触れなかった理由3
「こんにちわ。古賀さん」
未可子は立ち上がると、古賀に駆け寄っていく。
そこには仮面が貼り付けられたような満面の笑顔が浮かんでいた。
弘海はそれを見てしまった瞬間に目を逸らした。
「なに、未可子ちゃんデート?江間くんもなかやか隅に置けないね」
弘海はなんて答えたらいいのかわからなかったから曖昧に微笑んで返した。
それとは対照的に未可子は快活に答える。
「そうなんですよ。弘海くんが桜を見たいって言うから、遠路はるばるやってきたんです」
そもそも桜を見たいって言い出したのは未可子の方だったし、父さんが車を出してくれるって言ったのにそれを断ったのも未可子の方だった。
弘海は心の中では文句を言っていたけたれど、それを口に出すことはしなかった。
未可子ほどうまくはいかないけれど、仮初めの仮面を被って対処する。
「弘海くんどうしたの?私になにか《《言いたいこと》》があるの?」
弘海の浅はかな考えはすぐに破綻した。
弘海に仮面は向いていないらしい。
「いや、なんでもないよ。俺はあっちのほう見てくるから、ゆっくり話をするといいよ」
そう言い残して、弘海はその場を離れることに成功するが、未可子が目を細めてこちらを見ていたことを弘海は見逃さなかった。
あとでどんな仕打ちが待っているのか、考えたくもなかったけれど、ひとまず、未可子を取り囲む集団から離れた。
桜並木の下を歩いていくと、あちらこちらにレジャーシートを広げた花見客の姿が見受けられた。
できるだけ、誰とも接したくないと思ったから公園端の方にある東屋を目指した。
その先は崖になっていて、空がどこまでも開けて見える。
俺と未可子が暮らす、この街がどこまでも見晴らすことができる。
こうやって俯瞰して見ることはできても、裏の裏までは見えないんだよなと弘海は一人、呟く。
「君はいいの?こんなところに一人でいて?」
弘海と肩を並べて、街を見下ろす人物が一人。
「……山川さんこそいいんですか?」
「いいの。……ただ同級生の集まりで呼ばれただけだから。未希が居なくなった今、彼女たちから見て私にはなんの価値もない」
表情は一切変えずに、そこまで言い切ると、山川は弘海の方に向き直る。
「こんなところで、どんな悪だくみをしていたの?」
「いや、そんな悪だくみなんて……」
そこまで言って、弘海は閃く。
先ほどまで未可子から聞かされていた未希の話を山川に話したらどのような反応をするのだろうか?と。
それは未希らしいと言うのか、はたまた意外だと驚くのか。
どちらにせよ、弘海の好奇心を満たしてくれるのは違いないと、一度未可子の様子を確認する。
未可子は先輩方との話に夢中なようだ。
「あの、山川さん。この話、矢野さん、いえ、未可子には聞かなかったことにしておいてほしいんですけど、一つ話を聞いてはくれませんか?」
「……恋の相談?それなら古賀ちゃんのほうが向いていると思うけどな」
そう言って愛想笑いをする山川。次の弘海の言葉を聞いて、山川は今のままでいられるだろうか?
「未希さんの昔の話についてなんですが」
「……未希の?」
警戒を含んだ、視線が弘海を射抜くが、弘海は気にせずに続ける。
「さっき未可子から聞かされた話なんです。昔飼っていた猫について、親友の山川さんからどう思うのかをお聞かせ願えますか?」
山川は一瞬何を聞かれているのか分かっていなかったのか、薄っすらと口を開いて眉尻を下げるが、次の瞬間には目を見開いて弘海に向かい合った。
「それって、未希が可愛がっていた、とらのこと?」




