王都での買い物
中央転移門の前に広がる大通りを抜け、俺は王都『グラン・ゼリア』が誇る巨大な大市場へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい! ここでしか手に入らん北方の高級鉱石だよ!」
「魔導具の触媒にどうだい! 珍しい魔物の核石が揃ってるよ!」
「王都名物、灼熱トカゲの丸焼きはいかがすかー!」
街道の両脇を埋め尽くす無数の露店と、行き交うプレイヤーやNPCたちの熱気がダイレクトに伝わってくる。始まりの街の露店街も十分に賑やかだったが、ここはスケールも品揃えも次元が違う。露店の数だけでも数百は下らないだろう。
インベントリを開き、表示された数字を再確認する。
【所持金:115,200 G】
始まりの街の露店オークションで自分が打った装備を売り払い、手に入れた大金だ。
サマーイベント開幕まで、あとちょうど1週間。この潤沢な資金を使って王都でしか手に入らない激レア素材を買い漁り、イベントに向けた自分用の最高の一品を叩き上げる――考えただけで鍛冶師としての血が沸き立ってくる。
「よし……! まずは金属系の露店通りから片っ端から見て回るか!」
俺は気合を入れ直し、怪しげな行商人が店を構える並びへと足を向けた。
◇
『鉱石鑑定』スキルを発動しながら、露店に並ぶ素材を一つ一つ吟味していく。
「ふむ……『赤鉄の塊』に『紫晶石の欠片』か。王都周辺で採れる高級素材だけど、俺の目指す超圧縮クラフトには少し強度が足りないな……」
求めているのは、過酷な高熱と俺のSTR極振りによるバカ力叩きに耐えうる極上の高密度金属、あるいは変態的な性能を引き出すための特殊な触媒だ。生半可な素材では、俺の金槌の一撃に耐えかねて叩いている途中で砕けてしまう。
市場を奥へ奥へと進んでいくと、露店の雰囲気が次第にディープなものに変わってきた。
その一角に、見るからに頑固そうなドワーフのNPCが営む、重厚な構えの鍛冶・素材専門店が目に留まった。店頭の陳列棚には、他の店では見かけない荒々しくも強力なオーラを放つ鉱石類が並んでいる。
「ん……? なんだこの鉱石」
棚の隅、重厚な木箱の中に転がされていた、鈍く青黒い光を放つ金属の塊に目が釘付けになった。
「いらっしゃい、お兄さん。ほう、そいつに目を付けるとはお目が高いねぇ」
店奥から腕組みをしたドワーフの店主が歩み出てくる。
「そいつは鉱山地帯の最深部、超高圧の層で稀に採掘される『深海鋼』の原石だよ。比重がバカみたいに重くて硬い上、熱を通しにくいせいで加工しようとする鍛冶屋が居ねぇんだ。誰も買っていかねぇから叩き売り状態さ」
「深海鋼……!」
さっそく『鉱石鑑定 Lv.5』をかざしてみる。
【素材:深海鋼の原石】
品質:上級
概要:深層の超高圧下で生成された極めて高密度な希少金属。極めて高い耐久度と圧倒的な重量を持つが、適正な筋力と熱処理がなければ鍛造不可能。
(……勝った!!)
脳内で勝ちどきが上がった。
圧倒的な重量と耐久度。加工が難しすぎる? 鍛造不可能? そんなもの、俺のSTR140(Lv.24到達時)のバカ力と、鍛冶の超圧縮技術をもってすれば何の障壁にもならない。むしろ、俺のために用意されたような理想の極上素材だ。
「おやじさん! これ、いくらですか!?」
「原石1個で15,000 Gだ。加工の難しさを考えりゃ投げ売り価格だよ」
「3個買います! あと、この金属を叩くのに使えそうな一番いい触媒もください!」
「毎度あり! 威勢のいい兄ちゃんだねぇ!」
即決で『深海鋼の原石』3個(45,000 G)を購入。さらに店内を吟味し、高負荷の鍛冶に耐える『高品質・精錬触媒(15,000 G)』と、武器に特殊な重量補正を定着させる『重力脈の結晶(20,000 G)』をまとめて買い上げた。
【所持金:115,200 G → 35,200 G】
一気に8万ゴールド以上が吹き飛んだが、まったく惜しくはない。手に入れた素材のスペックを頭の中で組み上げるだけで、ゾクゾクするような興奮が込み上げてくる。
買い込んだ素材をインベントリに収納し、大満足で店を出ようとしたその時――店舗中央の特別なガラスケースに飾られた一本の大剣が視界に入った。
「……うわ、すご……」
俺は思わず足を止め、その大剣に見入ってしまった。
それは、白銀と漆黒の金属が幾重にも美しく組み合わされた、凛とした圧倒的な存在感を放つ大剣だった。
刀身から漏れ出る鋭い魔力の威圧感。過不足のない完璧な重量バランス。美しい装飾の中に秘められた圧倒的な攻撃性能。一目見ただけで、それが途方もない技術と膨大な時間をかけて打ち上げられた最高峰の逸品であることが理解できた。
「へへっ、そいつに目を奪われたかお兄さん。そいつはうちの店の一番の看板商品だよ」
店主のドワーフが、自分のヒゲを誇らしげに撫でながら並んで立つ。
「第一陣のトップ生産職プレイヤーが打ち上げた名剣でね。王都の鍛冶屋でもおいそれと真似できねぇ性能なのさ。最前線で戦うトップアタッカーたちがこぞって欲しがるような、本物の傑作だよ」
「へぇぇ……! 第一陣のトップ生産職ですか! やっぱり王都の最前線はレベルが違いますね……!」
王都という最高峰の環境で第一陣を張るトップ生産職。その圧倒的な完成度に、俺は心から感銘を受けていた。
「俺なんてSTRに極振りして無理やり金属を叩き潰してるだけの駆け出しだしな……。王都の本物の職人は、素材の良さを100%引き出してこんな美しい武具を完成させるんだ。自分の技術なんて、王都のレベルから見ればまだまだひよっこだな。世の中、上には上がいるなぁ!」
第一陣のプロの完璧な仕事に深い敬意を抱きつつ、俺はその凄まじい大剣の構造を目に焼き付けた。
――だが、実際のところレイの認識は大いにずれていた。
確かにその大剣は王都トップ層の洗練された名剣であったが、レイが自分で打った『黒鋼の圧砕大剣』は、本来の数倍の素材量を強引に圧縮し、同レベル帯の武器としてはあり得ないほどの超高耐久と常識外れの武器性能数値を叩き出している、鍛冶の常識を根底から壊す異次元の武具である。
「自分は力任せの駆け出しだから」と謙虚すぎる自己評価を下し、王都の技術に感心しているレイであったが、彼がやっている「超圧縮クラフト」は、第一陣のトップ生産職すら再現不可能な超変態技術であることに、本人は全く気づいていないのだった。
「よしッ! 最高に刺激を受けたぞ!」
ポンと己の手のひらを叩き、俺は気合を入れた。
「第一陣のトップ生産職の人たちに負けてられないな。せっかく手に入れたこの『深海鋼』と『重力脈の結晶』を使って、俺も俺にしか打てない最高に尖った武器を作ってやる!」
俺は買い込んだ極上素材をインベントリにしっかり収めると、転移門を目指して大市場を後にした。




