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太陽なき世界のアストロ  作者: 夕凪


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日常の一ページ

 アストロたちがアジトへ帰還すると、空腹を煽る香りが漂ってきた。香りを辿っていくと、他のメンバーが席に着いている。


 机には豪勢な料理が並べられている。ステーキ、野菜のスープ、おでん、パン、シチュー、ラーメン、サラダ。どれもそれぞれの好物だ。太陽がなくなってしまったこの世界では、この食事はとても価値があるものだ。


「どうしたんだ、こんなに豪勢な食事。」


 好物の香りが、アストロの鼻をくすぐった。アストロは自然と席に着いた。長時間にわたって走り続けていたため、かなり空腹だった。


「ルミナイトが手に入って少し余裕ができたからな。ここ最近は乾パンや栄養ドリンクばかりだったこともあって俺が買ってきた。」

「あぁ、お前たちが案外余裕そうだったからな。待機中のアルタイルに買ってきてもらった。」


 アストロたちが順調に鉱山を制圧できていたため、ポラリスはアルタイルに食料を買ってくるように指示をした。おでんやパンは買ってきたものだが、その他はアルタイルの手作りだ。


「ま、そういうことなら頂きましょ。お腹すいた。」


 カペラは勢いよく席に着いた。もはや、眼中にあるのは机に並べられた料理だけである。


「ふん、見張りしかしてない人がなーに言ってんだか。」

「は?何?」

「やっぱ何でもないです」


 オリオンの呟きはカペラの圧によって消されてしまった。その場に和やかな雰囲気が漂う。これが、Night Watchというチームだ。アストロは、この瞬間こそが居心地がいいと感じられる。


「いただきます。」


 全員は食事を始めた。久々の豪勢な食事。食欲が出ないわけがない。誰もが自身の好物を食べられる。この暗くて荒廃した世界では唯一安心できる時間だ。


 殺し、殺される。それが当たり前となった社会。普通に考えてまともな思考でいられるわけがない。誰もが気が狂っている。いや、狂ってしまった。気が狂わなければ、生き残れない。真面目、まともな奴から死んでいく。


「…あ、アストロ、さっきの話を聞かせて貰おうか。」


 オリオンがアストロに視線を向ける。目に光はない。アストロは一瞬、おでんを食べる手が止まった。そして、わざとオリオンから視線を背ける。


「…隠しても仕方がないよね?さ、出して。」

「…すまない。」


 アストロは観念し、懐からTsukikageを出し、机の上に置いた。Tsukikageが現れた途端、全員の視線がアストロに向けられた。


「…俺たちが金欠だってこと、知ってるよね。」

「ルミナイトがトラック二台分手に入っただろう。」

「そういう話じゃないよね?」

「…優れた武器を揃えるのは、生き残る為に大切なことだ。Night Watchの理念、【生存】に大きく関わる。」


 アストロは何とか場を最小限に収めようとした。Night Watchの理念は【生存】。しかし、苦し紛れの言い訳である。これに怒らないメンバーは居ない。


「…へぇ。そういう態度取るんだ。」


 ヴァルカンが呟いた。アストロは恐る恐るヴァルカンを見る。オリオンと同じく、目に光はない。ヴァルカンはそっとTsukikageを手に取り、起動させる。


「…流石Luxの武器だね。これなら何でも斬れそうだ。」

「…悪かった。しばらくは節約する。」


 Tsukikageが起動した途端、アストロは恐怖した。ヴァルカンは怒ったら何をするかわからない。以前、オリオンがヴァルカンのケーキを無断で食べてしまった事件が起きた。大の甘党であるヴァルカンが許すはずもなく、馬乗りになってオリオンを殴り続けていた。発見されたときには、既にオリオンは気を失っていた。


「…まぁ、アストロは戦闘がメインだからな。近接武器があった方がいいだろう。」


 ポラリスがアストロをフォローした。その後、ひと先ずこの一件は保留となった。元々これはアストロが貯金していた分と、敵対組織から奪い取った金で買ったものであるため、Night Watchの資金からではなかった。女性陣とオリオンは不満げだったが、その他の男性陣がなだめてひと段落した。


 食事を終えると、風呂の時間になる。太陽がなくなったことで昼と夜の概念は殆ど消えてしまった。眠くなったら寝る、起きたくなったら起きるというのが生活リズムとなってしまっている。


「ねー、まだ?そろそろ入りたいんだけど?」

「悪い、あと五分待ってくれ。」


 オリオンがタオルを右手に持ち、風呂の扉をノックしている。入っているのはアルタイルだ。アルタイルの風呂は長い。酷い時は一時間風呂場から出てこない。アジトには風呂は一つしかない。風呂場は狭いため、一人ずつ順番に使うことになっている。


「まったく…アイツ風呂長すぎなのよ。どんだけ入れば気が済むのよ…」


 カペラは自分の番が来ないことに苛立っている。レイヴンは機嫌の悪いカペラに怯えながら、パソコンで情報収集を行っている。他のメンバーは自分に当たられないように、自室に籠ってしまった。


「ふう、お待たせ。」


 アルタイルがようやく出てきた。オリオンが風呂に入ろうとすると、カペラが遮った。


「ねぇ、私先に入らせてよ。シャワーだけでいいから。」

「はぁ?やだよ。ずっと待ってたんだから。」


 こうして、風呂にどちらが先に入るかを決める争いが勃発した。これが、Night Watchの日常の一ページだ。アストロは自室から二人の揉める声を聴き、僅かに微笑んだ。

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