狩りと採集とプレイヤー
『クリスタル・ヤドカリ』を撃破し、浜辺でいくつかの素材を拾い集めた後、俺とコウタはビーチを外れてジャングルの入り口へと向かった。
頭上を覆う巨大な椰子や見たこともない熱帯植物の群生。一歩足を踏み入れると、海風が遮られ、熱帯特有の蒸し暑い湿気と濃い草の匂いが肌にまとわりついてくる。
「うわ、急に蒸し暑くなったな……。まあ、ダンジョンの中に比べたら開放感はあるけど」
コウタが額の汗をぐっと手甲で拭いながら、長槍を警戒気味に構え直す。
「足元気をつけろよ。根っこや泥で足場が悪い。この大剣は重いから、足場を取られると振り遅れる」
「了解。でもレイなら、足場ごと力任せに吹き飛ばしそうだけどな」
冗談交じりに笑い合いながら、俺たちは鬱蒼と茂る樹海を奥へ奥へと進んでいった。
『鉱石鑑定』を発動しつつ周囲の岩場や木々の根元に目を走らせる。
ジャングルに入ってすぐの場所では、樹液が固まった『琥珀の欠片』や、熱帯の強烈な日差しを吸い上げた『太陽石』の小さな原石がいくつか落ちていた。
「よし……『太陽石』の小さめなやつを発見。熱処理用の温度維持材として使える優秀な素材だ。やっぱり中に入ってみるもんだな」
手頃な鉱石をピッケルで丁寧に削り取り、インベントリに収納していく。
イベント初日ということもあって、まだ誰も手をつけていない手付かずの採取ポイントがそこら中に残っているのはありがたい。
そうやって二人で静かに探索と採取を続けていた時だった。
――ガンッ!! ガガッ!!
「くそっ、弾かれた! 皮膚が硬すぎる!」
「慌てるな! タンク、ヘイト維持しろ!」
少し離れた樹木の奥から、金属が硬い物体に弾かれる甲高くて重い音と、プレイヤーたちの切迫した声が耳に届いた。
「ん……? 誰か戦闘中か?」
コウタが耳を澄ませ、音のする方角を指差す。
「そこそこ近いな。喧嘩じゃなさそうだし、モンスターとやり合って苦戦してるっぽいぞ」
「ちょっと様子を見てみるか。邪魔にならない程度に」
俺たちは気配を殺し、生い茂る巨大な葉を掻き分けて音のする広場へと近づいた。
木々が開けた少し大きめの岩場に出てみると、そこでは4人組のプレイヤーパーティが、体長3メートルほどの巨大な黒い大猿モンスター2頭と交戦しているところだった。
【モンスター:アーマー・コング】
レベル:29
概要:岩石のような硬い皮膚と鉱物質の甲殻を身に纏う大猿。高い物理防御力とパワフルな突進を誇る。
「レベル29か。始まりの街の周辺より明らかに一段上の硬さだな」
見回すと、前衛の剣士が剣を叩き込んでいるが、アーマー・コングの肩から腕にかけてを覆う黒い鉱物甲殻に弾かれ、有効打を与えられていない。さらにアーマー・コングの豪快な腕振りに押し込まれ、前衛のHPがじわじわと削られていた。
「あちゃー、あの甲殻、普通の斬撃じゃ刃が通らないやつだな。打撃武器か魔法がないと削るのに時間がかかる」
コウタが客観的に分析する。
プレイヤー側も全滅しそうというわけではないが、ジリ貧でジリジリと後退させられており、長引けばスタミナ切れで危険な状態になりそうだった。
俺たちは無理に割り込まないよう、茂みの手前で足を止める。戦っている最中にいきなり近付くと他人の横取りと勘違いされる恐れがあるからだ。
俺は少し大きめの声をかけ、先にこちらの存在を知らせた。
「あー……すみません! 今ここ、使ってますか!?」
俺の声に、後衛で必死に回復魔法を唱えていたヒーラーの女性がハッと振り返った。
突然の呼びかけに一瞬身構えたようだったが、俺たちが武器を構えずに立っているのを見て、安堵と苦しい表情を交差させる。
前衛で大盾を構えて耐えていたタンクの男も、汗だくになりながら大声で返してきた。
「あ、ああ! 別に横取りとか気にしなくて大丈夫だ! 正直、こいつら甲殻が硬すぎて手詰まりなんだよ! よければ1頭挟み撃ちにして手伝ってくれないか!?」
「了解、任せろ!」
相手からの承諾を得るやいなや、コウタが即座に反応した。長槍を構えて左側のアーマー・コングへと真っ直ぐ駆け出していく。
「レイ、左のやつ引き剥がすぞ! 合わせろ!」
「おう!」
コウタが器用に長槍の穂先でコングの顔面を突き、ターゲットをこちらへと逸らす。怒ったアーマー・コングが「グオォォン!」と雄叫びを上げ、地響きを立ててこちらへ向き直った。
俺は背中から『深海鋼の重圧大剣』を静かに引き抜く。
ずっしりとした凄まじい重量が両腕に伝わり、漆黒の刀身に刻まれた蒼い重力脈が日差しを受けて鈍く光った。
アーマー・コングが丸太のような太い腕を振り上げ、俺に向かって力任せに殴りかかってくる。
「フッ……!」
俺は避けない。
両足で踏ん張り、STR140の全身の筋肉に力を込め、下段から一気に超重量の大剣を振り上げた。
固有効果――『過剰打撃』&『重力脈同調』。
ドガァァァァンッッ!!!!!
ジャングルの静寂を切り裂く、激しい爆破音のような打撃衝撃音が響き渡った。
「ガアッ!?」
アーマー・コングの自慢の鉱物甲殻が、俺の大剣の直撃を受けた瞬間に砕け散り、凄まじい衝撃波によって巨体がそのまま宙へと浮き上がる。
「うおっ!?」
戦っていたプレイヤーたちが、あまりの衝撃音とモンスターの吹き飛び方に目を丸くした。
浮き上がったコングの体勢が崩れたところへ、横からコウタの長槍が電光石火の勢いで突き刺さる。
「ナイス、レイ! 追い打ちだッ!」
弱点である胸元に槍が深く突き刺さり、アーマー・コングはそのまま地面へ激突。そのまま光の粒子となって爆散した。
残ったもう一頭も、俺たちの参入によって隙だらけになり、元々の4人パーティの集中攻撃と俺の横からの重圧の一撃によって、あっという間に倒し切られたのだった。
「ふぅ……助かったよ、ありがとう!」
戦闘が終わり、タンクの剣士が深々と頭を下げてお礼を言ってきた。
「いや、急に声をかけて横合いから手を出して悪かったな。怪我はなかったか?」
「全然! というか……お兄さんのその大剣、なんだよその威力……。あんな硬い甲殻を通常攻撃みたいな振りで砕くとか、どうなってんだ……?」
プレイヤーたちが俺の背負う大剣を凝視している。
「あはは、俺はSTR極振りの鍛冶屋なんだよ。自分で打った頑丈な大剣だから、力任せに叩きつけるのに向いてるんだ」
「鍛冶屋……!? 自作の武器なのか……凄すぎるだろ……」
相手パーティは感心と驚きが入り混じった表情で大剣を見つめ、その後、親切に「この先の岩場に『太陽石』の大きめな群生地があったよ」と情報を教えてくれた。
「よし、情報助かった! お互いイベント楽しもうな!」
「おう、助けてくれて本当にありがとう!」
彼らと別れ、俺とコウタは教わった奥の岩場へと歩を進めた。
「変なトラブルにもならなかったし、いい感じに助け合えたな」
「だな。戦闘の連携も確認できたし、目的の『太陽石』の群生地も教えてもらえた。最高の展開だ」
コウタと笑い合いながら、俺たちはジャングルの奥に広がる新たな採掘ポイントを目指して、マイペースに探索を続けていくのだった。
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