仮面の綻び16
『私は、小さな頃からずっと抑圧された環境で育ってきました。
父は県議会議員。秘書は母。
二人とも家にいないことが多くて、私と妹の未可子は叔母である陽ちゃんに育てられたと言っても過言ではありません。
それなのに、父は私に常に一番であること、常識的であること、公平であることを求めました。
今まで、いえ、二週間前に行われた、修学旅行における国会議事堂で私が起こした事件まで、ずっと言いつけを守って過ごしてきました。
私がなぜここに立っているのかと言えば、先の事件の責任をとらされてのことです。
皆さんも噂では聞いていることと思いますが、前代未聞である、生徒会長の辞任です。
辞任とは表ばかり、先生方が県議である父に気を使ってそうしてくださっただけに他なりません。
クビです。私はクビになったのです。難しい言葉で言えば解任されたわけです。
ありがとうございます。心から感謝致します。
父に初めて一矢報いることができました。
国の最高府である国会議事堂で事件を起こしたことで、父にも多少ダメージは及ぶはずです。
私のふざけたこんな挨拶が表に出ることによって、失職しているかもしれません。
それでも良いと私は思います。
今回の事件で先生方、同級生のみんな、後輩達には肩身の狭い思いをさせてしまうかもわかりません。
心から謝罪致します。
本当に申し訳ありませんでした。
最後に、私から皆さんに一言送らせていただきます。
皆さんは私の分まで自由に生きてください。』
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未可子と弘海が読み終えた時、二人の間に会話はなかった。
未可子がどう思っているのかを弘海に知る由もないが、弘海は心底震えていた。
未希という人物の底しれない感情に触れて、姉妹である未可子の中にも同じ狂気が潜んでいるのではないかと思ったからだ。
「ねえ矢野さん?」
そう言いながら未可子の顔を覗き込むと、未可子は静かに頬を濡らしていた。
なぜ未可子が泣いているのかが弘海には理解できなかった。
「ねえ。弘海くん。お姉ちゃんはどんな気持ちでこれを書いたんだろう……ううん。弘海くんに聞いても分かるはずないよね。
……だって、私にもわからないんだから」
未可子が目元を拭おうと右手を上げた時、何かが乾いた音を鳴らして転がった。
そちらには目を向けて見ると、転がっていたのは、黄色い丸に金属質の棒が一本飛び出している、どこかで見たことがある物体だった。
それを弘海は拾い上げ、マジマジと見てみる。
「これって……」
おそらくそれは、消化器なピン。
なぜ、こんなものを未可子が持っていたのかがわからないが……
「ジップロックの中に一緒に入っていたみたい。それはなに?」
「多分、消化器のピンかな」
「ふーん。そう」
それだけ返事をすると、未可子は満足そうに笑顔を浮かべた。そして一言だけ呟いた。
「多分、これも嘘なんだ」
未可子の言葉『多分、これも』が何を指しているのかが弘海にはわからなかった。
「どういう────」
どういう意味?弘海がそう聞こうとした時、邪魔が入った。
「ちょっといいか?その反省文について、俺から謝らなければならないことがある」
松川だった。
「……私にですか?」
「ああ」
「わかりました」
さすがの弘海もこの場にいないほうがいいことはわかる。
立ち上がろうとすると、未可子が弘海の手を握る。
「先生。弘海くんも一緒にでいいですか?」
松川は一瞬、視線を泳がせたようにも見えた。
「ああ。構わないよ」




