雪辱を果たすリベンジマッチ
樹海の主である『フォレスト・バーサーカー』を倒し、レベル30へと上がった俺とコウタは、さらにその奥――イベント島の最深部へと足を踏み入れていた。
樹海の緑は次第に途切れ、周囲の景観はゴツゴツとした岩肌と、あちこちに赤く輝く鉱石が覗く、少し汗ばむような熱気を帯びたエリアへと変化していく。
ここは、島内でも有数の鉱床が存在する『太陽石の群生地』。
俺たちが初めてこのゲームで敗北を味わい、デスペナを食らって送り返された因縁の場所だ。
「……着いたな、レイ」
コウタが長槍の柄をぎゅっと握り直し、口元を引き締めながら低い声で呟く。
「ああ。打ち直したこの大剣と、さっき樹海で掴んだ感覚……そのままあいつにぶつけてやる」
俺は背中の『深海鋼の重圧大剣』の柄に手をかけた。バルド師匠の工房で重心を完璧に調整し、過剰打撃の威力をそのままに軸のブレを削ぎ落とした相棒。その冷たい金属の感触が、高鳴る鼓動を静かに鎮めてくれる。
赤く光る太陽石が群生する開けた岩場へと足を踏み入れたその時だった。
ズズズ……ッ!!
地響きと共に太陽石の群生地が激しく揺れ、地表の鉱石と熱気を纏った岩石が集まりながら、巨大な影が立ち上がった。
太陽石の光を全身に宿し、巨大な岩石の巨躯を構成している変異種の化け物。
視界の端に、あの日俺たちの絶望となった赤いターゲットウィンドウが表示される。
【変異種レアモンスター:マグマ・ゴーレム】
【Level:42】
「出てきたな……レベル42の変異種レアモン!」
コウタが長槍を鋭く低く構え、鋭い眼光で敵を睨みつける。
相手はLv.42。Lv.40のコウタにとっても格上であり、Lv.30の紙耐久の俺からすれば、かすっただけで一撃死する圧倒的なオーバーキル級の怪物だ。
『グオォォォォンッ!!』
マグマ・ゴーレムが巨大な岩石の腕を振り上げると、周囲の空間全体が激しい赤光と熱波で染まった。
だが、あの日のように焦りや絶望はない。
「コウタ、行くぞ! 俺たちの連携と、新しくなったこの大剣がどこまで通用するか……見せてやる!」
「おうよ! 借りを返す時だ!!」
『グオォッ!』
マグマ・ゴーレムが巨体に似合わぬ爆発的な速度で踏み込んできた。あの日、俺のガードごと粉砕した隕石のような右拳が、風圧と熱気を伴って凄まじいスピードで迫る!
(速い……! だが、見えている!)
ドッガァァンッ!!
爆発的な衝撃と共に岩場が粉砕される。
だが、俺は着弾の直前、最小限のステップで左側へとスライド移動していた。
(かわせる……! 重心移動が完璧だから、マグマゴーレムのスピード相手でも回避が間に合う!)
「コウタ、ヘイトを頼む! 弱点の太陽石を狙うぞ!」
「任せとけ!『ピアシングチャージ』!」
コウタが疾風のような踏み込みで長槍を突き出し、ボスの足元へ急接近。槍先が音を置き去りにするような高速の連続突きの閃光を放ち、高熱の肉体に冷たい鉄の刺突を刻み込んで一瞬でターゲットの意識を自身へと引きつける。
『グガァッ!?』
マグマ・ゴーレムが苛立ったようにコウタへ向かって巨体を反転させたその瞬間、俺はすでにその無防備な側腹部――激しく光る太陽石の結晶部分へと深く踏み込んでいた。
「ハァッ!!」
腰の回転を乗せ、大剣を横一文字にフルスイングする!
ガキンッ! と硬い結晶を叩く激しい金属音が響き渡る。
『固有効果:過剰打撃』発動!
ドバァンッ!!
Lv.30とLv.42という絶望的なレベル差による強力な防御補正を無視し、強烈な衝撃波がボスの体内にダイレクトに浸透。太陽石の核に巨大な亀裂が走り、赤く輝く鉱石の破片が飛び散った。
『グアァッ!?』
「効いてる……! 格上だろうが、打ち直した俺の大剣は届く!」
痛みに悶絶するボスが、腹いせのように太い岩石の腕を周囲へとなぎ払ってくる。
あの日なら大振りの後の隙を突かれて直撃していた場面だ。しかし、軸ブレを削ぎ落とした今の大剣は、振り抜いた勢いをそのままバックステップへの強力な推進力へと変えられる!
滑るように後方へ離脱し、なぎ払いを間一髪で回避。
「まだまだ行くぞ……『重力脈同調』!」
俺のSTR上昇に同調し、大剣の刀身が禍々しい漆黒の重力光を纏う。
着地の勢いを殺さず地面を力強く蹴り上げ、再びボスの懐へと飛び込んだ。
「潰れろぉぉッ!!」
上段からの全力叩きつけ!
漆黒の重力波が刀身から解き放たれ、ボスの頭部を直撃した。
ズドォォォォンッ!!
「グオオオオオッ!?」
マグマゴーレムの巨体が耐え切れずにひざまずき、地面に激しく叩きつけられる。完全にダウン状態だ!
「今だコウタ! 一気に畳みかけるぞ!」
「任せろ!『スパイラルランサー』!」
コウタが長槍を激しく回転させながら跳躍し、渦打つ貫通撃をダウンしたボスの首元へ一直線に突き立てる。
俺も息を合わせ、大剣を連続で振り下ろし、完璧な連携でボスの高いHPゲージをゴリゴリと削り取っていった。
大剣の手応え、コウタとの完璧な連動。あの日手も足も出なかった化け物のHPが、みるみるうちに削れていく。
そして――ボスのHPゲージが半分、50%のラインを割り込んだその瞬間だった。
『……ル……ァ……』
マグマ・ゴーレムの動きがピタリと止まった。
周囲に群生する太陽石が一斉に激しく明滅し始め、ボスの全身の結晶が、眩いばかりの狂暴な白熱光を放ち始める。
「な……なんだ!? モンスターの動作が変わった……!?」
コウタが危険を察知して咄嗟に距離を取る。
俺も大剣を構え直して身構えたが、ボスの変化はこれまでの攻撃パターンとは完全に一線を画していた。
広場の中心で引き締まったボスの巨体が、内側からの膨大な圧力で膨張するように歪み、背中の太陽石が激しい高熱を帯びて破裂し始める。
『グガァァァァァァァアアアアッッッー!!!!』
ボスの咆哮と共に、俺たちの足元の岩場全体に、縦横無尽の巨大な赤い魔法陣と太陽石の光の亀裂が一瞬で張り巡らされた。その範囲は岩場全体を覆い尽くすほどの圧倒的な広さ。
逃げ場がない。
「コウタ! ガードを固めろ!!」
「無理だレイ! 範囲が広すぎる……足元から直接爆発が――!?」
次の瞬間、地面の太陽石が一斉に脈動し、超高熱のプラズマ爆風が、圧倒的密度で爆発的に吹き荒れた。
ドッガァァァァァァァァンッッ!!!!
広場全体が激しい白光と灼熱の渦に飲み込まれる。
「ガハッ……!?」
大剣を全力で盾にし、両足を踏ん張ってガード体勢を取った。だが、足元の岩場そのものが爆発する攻撃の前に、踏ん張りなど何の意味もなさなかった。
衝撃波は大剣のガード判定を容易く貫通し、全身を焼き尽くすような超高熱のダメージが襲いかかる。
視界が一瞬で真っ赤に染まり、HPゲージが狂ったような勢いで激減していく。
(速い……! そして広すぎる……! これが、HP半分以下で解禁される初見殺しの広範囲攻撃……!)
耐え切れるはずもなかった。
Lv.42の変異種が解き放つ、回避不能の全画面破滅攻撃。
隣で長槍を構えて防御体勢を取っていたコウタの体が、光の弾丸のように吹き飛ばされ、一瞬でポリゴン粒子となって砕け散るのが見えた。
「コウタ……!」
俺の視界もまた、眩い真っ白な光へと包まじっていく。
【HPが 0 になりました】
【デスペナルティが発生します】
浮遊感。そして全身の感覚が消え去っていく、あの暗転。
(あー……またやられた……。HP半分からの初見殺し、マジで容赦ねえな……)
漆黒の暗闇の中で、俺は呆れ半分、悔しさ半分の苦笑を漏らしていた。
だが、前回の敗北とは決定的に違っていた。手も足も出ずに押し潰されたあの時とは違い、今回は奴のHPを半分まで削り、大剣の攻撃を完璧に叩き込むことができたのだ。
「……痛たたた」
次に目を開けた時、視界に広がっていたのは潮風が吹き抜ける木造の埠頭と青い海――イベントマップの拠点である『港町』のセーブポイントだった。
隣を見ると、同じように頭を抱えて座り込んでいるコウタの姿があった。
「うわぁあぁ! マジかよ! HP半分削ったところで全体即死攻撃とか聞いてねえよ! 完全に初見殺しじゃねえか!」
コウタが頭を掻きむしりながら叫ぶ。俺は起き上がり、自分の手を見つめた。
「……ああ、完全にやられたな。だが」
俺の口元には、自然と確信に満ちた笑みが浮かんでいた。
「大剣の動きは完全に通用した。あの防護殻の上からでも、俺の攻撃はしっかり削れたし、通常の攻撃なら紙一重でかわすこともできた」
「レイ……お前、二度目のデスペナ喰らってんのに何でそんな嬉しそうなんだよ!」
「だってそうだろ? あいつのHPを半分削るとあの全体攻撃が来るって分かった。なら、次はあの発動モーションが入る前に火力を集中させるか、範囲外まで一気に離脱するか対策のアイテムを準備すれば確実に勝てる」
大剣を打ち直し、実戦で試した手応えは本物だった。足りなかったのは『HP50%以下の特殊ギミックに対する対策』だけだ。
「よし、コウタ。念入りに準備したら、もう一度あのマグマ・ゴーレムを殴りに行くぞ。次は絶対に、あいつを叩き潰す!」
「ヘッ……言われなくてもあのクソゴーレム、次は絶対粉々に砕いてやるぜ!」
俺とコウタは顔を見合わせ、港町の広場で不敵な笑みを交わした。
二度のデスペナルティを経て、俺たちのリベンジへの炎は、さらに激しく燃え上がっていた。
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