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世界譚ー復讐 砕けた角の鬼人族は、世界の創造主に拾われ「死より過酷な修行」の果てに怪物となる  作者: もちもち


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アルトリウスの咆哮

 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ……!!


 アルトリウスの指パッチンと同時に、三層の薄暗い空間が地鳴りを立てて震え出した。

 天井を埋め尽くす巨大な木の根を強引に押し退け、床の岩盤を喰らい尽くしながら、それは姿を現す。

 無数の、それこそ何万、何十万という白骨が不気味にきしみ、噛み合い、組み上がっていく――。


 出現したのは、三層の広場を丸ごと埋め尽くすほどに巨大な、悍ましい『骨の城』だった。

 城壁のあちこちから、大砲のような太い大腿骨の銃口が突き出され、その全てが私たち――いや、私の前に立つニディンへと照準を合わせている。


 「あははははッ! 先生に戦いを挑むことは禁止されてないからね! さあ、これの耐久テストに付き合ってよ、ニディン先生ぇ!」


 城の天守閣のような位置に飛び乗ったアルトリウスが、灰髪を振り乱し、狂気全開の笑みを浮かせて挑発する。

 その桁違いの質量の前に、ライアたち3人は完全に言葉を失い、へたり込んでいた。


 だが。ニディン先生は、深く構え直していたはずの武器を、これ見よがしに「チッ」と大きな舌打ちをしながら、サッと鞘に収めてしまった。


 「……は?」

 アルトリウスの笑みがピキリと凍りつく。


 「お前、勘違いすんなよ。戦うのが禁止されてねえのは確かだがなぁ……」

 ニディン先生は気怠げに懐から魔導時計を取り出すと、それをアルトリウスに向けて見せつけた。

 「俺の仕事は『こいつらの実技授業の監視』だ。もうすぐ一層での自由探索の時間が終わる。お前の自己満足の検証に付き合って、残業してやる義理はねえんだよ」


 「なっ――残業ぉ!? 何言ってるんだよ先生、今ここで僕が――」


 「それに」

 ニディン先生の鋭い視線が、私の背中に向けられる。

 「授業中に、生徒を死なせるのは俺の好みじゃないんでな」


 先生が、地面をドンッ、と軽く踏みつけた。

 その瞬間、先生を中心に、見たこともないほど複雑で巨大な半透明の幾何学陣――『空間転移の魔導陣』が、私たちの足元を一瞬で包み込んだ。


 「あ、待っ――逃げる気かニデインッ!!」

 アルトリウスが焦り、城から大量の骨が射出されたがもう遅い。

 空間がグニャリと反転し、世界が強烈に引き絞られる。


 次の瞬間、目の前の景色は、薄暗い三層から、白を基調とした清潔で静かな部屋へと一瞬で切り替わっていた。

 ふかふかのベッドの上。漂うのは、濃厚な薬品と治癒魔術の匂い。


 「……へ? ここ、学園の医務室……?」

 セシリアが呆然と呟いたのと同時に、部屋の奥の診察デスクから、長い金髪を揺らして一人の美女が立ち上がった。

 白衣を羽織り、豊満な胸元を覗かせたその女性――保健医のバネッサ先生は、ベッドの上に突如現れた私たちを見て、あからさまに眉をひそめた。


 「ちょっとニデイン! 空間転移で直接医務室に無断突入してこないでって、いつも言ってるでしょう!? 結界の警告音がうるさいじゃない!」

 「うるせえ、緊急事態だバネッサ。……おい、このクソガキを診ろ。アルトリウスのドラゴンゾンビの一撃を直で喰らってやがる」


 ニデインが私を指差す。

 その瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、私の口からボタボタと赤黒い血が溢れ出た。視界が急速に狭くなっていく。


「なっ!? 背骨が砕けてるじゃない……! ライア、セシリア、木葉、あんたたちは無事ね!? すぐに処置するからそこをどいて!」

 バネッサ先生の目が一瞬でプロのそれに変わり、素早い手つきで私の胸元に手をかざした。


 温かい緑色の光が私を包み込み、背中の激痛がゆっくりと麻痺していく。

 「バネッサ先生、レイチェルちゃんは……レイチェルちゃんは助かるの!?」

 木葉が泣きそうな声でバネッサ先生の白衣を掴む。

 「大丈夫よ、このバネッサ先生に治せない怪我なんてないわ。……でも、信じられない。これだけの重傷、普通の人間ならショック死しててもおかしくないのに、この子、信じられない生命力で意識を保ってる……」

 バネッサ先生が驚愕の目を私に向けたが、私の意識はそこで限界を迎え、深い闇へと落ちていった。




 ――その頃。

 私たちが消え去った、主を失った迷宮の第三層。


 静寂が戻った広場で、全力で召喚した『骨の城』の頂点に立ったまま、アルトリウスは完全に硬直していた。


 「……は? 逃げた……? 僕の城を完全に無視して、転移で逃げた……?」


 戦う価値すら認められず、ただの「残業」と「お邪魔虫」扱いをされ、目の前でおあずけを食らった。

 アルトリウスの顔から、余裕の笑みが完全に消え去る。プライドを木っ端微塵に砕かれた彼の、底知れない怒りが爆発している。


 「アルトリウス、貴様のような男がこのような上層に上がってきて暴れるなと警告したはずだ。今すぐ自分のアトリエに引っ込むか死ぬか選べ」


 緑の腕輪をした男が、アルトリスにそう告げる。手帳を持つ手をワナワナと震わせ、彼は天を仰いで、狂ったように絶叫した。


 「―― 僕の邪魔をするなァァァッ!!!」


 アルトリウスの凄まじい怒号に呼応するように、『骨の城』が暴れる。周囲の分厚い木の根や、頑丈な岩盤ごと攻撃していく。


 三層で、上級生同士の本気の殺し合いが始まった。

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