イベントエリアの散策
デスペナの全ステータス10%低下デバフが消えるまでの制限時間は、リアル時間で一時間。
イベント島での激戦(という一方的な蹂躙)から一転、俺とコウタは日差しが心地よいイベント特設拠点『サマーポート』の石畳をのんびりと歩いていた。
「しかし、イベント初日なだけあって、この街もすごい熱気だな」
「だなあ。攻略組や上位陣は一目散にジャングルやダンジョンへ乗り込んでるけど、生産職やライト層、露店商人はこの港町を拠点に商売してるみたいだ」
コウタの言う通り、イベント島への玄関口である広大な港町の大通りには、色鮮やかな露店がずらりと並んでいた。
島で採掘された珍しい南国の木の実や魚、涼しげなイベント限定衣装の試作品、果ては海のモンスターからドロップしたと思われる怪しい素材まで、多種多様な品が売り出されている。
「お、レイ! あそこの露店、南国風の串焼き売ってるぞ!」
「おう、行ってみようぜ」
露店から漂う香ばしいタレと炙った肉の香りに誘われ、俺たちは屋台へと歩み寄った。
【料理:ボア肉のトロピカル串焼き】
品質:上級
効果:満腹度回復。5分間、火属性耐性(小)上昇。
「へいらっしゃい! イベント島の『ワイルドボア』の肉に、現地で獲れた甘酸っぱい果実のタレを絡めて焼き上げた逸品だよ!」
威勢の良い生産職の店主から串焼きを一本ずつ購入し、豪快にかぶりつく。
「ん! うまい! 肉汁がジューシーで、甘辛いタレが絶妙に合うな!」
「デスペナ後の体に染み渡るわ……。腹も膨らんだし、次は素材系の露店巡りといきますか」
串焼きを平らげた俺たちは、腹ごしらえを終えてさらに奥の露店街へと足を向けた。
鍛冶師としての習性か、俺の目はどうしても鉱石や金属素材を取り扱う露店へと吸い寄せられてしまう。多くの露店では、イベント島で手に入る『太陽石』や『波紋の銀砂』が早くも高値で取引されていた。
「やっぱり太陽石はどこも高値だな。さっき俺たちが採掘した分、そのまま売るだけでもかなりの金になりそうだ」
「まあ売らないけどな。レイの炉の燃料になるんだろ?」
「もちろん。自分の武器や防具の強化に使うのが一番だ」
そんな会話を交わしながら、通りのはずれにある少し寂れた露店の前を通りかかった時のことだ。
他の露店が「イベント限定素材!」と華やかに看板を掲げている中で、その露店は地味な布を敷き、整頓もされずに雑多な鉱石の屑やガラクタ同然の素材を並べていた。店主の男も退屈そうにあくびを噛み殺している。
(ん……?)
ふと、その露店の片隅に転がっていた、黒ずんだ小さな石の破片に目が留まった。
見た目はただの焦げた溶岩の欠片のようだが、何故か引っかかるものがあった。
俺は足を止め、その露店の前にしゃがみ込んだ。
「いらっしゃい……って、お兄さん、そんなガラクタに興味あるのかい?」
店主が意外そうな顔で話しかけてくる。
「ちょっと気になってな。これ、どこで拾ったんだ?」
「それか? ジャングルの中央へ向かう途中の崖崩れ跡で見つけたんだがな。鑑定スキルを使っても何も表示されねえし、叩いても削れもしねえんだよ。ただのイベント外のシステム外オブジェクトか『ゴミ素材』だろ」
店主は投げやりな調子で言う。
俺は気になり、自身の『鉱石鑑定』を集中して発動させてみた。
【雑多な石の破片?】
品質:不明
概要:詳細不明。
画面に表示されたのは、拍子抜けするほど素っ気ないエラーのようなウィンドウだけだった。
(鑑定スキルじゃ何も判別できない……だが)
俺は手袋を外し、その黒ずんだ石の破片にそっと指先で触れてみた。
ずっしりとした異常なまでの密度と、掌にほんの僅かに伝わってくる不気味なほどの「重圧」。
(この手触り……この重み……ただの石ころなわけがない。俺の作った『深海鋼の重圧大剣』と似た、いや、それ以上に凄まじい金属の素質を感じる)
システムの説明文ではなく、これまで何十本もの武器を叩き上げてきた鍛冶師としての皮膚感覚と直感が、激しく警鐘を鳴らしていた。これはただのゴミじゃない。
「これ、いくらだ?」
「え? 買うのか? 鑑定も通らねえゴミだぞ? ……まあ、1,000ゴールドでいいよ」
「買った」
俺は即座に1,000ゴールドを支払い、その黒ずんだ破片を買い取った。
「毎度あり……変わった物好きなお兄さんだなあ」
露店を後にすると、横で見ていたコウタが呆れ半分、興味津々半分といった顔で覗き込んで来た。
「おいおいレイ、またなんか怪しい素材買い込んだな? 鑑定も通らないような石だろ?」
「システムが教えてくれないなら、自分の手で確かめるまでさ。この重みと感触……絶対にただの石じゃない。鍛冶屋の勘が言ってるんだよ、これは凄い掘り出し物だってな」
「お、大ヒット作を作る直前の顔だな。デバフが切れたら、一度転送陣で始まりの街へ戻ってバルドさんの工房で調べてみるか?」
「ああ、そうしよう。あの親父さんなら何か知ってるかもしれないし、炉に入れて叩いてみるのが楽しみで仕方ないぜ」
未知の素材との出会いに胸を躍らせていると、視界の端のデバフタイマーがゼロを示し、全身の重苦しさが綺麗に消え去った。
「よし、デバフ解除完了だな!」
「おう! それじゃ決まりだな。早速転送陣を使って、始まりの街のバルドさんの工房へ突撃するとしますか!」
俺はインベントリに収めた謎の破片の確かな重みを確かめ、背中の大剣をグッと担ぎ直した。
もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです!
ブックマーク登録もあわせてしていただけると、作品を続ける大きな励みになります!




