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世界譚ー復讐 砕けた角の鬼人族は、世界の創造主に拾われ「死より過酷な修行」の果てに怪物となる  作者: もちもち


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初めての迷宮

 ニデインの引率のもと、私たちは学園の地下にある、重厚な『転移門』の前に立っていた。

 学園の最深部に設置された、魔力を流すことで異空間の迷宮へと繋がるゲート。

 ニディンが門の刻印に手を翳し、魔力を流し込むと、空間が歪むような重々しい駆動音と共に転移門が開いた。

 転移門を潜ると、肌を刺すような濃厚な魔力の風が吹き抜けた。


 「――えっ?」

 誰かが息を呑む声をあげた。


 視界が開けた先、私たちの目の前に広がっていたのは、どこまでも続く、青々とした広大な樹海。そして見上げれば、地下であるはずなのに、頭上には魔力で輝く巨大な『太陽』が浮かび、眩いばかりの光を地上に降り注いでいる。


 「これが、このダンジョンの一層だ」

 ニデイン先生が淡々と説明を始める。

 「溢れ出た魔力が植物と同化し、独自の生態系を作り上げた。ここには地上にはない貴重な薬草や魔導素材が大量に眠っているが、同時に、生存競争を生き抜いた魔物の宝庫でもある」


 空間の中心には、遥か頭上の岩盤を突き破らんばかりの、圧倒的な存在感を放つ「巨大な大樹」がそびえ立っていた。あの場所が、この層の生態系の中心なのだろう。


 「ガハハ! 地下なのに太陽があるなんて、めちゃくちゃ面白そうじゃねえか!」

 ライアが尻尾をブンブンと振りながら目を輝かせる。

 「本当に綺麗……。でも、空気の中に混ざっている魔力の密度が尋常じゃないわね」

 セシリアが警戒を強め、木葉も「みんな、油断しないでいこうね」と私の隣で身構えた。


 「よし、お前ら。一層のルートと、魔物の『殺し方』の基礎を教えてやる。ついてこい」


 直後、ガサガサと草むらが揺れ、体長二メートルを超える凶暴な肉食獣『フォレストウルフ』の群れが飛び出してきた。


「出たな!俺たちの実力を見せてやる!」


 新しく編入してきた生徒たちが、我先にと武器を構えて前に出る。彼らが手際よく魔法や剣で狼を仕留めていくのを、私は後ろから静かに見つめていた。


 (……一匹、私のほうに来る)


 草むらから、一匹の狼が私を目がけて跳躍してきた。

 私は迎撃するため、軽く地面を蹴って一歩前に出ようとした。ただ、ほんの少し、右足に力を込めただけだった。


 ――ドォォンッ!!


 凄まじい爆音と共に、私が踏み込んだ地面の土が派手に爆ぜて抉れた。

 「なっ――!?」

 私の身体は、自分の意図を遥かに超える速度で空間を消し飛ばし、一瞬で狼の眼前に移動していた。

 視界がスローモーションになる。強くなりすぎた肉体と魔力。普通に拳を突き出せば、この狼だけでなく、反動で私の拳までダメージを負ってしまう。


 「くっ……!」

 私は寸前で拳を止め、ただの猫パンチが狼の額を弾いた。


 パキィィンッ!!


 それだけの衝撃で、フォレストウルフは凄まじい勢いで後方へと吹っ飛び、大木に激突して気絶した。


 「……あ、危なかった」

 私は冷や汗を流しながら、自分の右手を見つめる。出力のコントロールが全く効かない。

 ニディン先生の言う『小手先の技術』どころではない。私は今、自分の中にある「人外の力」をどう抑え込むかで必死だった。


 周囲を見れば、生徒たちが「今、何が起きたんだ……?」と唖然とした表情で私を見ている。


 ――ガルルルル……!


 だが、衝撃音に引き寄せられるように、さらに奥からウルフの第二波が、生徒たちを包囲するように一斉に飛び出してきた。


 動揺する生徒たちの前に、一瞬で割り込んだのはニデイン先生だった。


 「いいか、ウルフ型の魔物を相手にする時は全方位を囲まれないようにしろ。後ろを取られなければ同時に攻撃されても戦えるが、視覚外の攻撃には気をつけろ」


 淡々とした声。直後、閃光のような一凪。

 それだけで、襲いかかってきたウルフの群れの首が、すべて同時に宙を舞った。


 これが、私たちが死にかけたジャイアントメタルスコーピオンのさらに上の強さ。


 「俺がやるとお前らのためにならんからな。次からはやばくならないと俺が手を出すことはない」


 ニデインは武器の血を払い、何事もなかったかのように歩き出す。


 「ふん、一応の案内はここまでだ。今日は帰るが、次の授業からは自由時間だ。わからないことがあれば俺に聞きに来い。各自チームでもソロでも構わん、この一層に潜り、魔導素材を回収してこい。成果に応じて成績をつける。……死ぬなよ」


 「よっしゃあ! 明日からガッツリ探検だな!」

 ライアが拳を突き上げ、セシリアと木葉も私を見て微笑む。


 「……うん。明日から、潜ろう」

 私は包帯で隠された首筋の紋様の疼きを感じながら、静かに頷いた。

 この広大な地下の樹海こそが、今の私の、人外化しつつある肉体を慣らすための、最高の砂場になってくれそうだった。

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