢にまで見た『初鍛冶』の瞬間だ!
俺は胸を躍らせながら、腰の『初心者用スミスハンマー』を引き抜いて炉の前に立った。
(よし……まずはチュートリアル画面が開いて、『鉄の短剣』のレシピを選んで、自動作成ボタンを……)
空中にメニュー画面を呼び出そうと指先をフリフリしている俺を、バルドが「何やってんだこいつ」と言いたげな不気味な目で見つめていた。
「おいレイ、さっきから空中をペタペタ触って何してやがる? 善は急げだ、まずは炉の温度を1200度まで上げろ! そこのフイゴを休まず漕ぎ続けろ!」
「……え? あ、あの、バルドさん……『レシピ画面』とか『自動作成』のメニューはどこから開くんですか……?」
「あぁん?……ハッ、何言ってんだおめえ!? れしぴ画面ぁ? じどうさくせいぃ? 戯言抜かしてねぇでさっさとフイゴを踏め! 鉄の温度! 打撃の角度! 力加減! 全部お前の体と腕で覚えるんだよ!!」
「やっぱり手動なのーーーっ!?」
自動モードなんて親切設計はこの世界には存在しなかった。
熱風が顔を焼き、滝のような汗が噴き出す。
重いフイゴを必死に動かすだけで、ステータス画面の【STM】がみるみるうちに削られていく。
「温度が足りねぇ! もっと踏め!」
「あ熱い熱い熱い! 手が痺れる! スタミナがあと5しかない!!」
「次は金敷に置け! 黄金色になった瞬間を叩けぇぇぇ!!」
「うおおおおおっ!! カン! カン! カンッ!!」
必死の思いでハンマーを振り下ろすこと数分。
カンカンという重厚な金属音と、俺の絶叫が夕暮れの工房に響き渡った。
『――作成完了:【???】』
システム音が鳴り響き、金敷の上には、真っ赤に熱された一本の『金属の棒』が転がっていた。
俺はゼーゼーと肩で息を吐きながら、完成した自身の初作品のステータスウィンドウを開く。
【 ITEM STATUS 】
NAME : 鉄の短剣(?)
TYPE : 鈍器 / 叩き潰し具
QUALITY : 規格外(失敗作)
[ EFFECT ]
・攻撃力 : 12
・【効果】刃が完全に潰れているため、切断不能。
・【効果】打撃属性+50%(装甲破壊特化)
「……あれ?」
俺は自分の目を疑った。
そこにあったのは、刃が綺麗についた洗練されたファンタジーの短剣……ではなく。
何度も叩く場所や角度を間違えたせいで刃が完全に潰れ、ただの『めちゃくちゃ重くて頑丈な四角い鉄の棒』だった。
「短剣作ったはずなのに……打撃属性+50%の鈍器になってる……?」
「おいレイ、さっきから『ステータス』だの何だの呟いてどツボにハマってんのかと思えば……」
呆れたように完成品をひょいと持ち上げたバルド。
だが次の瞬間、その目が驚きで見開かれた。
「……ほう。初制作で刃を付けず、あえて構造を押し潰して『装甲破壊』に特化させた構造体を作るとは……。レイ、お前……天才か!?」
「いやいやいや! 違います! 普通に力加減間違えて失敗しただけです! ちゃんと切れる剣が作りたかったんです!!」
「ガハハハ! 遠慮するな! まさか初日からこんなイかれた武器を打ち上げるとはな! よし、明日からはこの『打撃特化型』の鍛造方法を深掘りするぞ!」
「そうじゃなーーーーーーーーーいっ!!」
夕闇に包まれる始まりの街ルーメン。
憧れの生産職ライフを開始した俺の叫び声が、虚しく工房の天井へ吸い込まれていくのであった。
ちなみに、ILOの生産職はリアルすぎる制作を必要としているわけではないです。
レシピを入手したり、鍛冶台やハンマー、錬金釜などそれぞれの職業にあった環境とスキルの恩恵などが整えば意外と楽をできます(ボタン一つではないけどレイのようなものではない)。
レイは楽をできることを知りません(事前情報を必要以上に読んでいないため)




