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VRMMOで憧れてた鍛冶職を取ったけど思ってたんと違う....  作者: ヤミラミ


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相棒の強化

カンッ……! カンッ……! カンッ……!


重厚な熱気が立ち込める工房内に、力強い金属音が一定のリズムで響き渡る。

大型の炉から放たれる圧倒的な熱波に肌を焼かれ、全身から滝のような汗が噴き出していたが、俺は一切の視線を逸らすことなく、一心不乱に『深海鋼の重圧大剣』へと金槌を打ち下ろしていた。


「レイ! 腕の力で叩くなと言ったはずだ! 腕の引きではなく、腰の回転と金槌自体の重みを乗せろ! 刀身の奥にある微細なブレを殺すなら、芯の歪みをミリ単位で正確に叩き出せ!」


「はいっ……!!」


横で腕を組み、鋭い眼光を向けるバルド師匠から容赦のない喝が飛ぶ。俺は荒い呼吸を整え、額から流れ落ちる汗を腕で雑に拭うと、赤く加熱されて怪しい光を放つ大剣の刀身へと再び集中を注ぎ直した。


露店街で偶然手に入れた、伝説級の鉱石『星辰鉄』の破片。

あの凄まじい密度と重みを目にしたことで、俺の中に眠っていた鍛冶師としての血が激しく滾っていたのは紛れもない事実だ。だが、今の俺にはあの鉱石を活かし切るだけの技術も、形にするための量も足りない。


無理に今削って使い潰すのではなく、相応しい時が来るまで大切に保管する――師匠の言葉を受け入れ、己の未熟さを自覚したからこそ、今やるべきことは明確だった。


まずは今持てる全力を、相棒であるこの大剣に叩き込むことだ。


(イベント島での敗北……あれは俺のプレイヤースキルだけの問題じゃなかった。武器の『馴染み』と『微調整』が圧倒的に甘かったんだ)


大剣という武器種は、圧倒的な重量と破壊力が最大の魅力だ。重量850という極めて重いこの刃は、片手でも扱える柔軟性を持つ反面、力任せに振り回すだけでは攻撃の瞬間に生じるわずかな『軸のブレ』によって遠心力が分散し、スキルの発動速度や威力を削いでしまう。さらには振り抜いた後の大きな隙を生み出し、格上のレアモンのような強敵にはその隙を的確に突かれて殺される。


『過剰打撃』による装甲無視の衝撃と、『重力脈同調』によるSTR比例の破壊力。この大剣が持つ破格の性能を、極限まで死なさず引き出すための重量バランスの再構築。

初デスペナの瞬間に感じたあの無力感、自分の攻撃が届かなかった悔しさを思い出しながら、俺は一槌一槌に魂を込めて叩き込んでいく。


カンッ……! カンッ……! カンッ……!


金属と金属が激しくぶつかり合い、火花が夜空の星のように工房内に飛び散る。

叩くたびに、深海鋼の内部に溜まっていた目に見えない微細な気泡や不純物、そしてこれまでの激戦で生じていた鋼の歪みが弾け飛び、青黒い刀身が凝縮され、より一層密度を増して引き締まっていく。


「ほう……いい面構えになってきたじゃねえか。ただ鉄を叩くんじゃねえ、叩くたびに武器の『声』を聞こうとしてやがる」


作業場の一角で、熱気に耐えながら作業を見守っていたコウタに対し、バルド師匠が満足そうに顎鬚を撫でながら低く呟いた。


「レイのやつ、普段は能天気で適当なところもありますけど……鍛冶台の前に立って金槌を握ってるときは、本当に別人の顔になりますね」


コウタの言葉に、バルド師匠はククッと喉を鳴らして笑った。


「職人なんざみんなそんなもんだよ。自分が打った物に命を預けるんだ、本気にならねえ方がおかしい。あいつはまだ駆け出しの未熟者だが、自分の技術の限界と素材の価値を素直に受け入れた。星辰鉄を無理に散らさず保管したのも正解だ。己の器が広がり、本物の職人になったとき、あの石は必ず伝説の逸品へと化ける」


「へえ……バルドさんがそこまでレイを買ってるなんて、ちょっと驚きました」


「ハッ、面と向かっては言ってやらんがな! だが、あいつのあの貪欲な目は嫌いじゃねえよ」


二人の会話すら耳に入らないほど、俺は完全に没頭していた。

視界に映るのは、炉の火光に赤く染まる深海鋼の刀身と、手に伝わる金槌の手応えのみ。


(ここだ……! 鍔から刀身へ繋がるこのラインの重みを、ほんのわずかに削ぎ落として重心を握り手側へと寄せる……!)


トン、カンッ! トン、カンッ!


リズムを変え、繊細な打撃で鋼の表面を滑らかに整えていく。

鋼が冷えて赤みが引いてくれば、再び巨大なハサミで刀身を掴み、灼熱の炉の中へとくべる。炎が鋼を包み込み、適温に達した瞬間を見計らって取り出し、再び叩く。この繰り返しだ。


鍛冶スキルが上昇していることを知らせるシステムログが視界の隅に表示されたが、今の俺にはそんな通知すらどうでもよかった。目の前の大剣が、自分の意図通りに研ぎ澄まされていく感触だけがすべてだった。


「よし……成形完了だ! 師匠、焼き入れに入ります!」


「おう! 油断すんじゃねえぞ、ここ一番でしくじったら今までの苦労が水の泡だ!」


「了解です!」


俺は熱せられた大剣を慎重に持ち上げ、作業台の脇に用意された特殊な冷却液の槽へと、一気に、そして垂直に沈め込んだ。


ジューーーーーーッッ!!!!


激しい沸騰音とともに、一瞬で視界を奪うほどの白い水蒸気が爆発的に立ち昇る。工房全体が濃い煙に包まれ、ジリジリと鋼が引き締まっていく独特の音が響いた。


数分後、蒸気が薄れるのを待って、俺は液中からゆっくりと大剣を引き揚げた。


薄暗い工房の中で、水気を弾くその刀身は、以前のような無骨な青黒さだけではなく、まるで深海の底から汲み上げたかのような、静かで澄んだ蒼い光沢を纏っていた。

刃先は恐ろしいほどに研ぎ澄まされ、余分な肉が削ぎ落とされたことで、巨大でありながらも洗練された美しさを漂わせている。


「……できた……!」


俺は息を呑み、新しく研ぎ直された大剣のしっくりと手に馴染む感触を確かめた。


重みや破壊力を一切損なうことなく、振り抜き時のブレが劇的に軽減されている。これなら『重力脈同調』による強烈な衝撃波を放った後でも、瞬時に次の行動へと移行できるはずだ。


「ほう……どれ、見せてみろ」


バルド師匠が歩み寄り、俺の手から大剣を受け取った。

ズシリとした重みを確かめるように片手で軽く持ち上げ、刀身の反りや刃のつき具合を鋭い目で見つめる。


そして、静かに工房の試打用木人に向かって、片手でありながら目にも留まらぬ速さで大剣を振り下ろした。


ドカァンッ!!


爆音と共に、頑丈な試打用木人が真っ二つに叩き割れる。


「……フン。筋の通ったいい刃だ。叩き出しの粗さはまだ残っちゃいるが、自分の戦闘スタイルと武器の特性をよく理解して打たれている。上出来だ、レイ」


師匠が大剣を俺に手渡しながら、満足そうにニヤリと笑った。


「サンキュー、師匠! 師匠のアドバイスがなかったら、ここまで仕上げられませんでした!」


「ガハハ! 礼なら次の戦いで勝ってから言え! その武器に恥じない戦いをして見せろよ!」


「当然です!」


俺は大剣を背中の鞘へと収めた。カチリと心地よい金属音が響き、背中に伝わる重みが以前よりもずっとしっくりと身体に馴染むのを感じた。


インベントリの奥深く、大切に格納された『星辰鉄の破片』。

いつかあの伝説の鉱石を自分の手で打ち込み、世界を驚かせるような最高の逸品を鍛え上げる。その目標ができたことで、俺の胸の中には鍛冶師としての新たな熱がフツフツと湧き上がっていた。


「待たせたな、コウタ! 準備完了だ!」


振り返ると、壁に寄りかかっていたコウタがパッと顔を上げ、楽しそうに不敵な笑みを浮かべた。


「おう! 待ちくたびれたぜ。打ち直されたその大剣の威力、楽しみにしてるからな!」


「もちろんだ。今度の俺たちは前と違うぞ」


初デスペナの敗北という屈辱を糧に、俺たちは確かな強さと調整を終えた相棒を手に入れた。

太陽石の熱気が満ちる『始まりの街』を後にし、俺とコウタは再びイベント島への転送陣へと足を進める。


いきなりあのボスに突撃して返り討ちに遭っちゃ意味がない。まずは研ぎ澄まされたこの刃の威力を確かめつつ、イベントエリアをもう一度巡って実戦の勘をより洗練させていこう。


レベル上げと探索を兼ねた新たな冒険が、今再び始まろうとしていた。

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