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神宝町怪異相談  作者: KASANE
神の花嫁

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47/64

第13話「神の花嫁」

時間ができた時にも随時更新します!

ぜひお楽しみに!


 取り調べは、静かだった。


 マリアは、問われるままに、答えた。


 奇跡の、種明かし。


 せった老婆は、初めから、歩けた。


 火事は、乾いた季節の、まぐれ当たり。


 消えた娘は、人を入れ替えて、見せていた。


 家じゅうの無音は、喋るな、音を立てるな、という、長いしつけだった。


 里の者の記憶は、閉じた家で、繰り返し囁いて、植えた。


 ——すべて、如水が、いつか机の上で、並べ直したとおりだった。


 人の手で、説明が、ついた。


 神など、どこにも、いなかった。


 女は、その一つ一つを、静かに、うなずいて聞いた。


 悪びれも、悔いもせず、ただ、水のように。


 調書は、埋まっていった。


 一枚、また一枚。


 乾いた文体で、見たままを、記していく。


 如水は、勝っていた。


 最後に、たった一つだけ、残った問いを、如水は、女に、ぶつけた。


「あの一行を、あんたは、誰から、聞いた」


 《神は花嫁を選ぶ。》


 マリアは、初めて、笑った。


 笑うと、目が、消えた。


「さあ。……いつのまにか、知っていました」


 里の女たちと、寸分たがわぬ、答えだった。


 「あなたは、どうです」と、マリアは、静かに、問い返した。


「刑事さん。あなたは——あれを、誰から、お聞きになったの」


 如水は、答えられなかった。


 自分の調書の末尾に、覚えもなく記された、あの一行を、思い出したからだ。


 誰からでも、なかった。


 いつのまにか、指が、勝手に、なぞっていた。


 女の、消えた目が、それを、見透かしていた。


 事件は、閉じた。


 マリアは、送検された。


 上の家は、取り壊され、更地に、なった。


 ——だが、如水は、あの祈りの出所を、諦めきれなかった。


 谷の奥の、消えた集落。


 その村の記録を、如水は、さらに、さかのぼった。


 庄屋の家に残された、虫の食った、古い綴り。


 そこにも、あった。


 村が、まだ栄えていた、ずっと昔の頁に。


 同じ、一行が。


 《神は花嫁を選ぶ。》


 あの神隠しの、はるか前から、その言葉は、谷に、あった。


 マリアは、最初では、なかった。


 村さえ、最初では、なかった。


 遡っても、遡っても、その言葉のほうが、いつも、一歩、先にいた。


 やがて、如水は、その事件を、忘れかけた。


 平成が、幾年か、過ぎた。


 ある日、新聞の隅の、小さな記事が、目に、留まった。


 湯呑みを持つ手が、途中で、止まった。


 遠い県の、山あいの、名も知らぬ土地。


 女が一人、神の花嫁を名乗り、人を集めている、と。


 如水の、指先が、冷えた。


 あの家は、確かに、壊した。


 あの女は、確かに、挙げた。


 言葉は、封じた、はずだった。


 なのに、それは、別の土地に、また、生えていた。


 封じても、消しても、更地に、しても。


 ——言葉だけが、どこかで、また、芽を、出す。


 誰かが、教えたわけでも、ないのに。


 いつのまにか、そこに、生えている。


 如水は、生涯、神を、信じなかった。


 奇跡は、犯罪に、翻訳できた。


 花嫁は、ただの女に、引きずり下ろせた。


 人の手の跡は、いつも、下から、落ちた。


 ただ、一つ。


 あの一行の、出所だけが、最後まで、人の手に、かえらなかった。


 誰が、最初に、言ったのか。


 どこまで、遡れば、いいのか。


 辿るたびに、道は、一歩、後ろへ、伸びた。


 追いつくべき、始まりが、初めから、無かった。


 ——神は、本当に、いたのか。


 如水には、分からない。


 分からないまま、その問いだけが、あの谷の霧のように、生涯、如水のうちに、垂れこめて、晴れなかった。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

同じ世界の物語は『燃えカスの守り人』に続いています。

良かったら、『燃えカスの守り人』もどうぞ('ω')ノシ

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