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VRMMOで憧れてた鍛冶職を取ったけど思ってたんと違う....  作者: ヤミラミ


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常夏の迷宮庭園攻略

海鮮丼の満足感を余韻に残したまま、レイは港町の西側へと足を向けた。


西門を抜けると、そこにはイベント用に拡張された特設エリアが広がっていた。青々とした海を背にそびえ立っているのは、大人の背丈を遥かに超える濃密な植物で構築された巨大な緑の壁群――『常夏の迷宮庭園』だ。


広場には多くのアトラクション参加者が集まっていたが、このイベントは挑戦者ごとに別空間へと転送される完全な「個別インスタンス形式」だ。そのため受付用NPCがずらりと並び、プレイヤーたちを次々と専用空間へ送り込んでいる。待ち時間はほとんどなく、列というほどのものも出来ていなかった。


入口付近のアナウンス掲示板や、挑戦を終えて戻ってきたプレイヤーたちの会話から、アトラクションの仕様が次々と耳に入ってくる。


「おい、生け垣を切ろうとしても『不可壊(Indestructible)』が出るのは当然として、足元の石畳を剣で叩いても傷一つつかねえぞ! エリア全体が壊せない設定だ!」

「しかもこれ、挑戦するたびに壁の配置からギミックの位置、パズルの正解手順まで全部ランダムに再構築されるらしいぜ。マッピングも攻略情報の使い回しも通用しねえ」

「地道に解くしかねえじゃん……」


掲示板の案内によれば、この迷路は単純な壁の行き止まりを当てるだけの運ゲームではない。


迷路の道中には、気まぐれに有益なヒントや嘘を混ぜて教えてくる『迷子のフェアリーNPC』が配置されていたり、プレイヤーを見つけると凄まじい速度で逃げ回る『ヒント・スプライト』と呼ばれる小鬼型のイベントモンスターが徘徊している。この素早い小鬼を追いかけて捕まえる(あるいは攻撃を当てる)ことで、正解ルートを示す「光の道しるべ」を一時的に獲得できるという、ゲーム的な遊び心がふんだんに盛り込まれたアトラクションなのだった。


「なるほど……挑戦ごとに変化するランダム生成の個別迷路で、道中のギミックを拾いながらゴールを目指すわけか」


レイは空いている受付NPCの前に進み出ると、迷いなく「ソロ挑戦」を選択した。


「『常夏の迷宮庭園』へようこそ! 転送を開始します。目指せ、最速走者!」


NPCの明るいアナウンスとともに視界が白い光に包まれ、次の瞬間、レイは静まり返った緑の壁の狭間に一人で立っていた。周囲の喧騒は完全に遮断され、頭上にはレイ専用のタイマーが「00:00:00」からカウントアップを始めている。


背後のスタート扉は固く閉ざされ、眼前に広がるのは三方に分かれた青々とした生け垣の通路だ。


レイは試しに大剣の柄で足元の石畳をコンと突いてみたが、金属音が響くだけで傷一つ付かない。当然、生け垣もビクともしない。完璧に独立したシステム不可壊領域だ。


「よし、まずは迷路の王道……『左手の法則』で行ってみるか」


レイは左側の壁に手を添えて歩き出した。


いくつもの角を曲がり、複雑に入り組んだ緑の通路を進んでいくと、曲がり角の先で体長30センチほどの小鬼モンスター『ヒント・スプライト』が姿を現した。


「ケケッ!」


小鬼はレイの姿を認識した瞬間、生意気な声をあげて凄まじいスピードで迷路の奥へと逃走を開始する。


この『ヒント・スプライト』、プレイヤーのステータスを参照して逃げ足が補正される仕様になっているため、足の速いレイが相手だと逃げるスピードも尋常ではない。まさに目にも留まらぬ俊敏さだ。


「……速いな。だが、逃がさないぞ」


レイは迷わず『左手の法則』をドブに捨てると、逃げる小鬼を目掛けて一歩を踏み出した。


ドオォンッ!!


不可壊の石畳に凄まじい踏み込みの衝撃が走り、空気を爆破させたかのような風切り音が跳ね上がる。STR全振りの脚力が生み出す推進力は、追跡ではなくロケットの噴射そのものだ。


「ケ、ケギャアアーーー!!?」


めちゃくちゃに早い逃げ足でぶっ飛ばしていたはずの小鬼が、背後からものすごい勢いで迫る人間の威圧感に白目を剥いた。


あまりの超加速に、レイ自身も途中で曲がり角を曲がり切ることなど端から考えていない。直線上の小鬼へ向かって、大砲の弾のようにそのまま突っ走る。


「捕まえた」


「ギャッ!?」


レイは逃げ惑う小鬼の首根っこを豪快に鷲掴みにした。


だが、勢いが全く殺しきれていない。


小鬼を掴んだままのレイは、その先にある曲がり角の生け垣に向かって、ものすごい勢いのままノーブレーキで豪快に突き刺さった。


ドッシャアアアンッ!!


システム不可壊(Indestructible)の生け垣はビクともしない。自身の爆発的な推進力がそのまま激突の衝撃として全身を襲い、レイの視界に強烈な警告ウィンドウが割り込んだ。


『判定:自爆・壁面衝突(超重量)により致死級大ダメージ!』


ピキィンッ! とレイの指先で緑色の光が弾けた。


『装飾品【古樹の守護指輪】の効果が発動しました!』

『HP1で踏みとどまりました。自動再生(最大HPの20%)および【ダメージ90%軽減】バフが5秒間付与されます』


自らのパワーで壁に激突し、即死しかけたところを高級アクセサリーの生命保険で無理やり生き延びるという惨状。分厚い葉と枝の壁に埋まったまま、レイはピクピクと足を揺らした。


(あ、危なかった……まさか生け垣への衝突で即死判定をもらうとは……指輪をつけていて助かった、のか……?)


『ヒント・スプライトを捕捉しました! 正解ルートエフェクトが10秒間表示されます』


レイの目の前、枝葉の隙間から見える床にゴールへ続く矢印の光が浮かび上がった。


「ふぅ……捕まえられたな」


首根っこを掴まれたまま恐怖で震える小鬼を解放してやると、モンスターは悲鳴を上げて壁の奥へと逃げ去っていった。生け垣から力任せに体を引き抜いたレイは、指輪のクールタイム発生(戦闘中1回のみ)に少し切ない気持ちになりつつ、頭についた葉っぱをパンパンと払いながら表示された光の矢印に従って走る。


光の道しるべが消えた先では、分かれ道の真ん中に可愛らしい翼を生やしたフェアリーNPCが浮かんでいた。


「やあ、冒険者さん! 私は道案内のフェアリー! 右の道には宝箱があるけど行き止まり、左の道が正解だよ! ……って言ったら、信じる?」


浮遊しながら意地悪そうに微笑むフェアリーの謎掛け。


生け垣に囲まれているため曲がり角の先は分からない。一般的なプレイヤーなら「嘘をついているのでは?」「どちらが真実か」と思案し、罠を警戒して疑うところだ。


だが、レイは少し考えると、あっさりと右の通路へと歩を進めた。


「本当なら宝箱は欲しいからね。まずは右に行ってみるよ」


「えぇっ!? ほ、本当に行くの!? 普通『どうせ嘘だろ』って疑うところでしょ!?」


まさか真に受けて行き止まりへ直行するとは思っていなかったフェアリーは、目を丸くして宙でじたばたしている。


その叫び声を背に受けながら曲がり角を曲がると、行き止まりに本当に装飾箱が鎮座していた。レイはそれを開け、イベント限定消耗品『常夏のココナッツジュース』をインベントリに回収。引き返して正規ルートである左の通路へと復帰した。


「本当に本当のことを言っていたんだね。助かったよ」


「嘘はついてないけど……なんか私の負けみたいで悔しいんだけどー!?」


タイムアタック中でありながら限定アイテムをしっかり回収し、満足そうに進むレイ。呆然としながら地団駄を踏むフェアリーを横目に、迷路の深部へと足を進めた。


道中のギミックを無駄なく(そして力技で)こなしながら進むこと数分。緑の壁が開け、周囲をぐるりと生け垣に囲まれた最奥の広いエリアへと辿り着いた。


その中央で、ズシン……と重厚な音を立てて起動したのが、最後の足止めとなる『巨大な迷宮ガーディアン(木偶のゴーレム)』だ。


エリアの手前にはご丁寧に親切なアナウンス看板が立っている。


『【挑戦者へのアドバイス!】

ガーディアンは挑戦者の強さに合わせて凄まじい耐久力に補正されているぞ!

そのまま戦うのは非常に危険だ! 周囲にある赤と青の床スイッチを正解の順番で踏み抜き、弱体化トラップを起動させてから戦おう!』


『【今回の解除条件】

① 奇数の赤パネル(赤1・赤3・赤5)は「大きい数字から順」に踏み、偶数の青パネル(青2・青4・青6)は「小さい数字から順」に踏むべし

② 最初に踏むのは「赤の最大値」、最後に踏むのは「青の最大値」である

③ 赤と青は必ず1枚ずつ交互に踏まねばならず、同色の連続入力は不可とする』


ゴーレムの周囲には『赤1』『青2』『赤3』『青4』『赤5』『青6』の計6枚のパネルが散らばっている。


解き方を論理的に導き出すと、


奇数(赤5➔赤3➔赤1)を降順、偶数(青2➔青4➔青6)を昇順


赤と青を交互に踏む


始点は「赤5」、終点は「青6」


したがって今回のランダム正解パターンは「赤5 ➔ 青2 ➔ 赤3 ➔ 青4 ➔ 赤1 ➔ 青6」。ゴーレムの広範囲攻撃を掻いくぐりながら広いエリアを縦横無尽に走り回る、思考力と精密な操作が要求されるギミックだ。


「……なるほど。正解は『赤5➔青2➔赤3➔青4➔赤1➔青6』か」


レイは看板の文面から一瞬で正解の走破手順を割り出した。割り出した上で――即座に思考を打ち切った。


「面倒なパズルを解く前に……とりあえず1発殴ってみるか」


背中から無骨な大剣を引き抜くと、身構える。


ゴーレムが巨大な丸太のような腕を振り上げ、広範囲攻撃の予備動作に入った瞬間。レイはスイッチの配置など端から無視し、踏み込み一歩で間合いを完全に潰した。


ステータス補正でガチガチに高められた岩石の装甲。だが、それに叩き込まれたのは「STR全振り」の理不尽なまでの超質量だ。


大剣の広い腹を両手でしっかりと握り込み、腰の捻りとともにフルスイングで叩きつける。


バグォォォンッ!!


「ガッ……!?」


直撃の瞬間、ゴーレムの巨体が軽々と宙に浮いた。


弱体化ギミック前提のHPと硬度を誇るガーディアンだったが、レイの規格外すぎる腕力によって発生した衝撃波とノックバック力までは相殺できなかった。数トンはある岩石の巨躯が砲弾のように水平射出され、背後の壁――システム不可壊(Indestructible)の生け垣へと猛スピードで突き刺さる。


ドッシャアアアンッ!!


レイ自身が先ほど体験した通りの悲劇が、今度はゴーレムを襲った。


ビクともしない絶対不可壊の壁と、レイの腕力が生み出した凄まじい運動エネルギーの間に挟み撃ちとなったゴーレム。逃げ場を失った巨大な圧力が内部から爆発し、全身に一瞬で致命的な亀裂が走り抜ける。


「ガ、ギ……ッ!?」


何が起きたのか理解できないまま、ステータス補正の頑丈さを生け垣のシステム判定に力任せに打ち砕かれたゴーレムは、そのまま豪快にポリゴン粒子となって弾け飛んだのだった。


「よし、ゴールだ」


大剣を背中に納め、レイはクリア判定の光を放つアーチへと足を進める。


『クリア! タイム:09分45秒』

『「常夏の迷宮庭園」クリア! 報酬を獲得しました』


【獲得報酬】

・限定アバター装備『潮風の迷宮覇者・羽織』

・特別称号『生け垣を破壊せんとする者』

・イベントコイン × 500


「少し強引だったが……まあ、よしとしよう」


生け垣にノーブレーキで突っ込んだ際についた葉っぱがまだ肩に乗っているのも気にせず、レイは手に入った『潮風の迷宮覇者・羽織』の性能と見た目をインベントリで確認しながら、満足そうに転送ポータルへと足を進めるのだった。

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