第7話「神の花嫁」
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令状は、下りた。
だが、令状では、あの一行だけは、挙げられなかった。
偽記憶の撹乱、という筋は、通った。
教団を家宅捜索にかけ、マリアを、洗脳と監禁で挙げる算段も、ついた。
人の手で説明のつくところは、すべて、事件になる。
——だが、上の家へ登ったこともない者の口にまで、あの一行が乗る。
その一点だけは、どこをどう捜しても、罪状に、ならなかった。
人の手が、届いていない。
「……昔なら、こういうのは、拝み屋か、陰陽師に投げたもんだ」
上司が、書類から目を上げずに、そう言った。
半分は、ぼやきだった。
だが半分は、本気だった。
府警の手に余るものを、国が、こっそり頼る先がある。
表沙汰にはできない、古い伝手が。
——如水は、鼻で笑いかけて、やめた。
ほかに、手が、なかった。
三日後、上の家の麓に、その男は来た。
土御門、と名乗った。
齢は、六十半ばか。
痩せて、背が丸く、着物の袖口が、擦り切れていた。
偏屈そうに口を引き結び、供された茶にも、手をつけない。
名の知れた陰陽師の血筋だと、上司は言った。
かつては、と。
今は、その名ばかりの、落ちぶれた身だとも。
政府が、表に出せぬ相談を持ち込む先——その末席に、辛うじて連なっている男だった。
如水は、初め、侮っていた。
いんちきだ、と。
人の弱みに付け込む、上の家の女と、同じ穴の狢だろう、と。
だが、土御門が、供述書の束に触れた、そのときだった。
男の指が、止まった。
頁を繰る手が、少しずつ、遅くなる。
眉が、寄る。
やがて、乾いた声で、独り言のように、呟いた。
「……おらん」
「何が」
「祟りも、生霊も、憑き物も——おらん。祓う相手が、どこにも、おらんのだ」
男は、頁から顔を上げなかった。
「わしの目には、化物が視える。憑いた者を、視分けられる。それが、土御門の——いや、わしの、数少ない取り柄だった。だが、これは」
男の指が、あの一行を、なぞった。
《神は花嫁を選ぶ。》
「これは、視えん。おるはずなのに、姿が、無い。祓おうにも、掴む先が、無い。名も、形も、居場所も——何もかもが、こちら側から、抜け落ちておる」
土御門は、それでも、と言うように、懐から、古びた符を一枚、抜いた。
夜中に花嫁を見た、というあの男を呼び、前に座らせる。
低く、聞き取れぬ調子で、何かを唱えはじめた。
節くれ立った指が、宙に、格子のような形を、切っていく。
祓いの、所作だった。
如水は、腕を組み、それを、冷めた目で眺めた。
茶番だ、と思った。
その、途中だった。
土御門の声が、ふつりと、途切れた。
符を持つ手が、力なく、下りていく。
渾身の力で握った拳が、掴むべき芯を掴みそこね、ただ空だけを、握ってしまったように。
「手応えが……無い」男は、呆然と、呟いた。
「これほど、はっきり在るのに。掴む芯が、どこにも、無い」
如水は、背筋が寒くなるのを、覚えた。
侮っていた男の声が、本物の、怯えで、掠れていた。
神を信じぬ如水にも、それだけは、分かった。
この老人は、演じていない。
手妻でも、はったりでもない。
——自分の生業で、初めて、歯の立たぬものに、出くわした顔だった。
土御門は、震える手で、茶を、一口だけ、含んだ。
それから、如水を、見た。
落魄した陰陽師の、澱んだ目に、ふいに、必死な光が差した。
「刑事さん。わし一人では、届かん。——もっと、視える者を、連れてこにゃ、ならん」
誰を、と如水が問う前に、土御門は、俯いて、絞り出すように、言った。
「わしが、ずっと、指をくわえて、見てきた——本物の、目を」
あのころの谷では、こういうものは、まだ拝み屋や陰陽師の領分




