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矢野未可子の顔は黒く塗りつぶすしかない  作者: さいだー
仮面の綻び

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仮面の綻び15

 タイムカプセルが開封されると同時に、あちらこちらから悲鳴にも似た歓声があがる。


 弘海にはその光景が不思議でしかなかった。


 次々にカプセル内から取り出されていく過去の異物。

 

 どこかで見た覚えがあるようなネット有名人の缶バッジだとか。今ではカプセルトイの商品になっているようなおもちゃたち。


 今では見なくなったキャラクター商品が出てくるたびに、先輩たちは盛り上がっていた。


 そんなとき、寄せ書きが取り出される。


 おそらく、そこにはミキの言葉も紡がれているはずだ。


「見に行かないの?」


 未可子にそう話しかけると、首を左右に振った。


「一緒に来てくれないかな」


 未可子の表情からは迷いのようなものを感じ取ることができた。

 見たいけど見たくない。そんな感情が同居している。


「いいよ。行こうか」 


 未可子を先導して、弘海は先輩たちの波をかき分け、寄せ書きを持っている松川の元にたどり着く。


「先生。矢野さんにも見せてあげてくれないですか?」


「……ああ」


 少し躊躇った返事をしたあと、松川は寄せ書きを未可子に手渡した。


 それを横から弘海も覗き込む。


 だいたいがくだらない内容のものばかりだ。


 探さないでください。とか、俺はモテる大人になる。とか、古賀に至っては『大金持ちになる』なんて書いている。


 その中でもひときわ達筆な字で書かれている寄せ書きがあった。


『鳥のように自由になりたい。矢野未希』


 どんな意味が込められているのかは弘海にはわからない。

 でもそれを見た未可子はぽつりと一言呟いた。

 

「夢、叶ってんじゃん」


 未可子は笑っていた。

 いつもみたいに貼り付けられた仮面の笑顔ではない。

 柔らかな笑顔。未可子の本質を見てしまったような気がして、弘海は腹の奥を突き上げてくる知らなかった感覚に少し戸惑う。


「未可子ちゃん。これ未希が埋めた奴だと思うんだけど」


「ありがとうございます」


 駆け寄ってきた古賀が未可子に手渡したのは、ジップロックに入れられた、作文用紙のように見えた。


 

 それを見た松川は、一歩後退りをした。そして一言。


 「ま、まさかな」


 弘海は先日の松川の態度を忘れてはいない。

 『未希について探るな』そう言っていたのと関係しているようにしか思えなかった。

 当て感ではあったけれど、この場でジップロックを開かないほうが良いような気がした。


「矢野さん。あっちに行って座って見ない?」


 弘海が指を差したのは、講堂のシャトルドアの前の階段だ。


 未可子は不思議そうに弘海のことを見ていたけれど、一つ頷く。


 弘海は未可子から寄せ書きを、受け取り松川に返し、未可子の袖を引いた。


 少し振り返り、松川の様子を確認すると、睨みつけるように目を細めて弘海のことを見ていた。


 

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