『古樹の回廊』中層
ダンジョンの浅層を駆け抜け、俺とコウタはさらに奥の中層エリアへと足を踏み入れていた。
浅層が巨大な樹木の根が張り巡らされた自然の迷宮だとしたら、中層は巨大な空洞の中に古代の石造建築が組み込まれた、幻想的かつ重厚な遺跡エリアだ。頭上高くに広がる天井からは、青白い光を放つ巨大な発光苔が垂れ下がり、広大な空間を淡く照らし出している。
そして、ここもまた浅層に負けず劣らず、プレイヤーたちの熱気と歓声で満ち溢れていた。
「うおっ、中層に入った途端、モンスターの密度が一気に上がったな!」
コウタが長槍を構え直し、鋭い眼光で周囲を警戒する。
通路の先、崩れかけた古代の石柱の周囲には、ツタが絡みついた石像の魔物『ガーゴイル・ルイン』の群れや、毒々しい発光胞子を脈動させながら漂わせる巨大な植物型モンスター『ポイズン・スパー』がひしめいていた。
【モンスター:ガーゴイル・ルイン】
【Level:35】
【モンスター:ポイズン・スパー】
【Level:34】
「樹海や浅層のやつらより頭一つレベルが高いな……だが、狩り甲斐がある! 範囲攻撃でまとめて巻き込んで処理するぞ!」
俺は大剣の柄を強く握り直し、先陣を切って跳び出した。
キィィィンッ!
ガーゴイルが甲高い威嚇音を上げ、空中で身を翻して鋭い石の爪を振り下ろしてくる。急降下による強烈な奇襲――だが、俺の視界にはその軌道がはっきりと見えていた。
大剣の広い刀身を斜めに掲げ、相手の爪を正確に滑らせるように受け流す。バルド師匠の手によって軸ブレを完全に削ぎ落とされた『深海鋼の重圧大剣』は、敵の質量を殺さずにそのまま俺の攻撃動作へとスムーズにエネルギーを転換してくれた。
「『重力脈同調』――ハァッ!!」
ガードの体勢からそのまま滑らかに腰を捻り、漆黒の重力光を纏わせた大剣を一閃。
ドバァンッ!!
強烈な横一文字の薙ぎ払いが、迫っていたガーゴイル二体を同時に叩き斬る。
『固有効果:過剰打撃』発動!
刀身が捉えた瞬間に発生する高密度の衝撃波が空間を揺らし、直接斬りつけた二体だけでなく、後ろで胞子を撒き散らそうとしていた『ポイズン・スパー』の巨体までもが衝撃波に巻き込まれて吹き飛んだ。激しく壁に叩きつけられ、岩肌を砕きながらポリゴン粒子となって弾け飛ぶ。
「相変わらずのバカ火力だな! 漏れた右のやつは俺がやる! 『スパイラルランサー』!」
コウタが疾風のような踏み込みで前に出ると、旋風を纏わせた長槍が高速回転を始める。穿つようなドリル状の突撃が、撃ち漏らしたガーゴイルの首元を一撃で穿ち抜いた。
「ナイス、コウタ! 勢いを殺さずにこのまま奥へ突き抜けるぞ!」
「おうよ! 狩って狩って狩りまくろうぜ!」
中層のあちこちで繰り広げられる戦闘は、まさに狩りの祭典だった。
俺たちのすぐ隣の区画では、フルパーティの攻略組が魔法職の連射で広範囲の雑魚モンスターをド派手に焼き払っている。お互いに交差するエフェクトと衝撃波の中、すれ違いざまにハイタッチを交わすようなノリがそこかしこにあった。
「ナイス撃破! いい火力してんな大剣使い!」
「そっちの魔法連携も最高だぜ!」
通りすがりに見知らぬプレイヤーと威勢のいい声を掛け合い、勝利の歓声を背に受けながら、俺たちはさらに奥へと突き進む。
そのまま1時間ほどノンストップの狩りを続け、俺たちは中層の最奥と思われる、巨大なドーム状の大ホールへと辿り着いた。
そこは一変して、息をのむような静寂と緊迫感が漂う空間だった。
ホールの周囲には、俺たちと同じように中層を突破してきた数組のプレイヤーパーティが足を止め、中央を遠巻きに眺めている。誰一人として迂闊に近づこうとしないその中心には、圧倒的な存在感を放つ巨大な異形が横たわっていた。
全身が幾重にも重なった硬質化樹皮と、古代の彫刻が施された硬質な石で覆われた巨大な四足歩行の獣。背中には結晶化した巨大な木々が生え揃い、その隙間から鈍い光を放っている。
【中層エリアボス:古樹の守護獣・グラビドス】
【Level:37】
「へっ……レベル37の中層エリアボスか。浅層の雑魚とは威圧感がまるで違いやがるな」
コウタが額の汗を拭いながら、不敵な笑みを浮かべて長槍を低く構える。
「ああ。あいつを倒せば、経験値とレアアイテムがが手に入りそうだ。」
俺の手元で、大剣が重厚な金属音を立てて身構える。
「あの、すみません。僕らがエリアボスに挑んでもいいですか?」
「いいぜ! 俺らは消耗してるし、誰も挑もうとしてないからな。いってきな!」
周りのプレイヤーたちからの視線が一斉に俺たちへと集まる中、俺とコウタは中層ボス『グラビドス』に向かって、一切の迷いなく力強く一歩を踏み出した。
『グオォォォォォンッ!!』
俺たちの接近を感知したグラビドスが、地鳴りのような咆哮を上げて立ち上がった。巨体に似合わぬ速度で前脚を踏み鳴らすと、ホールの石畳が爆発したかのように跳ね上がり、衝撃波が一直線に押し寄せてくる!
「コウタ、左右に分散だ!」
「合点!」
衝撃波を左右へのステップで回避し、挟み込む形でボスの懐へと肉薄する。
グラビドスが太い尻尾を大きく振るい、広範囲のなぎ払い攻撃を仕掛けてきた。以前の俺なら、大剣の重さに引きずられて回避が遅れるか、無理なガードで体制を崩していた場面だ。
だが、今の俺は違う。
振り下ろされる巨尾の軌道を見極め、大剣の刀身を滑らせるように接触させて攻撃のベクトルを上空へと逃がす。パリィに近い流動的な受け流し。軸ブレを削ぎ落とした相棒は、俺の思い描いた通りの軌跡を描いて敵の攻撃を完璧に捌ききった。
「隙だらけだぜ! 『ピアシングチャージ』!」
すれ違いざまにコウタが放った高速の刺突が、グラビドスの前脚の関節部分――硬質化樹皮の隙間にズスッと深く突き刺さる。
『グガッ!?』
「よし、ヘイトをもらった! レイ、叩き込め!」
「応ッ!」
体勢を崩したボスの側腹部へ踏み込み、大剣を上段高くに振りかぶる。
「『重力脈同調』――潰れろぉぉッ!!」
漆黒の重力光を纏った一撃が、グラビドスの背中の結晶を正面から撃砕した。
ズドォォォォンッ!!
強烈な衝撃波と重力波が体内に浸透し、巨獣が悲鳴を上げて崩れ落ちる。
「すごい……たった二人でエリアボスを完封してやがる……!」
「あの大剣使いの威力、なんだあれ!? ガード判定の上から強引に体勢崩したぞ!?」
ギャラリーのプレイヤーたちから驚愕と称賛の声が上がる。お祭り騒ぎの熱気の中、俺とコウタの完璧な連携が、ダンジョン中層の主を確実に追い詰めていく。
「まだまだ行くぞ! 次の層へ行くための足がかりにしてやる!」
俺たちの猛攻は、留まることを知らなかった。
なんと日間3位にランクインしました!!!!
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