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燃えカスの守り人 外伝  作者: K3
燃えカスサッカー

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14/20

だいじょうぶ?

月曜・木曜の定期更新に加え、時間ができた時にも随時更新します!


ぜひお楽しみに!


それでは、本編をお楽しみください。


——菜々子


フルートのおけいこの、帰り道。


 


 夏の昼下がり。


 


 蝉が、ジージージー、と鳴いている。


 


 フルートのケースは、わたしには、すこし重い。


 


 両手で抱えて歩く。


 


 管楽器教室から、おうちまで歩いて、十分。


 


 とちゅうに公園が、ある。


 


 ブランコと砂場と植え込みだけの、ちいさな公園。


 


 わたしは、いつも公園をつっきって、帰る。


 


 そのほうがちかいから。


 


 それに、植え込みの青い匂いが、すきだから。


 


 きょうも、だれもいない。


 


 昼間の公園は、しずか。


 


 小さい子は、まだおひるね。


 


 大きい子は、どこかべつの場所。


 


 だから、この時間はわたしだけ。


 


 わたしと蝉と、まぶしい光だけ。


 


 砂場のよこを通って、植え込みのまえを通りかかった、とき——


 


 かさり。


 


 葉っぱが、ゆれた。


 


 風、じゃない。


 


 風は、ふいてない。


 


 わたしの足も、止まった。


 


 なに、だろう。


 


 ねこ、かな。


 


 それとも鳥。


 


 わたしは、植え込みに顔をちかづけた。


 


 葉っぱのすきまから、奥をのぞく。


 


 葉っぱは、あつくて、つやつやしている。


 


 指でそっとおさえると、ひんやりした。


 


 あ。


 


 くつ。


 


 大きいくつ。


 


 大人みたいな大きさのくつが、二つ。


 


 その先に、足があった。


 


 ズボンの足。


 


 長いズボン。


 


 膝を抱えるように、おりまげている。


 


 わたしは、もっと顔をちかづけた。


 


 葉っぱを、そっとかきわける。


 


 枝が、ほっぺたにあたって、ちくちくした。


 


 植え込みのいちばん奥に、おにいさんが、いた。


 


 膝を抱えて、うずくまっている。


 


 顔は、見えない。


 


 下を向いているから。


 


 ぼうしのつばのかげで、目も見えない。


 


 でも、息をしている。


 


 せなかが、すこしずつ上がって、下がって、している。


 


 ねてるの、かな。


 


 ううん。


 


 ねてるかっこうじゃ、ない。


 


 どうしたんだろう。


 


 こんな、ところで。


 


 日かげの、いちばん奥で。


 


 へんだ、と思った。


 


 なにがへんなのか、うまく言えない。


 


 でも、へんだ。


 


 あ。


 


 長そで。


 


 おにいさん、長そでを着ている。


 


 こんなに暑いのに。


 


 わたしは、半そで。


 


 お母さんも、半そで。


 


 教室の先生も、半そで。


 


 みんな、半そでなのに。


 


 おにいさんだけ、長そで。


 


 なんで、だろう。


 


 暑くないのかな。


 


 汗、かかないのかな。


 


 わからない。


 


 でも、なんだか、むねのおくがちくっとした。


 


 ちくっとして、それが消えない。


 


 わたしは、ケースを地面において、しゃがんだ。


 


 おにいさんと、おなじたかさになるように。


 


「おにいさん」


 


 声をかけてみた。


 


 返事は、ない。


 


 蝉だけが、ジー、ジー、と鳴いている。


 


「おにいさん、だいじょうぶ?」


 


 おにいさんの肩が、ぴくっとうごいた。


 


 でも、顔は上げない。


 


「お腹、痛い?」


 


 うずくまるかっこうは、お腹が痛いときみたい。


 


 わたしも、お腹が痛いとき、こうやって丸くなる。


 


 お母さんが、せなかをさすってくれると、すこしらくになる。


 


 でも、おにいさんは、返事をしない。


 


 きこえてないのかな。


 


 それとも、しゃべりたくないのかな。


 


 わたしは、もうすこしちかづいた。


 


 手を、のばそうとした。


 


 すると——


 


「……来ないで」


 


 ちいさな声だった。


 


 しゃがれた声。


 


「来ないで。あっち、行って」


 


 おにいさんは、顔を上げない。


 


 膝におでこをつけたまま、そう言った。


 


 わたしは、のばしかけた手を、ひっこめた。


 


「……けが、してる?」


 


 きいてみた。


 


 おにいさんは、こたえない。


 


 でも、長そでのそでぐちから見えた手首に、あおっぽいあとが、あった。


 


 ぶつけたのかな。


 


 ころんだのかな。


 


 わからない。


 


 なんのあとか、見当もつかない。


 


 でも、見ちゃいけないものを見た気がして、わたしは、目をそらした。


 


 おこってるのかな。


 


 ううん。


 


 おこってる声じゃ、なかった。


 


 こわがってる声でも、なかった。


 


 なんだろう、この声。


 


 なみだをがまんしてるときの声に、にている。


 


 ……かなしい声。


 


 わたしは、どうしたらいいか、わからなかった。


 


「来ないで」、って、言われた。


 


 だから、ほんとうは行ったほうがいいのかも、しれない。


 


 でも。


 


 このまま行っちゃ、だめな気がする。


 


 りゆうは、うまく言えない。


 


 でも、だめな気がする。


 


 おにいさんは、けがをしてるかも、しれない。


 


 血が出てるかも、しれない。


 


 お腹が痛いのかも、しれない。


 


 わたしじゃ、たすけられない。


 


 わたし、まだ、ちいさいから。


 


 ばんそうこうも、もってない。


 


 お薬も、もってない。


 


 だっこもできない。


 


 おんぶもできない。


 


 どうしよう。


 


 むねのちくっとが、まだ消えない。


 


 わたしは、ケースを抱えて、立ち上がった。


 


 植え込みの奥のおにいさんを、もう一度見た。


 


 まだ、うずくまっている。


 


 さっきと、おなじかっこうで。


 


「……また、来るね」


 


 ちいさく、つぶやいた。


 


 返事は、なかった。


 


 でも、肩が、またぴくっとうごいた気がした。


 


 わたしは、立ち上がって、植え込みからはなれた。


 


 二歩あるいて、いちど振り返った。


 


 おにいさんのくつの先だけが、葉っぱのすきまから見えた。


 


 まだ、そこに、いる。


 


 うごかないで、そこにいる。


 


 わたしは、公園を、走って、出た。


 


 大人を、よぼう。


 


 わたしじゃ、たすけられないから、大人を、よぼう。


 


 走りながら、考えた。


 


 お父さん。


 


 お父さんに、たのもう。


 


 でも。


 


 お父さん、お店の準備で、いそがしいかも。


 


 お父さんは、いつもいそがしい。


 


 お母さんも、いそがしい。


 


 ふたりとも、朝から夜まで、お店。


 


 お父さん、つかれてる。


 


 わたしのおねがいで、もっとつかれさせるの、いやだ。


 


 走る足が、すこしおそくなった。


 


 どうしよう。


 


 だれか、ひまな大人。


 


 やさしくて、ひまな大人。


 


 そのとき、ふっと、顔が浮かんだ。


 


 あ。


 


 ジオンさん。


 


 おとなりのビルの、十階。


 


 糸目の、ジオンさん。


 


 いつも、ふらふらしてる。


 


 いつも、ひまそう。


 


「相談屋さん」、っていう、お仕事。


 


 こまった人のお話をきく、お仕事。


 


 お父さんの、おともだち。


 


 わたしにも、やさしい。


 


 ジオンさんなら。


 


 ジオンさんなら、きっと、きいてくれる。


 


 わたしは、また走りだした。


 


 さっきより、ずっとはやく。


 


 フルートのケースが、かたかた鳴った。


 


 蝉が、ジージージー、と鳴いている。


 


 夏の光が、まぶしい。


 


 ——まっててね、おにいさん。


 


 わたしは、心の中で、つぶやいた。


 


 大人を、よんでくるから。


 


 でも。


 


 ジオンさんは、こまった人を、たすける人なのかな。


 


 お話を、きくだけの人かもしれない。


 


 わたしは、走りながら、すこしだけ、こわくなった。



 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


月曜・木曜の定期更新に加え、時間ができた時にも随時更新します!

ぜひお楽しみに!


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