エリアボスとの遭遇
樹海の深部へ進むにつれ、周囲の樹木はさらに巨大化し、まるで巨人のあばら骨のように歪んだ枝が空を覆い尽くしていた。足元には不気味な紫色の苔が密生し、空気中には鼻を突くような強い魔力の臭気が漂っている。
「レイ、気をつけて進もう。ここから先の気配、さっきまでの比じゃないぞ……」
コウタが長槍の柄を握り直し、穂先を鋭く低く構えながら注意を促す。
「ああ、分かってる。レベリングには打ってつけの相手が出てきそうだな」
俺たちは足音を殺しながら、開けた広場のような空間へと踏み出した。その中心には、落雷で打たれたかのように巨木が真っ二つに裂けた、広大な円状の空間が広がっていた。
『ルァァァア昂ッ―――!!!』
突然、鼓膜を裂くような咆哮が樹海全体を揺らした。
地響きと共に裂けた巨木の影から姿を現したのは、今まで出会ったどのモンスターとも一線を画す異形の巨躯だった。
体長は五メートルを超え、四本の大角を生やした巨大な熊の姿をしている。その皮膚は生き物というよりも黒鉄の岩石で覆われており、背中からは巨大な結晶が棘のように幾重にも突き出していた。
視界の端に赤いターゲットウィンドウとステータスが表示される。
【エリアボス:フォレスト・バーサーカー】
【Level:38】
「レベル38か……!」
コウタと同じレベル帯のボスだ。Lv.28のSTR極振りの俺からすれば、攻撃が掠れば一発で持っていかれかねない格上の相手。だが、その圧迫感を前にしても俺の心は静かに研ぎ澄まされていた。
「コウタと同等レベルか……新生した大剣のテスト相手として申し分ない!」
俺は背中から『深海鋼の重圧大剣』を一気に引き抜いた。ズシリと手元に伝わる重みが、今の俺には恐しいほど心地いい。
『グオォッ!』
レベル38の巨躯から繰り出される速度で、ボスが大地を蹴った。大太刀のような巨大な前脚が、凄まじい風圧を伴って俺の頭上へと振り下ろされる!
ドガァァンッ!!
衝撃で地面が爆発したかのように弾け飛び、土煙が舞う。
だが、俺は攻撃が着弾する直前、最小限のステップで右側へと滑り込んでいた。
(見切れる……! 重心移動がスムーズだから、レベル差のあるスピード相手でも紙一重の回避が余裕で間に合う!)
「コウタ、ヘイトを頼む! 弱点を狙うぞ!」
「了解っ!『ピアシングチャージ』!」
同レベル帯のコウタが鋭い踏み込みと共に長槍を突き出し、ボスの足元へ急接近。槍先が音を置き去りにするような高速の三連突きの閃光を放ち、一瞬でターゲットの意識を自身へと引きつける。
ボスが苛立ったようにコウタへ向かって巨体を反転させたその瞬間、俺はすでにその無防備な側腹部へと踏み込んでいた。
「ハァッ!!」
腰の回転を叩き込み、大剣を横一文字にフルスイングする。
ガキンッ! と硬い岩石甲殻を叩く金属音が響くが、今の相棒の威力はそんなものでは終わらない。
『固有効果:過剰打撃』発動!
ドバァンッ!!
Lv.28とLv.38という格上とのレベル差による防御補正を無視し、強烈な衝撃波がボスの体内にダイレクトに浸透。黒鉄の皮膜に巨大な亀裂が入る。
『グアァッ!?』
痛みに悶絶するボスが、腹いせのように太い尾をなぎ払ってきた。
以前なら大振りの後の隙を突かれて直撃していた場面だ。しかし、軸ブレを削ぎ落とした今の大剣は、振り抜いた勢いをそのままバックステップへの推進力へと変えられる!
滑るように後方へ離脱し、尾のなぎ払いを間一髪で回避。
「まだまだ行くぞ……『重力脈同調』!」
俺のSTR上昇に同調し、大剣の刀身が禍々しい漆黒の重力光を纏う。
着地の勢いをそのまま利用し、地面を力強く蹴り上げて再びボスの懐へと飛び込んだ。
「潰れろぉぉッ!!」
上段からの全力叩きつけ!
漆黒の重力波が刀身から解き放たれ、ボスの頭部を直撃した。
ズドォォォォンッ!!
「グオオオオオッ!?」
エリアボスの巨体が耐え切れずにひざまずき、地面に激しく叩きつけられる。完全にダウン状態だ!
「今だコウタ! 一気に畳みかけるぞ!」
「任せろ!『スパイラルランサー』!」
コウタが長槍を激しく回転させながら跳躍し、渦打つ貫通撃をダウンしたボスの首元へ一直線に突き立てる。
俺も息を合わせ、大剣を連続で振り下ろし、完璧な連携でボスの高いHPゲージをゴリゴリと削り取っていった。
数分後――。
樹海の主の巨体が限界を迎え、閃光と共に膨大なポリゴン粒子となって弾け飛んだ。
【経験値を獲得しました】
【プレイヤーレベルが上がりました!】
【レイ:Level 28→ 30】
【レア素材:『剛鉄の熊角』を獲得しました】
静寂を取り戻した樹海の中で、俺とコウタは荒い呼吸を整えながら顔を見合わせた。
「勝った……! レベル38のボス撃破だ!」
コウタが長槍を回転させて背中に回し、興奮気味に拳を突き出してくる。
「ああ。手応えはバッチリだ。レベル差があっても、大剣の調整と俺たちの連携で押し切れた」
俺は手に残る感触を確かめ、背中の鞘へと相棒を収めた。
あの日、レアモンに惨敗して初デスペナを食らった時の屈辱。あれから鍛冶場で叩き直した大剣と、実戦で研ぎ澄ませた立ち回り――Lv.38のボスを圧倒できた今の俺たちなら、あの時の絶望を越えられる。
「準備は整ったな、レイ」
「ああ。待たせたな……今度こそ、あのレアモンの首を獲りに行くぞ!」
俺たちは樹海の出口へと視線を向けた。その先には、因縁のレアモンが待つ最奥地エリアが広がっている。
雪辱のリベンジマッチへ向け、俺たちは迷いない足取りで歩み出した。
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