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Ragnarok of braves ~こちらメリヴェール王立探偵事務所 another story~  作者: 恵良陸引


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タバルの戦い【scene13】

13


 血しぶきをあげて、ゴブリンは地面に倒れた。かたわらにもう1体のゴブリンが横たわっている。

 「全員片づいたな」

 トルバは剣についた血を振り払いながら言った。

 「予想通りだったな」

 ラリーが倒れたゴブリンにとどめをさしながら言った。

 ふたりはチリンスの丘からメネアに至る街道のはずれに立っていた。ガニメデスが率いる本隊をやり過ごした後、ふたりはここで道を見張っていたのだ。チリンスの丘で異変が起きたとき、報告に走る兵を討ち取るために。

 ガニメデスの本隊が大軍でメネアに向かったことで、コリント、アッチカに送った手勢も減少していた。それこそ、コリント、アッチカに駐留する王国軍が丘へ侵攻できるほどに。本来であれば、ガニメデスが見込んだように、ランブル将軍が兵を動かすことはなかった。将軍は機をうかがってなどいなかったからである。リオンはそれを読んで、ラリーとトルバを送り込んだのである。将軍がリオンに下るという噂を強く流すことで、将軍の重い腰を上げさせたのだ。リオンが見込んだ通り、将軍はリオンを見下していた。そんな将軍がリオンより下に見られることを良しとするはずがない。もし、正攻法で将軍に援軍を求めても、のらりくらりと返事を遅らせるだけで、決して動こうとしなかっただろう。しかし、リオンの偽の噂に激怒した将軍は兵を動かした。将軍は完全にリオンの手のひらの上で踊らされていたのである。この日、王国軍はコリントとアッチカを同時に出陣した。数で劣る魔侯軍を圧倒してチリンスの丘を奪還したのである。

 この非常事態を知らせるべくメネアに走った連絡兵を、ラリーとトルバは討ち取ったのだ。ふたりはゴブリンたちの遺体を片づけ、茂みに潜んでいると、王国軍が通り抜けていった。リオンの思惑通り、ガニメデスの軍を背後から急襲するつもりなのだ。

 「ひどい話だ」

 通過する王国軍を見送りながら、トルバはつぶやいた。

 「何が?」ラリーが尋ねる。

 「将軍が本気になれば、これだけの軍勢が動かせたんだ。しかし、リオンが奇策を打たなかったら、こうはならなかった。チリンスの丘は相変わらず魔侯の支配下で、俺たちはメネアに釘付けにされていたんだ」

 「たしかにな」ラリーはうなずいた。「これだけの戦力をリオンが指揮していたら、この戦争はもっと早く終わらせることができたぜ」

 「改めて思うよ」トルバは暗い表情で続けた。「王国は、このいくさに勝ちたいって本気で思っているのかなって……」

 「ちょっと気になるんだがよ」ラリーはトルバを振り返った。

 「何だよ」

 「今回のいくさで、最大の功労者は誰になるんだ?」

 「リオンに決まってるだろ」

 「……いや、たしかに、俺たちは将軍がリオンの計略で兵を出したことを知っている。だが、世間はそうじゃないぜ。この戦いの勝敗を決めるのは将軍配下の王国軍だ。誰もリオンの手柄なんて思わないんじゃないか?」

 トルバはすぐに返すことが出来なかった。ラリーの言う通りだと思ったのだ。この戦いはきっと王国側の勝利で終わる。しかし、最大の功労者であるリオンの名は、この戦いの歴史に刻まれることはないのだ。トルバはため息をついた。

 「……俺たち、何のために戦ってんのかな……」

 「少し前なら、王国の平和のため……って、答えていたんだがな……。俺、本当にわからなくなってきた。俺たちがここまでお膳立てしなけりゃ、王国軍は兵を進めたりしなかったんだからな。くだらなくなってきたよ、まじで」

 今度はふたりとも沈黙してしまった。やがて、トルバが口を開いた。

 「おい、行くぞ。このいくさの総仕上げをするために」

 ふたりは茂みから立ち上がった。いかにもつまらなそうな、だらだらした態度だった。


 「チリンスの丘から敵だと!」

 ガニメデスは大声をあげた。王国軍は動かない――。自分の予想が見事に裏切られて、ガニメデスは動揺した。

 たしかに、ガニメデスの判断は間違っていなかった。ガニメデスが読み誤ったのは、誰がこの戦場を支配しているのかである。小規模の寄せ集め軍団の団長が、将軍を操ったなど想像できるものではない。その意味で、ガニメデスに落ち度があったとは言えないだろう。

 しかし、命のやり取りをする戦場において、結果がすべてだ。ガニメデスは状況を一瞬で理解した。

……チリンスの丘から迫ってくるのは王国軍の本隊だろう。つまり、丘はやつらに獲られたということだ。さらに俺の軍はこの狭い土地で前後を挟まれた状態にある。前方のメネアは、数では劣るが、攻めるのが難しい。後方の王国軍は大したことはないとは言え、数に物を言わせてごり押しで来るはずだ。

 ガニメデスは唇の端を噛んだ。

 「くそったれぇ!」

 怒りと憎しみに満ちた目を前方のリオンに向ける。

 「これまでの戦い方は、将軍の策なのか!」

 リオンは首をかしげてみせた。「さぁね。将軍に聞いてみたら?」

 「ふざけやがってぇええええ!」ガニメデスは吠えた。両手を天に差し上げると、大きな炎を塊が浮かび上がった。

 「大爆裂ビッグボム!」リオンは表情を変えた。上位魔法も呪文の詠唱なしで使えるのか!

 巨大な炎の塊がリオンめがけて飛んで来る。リオンは背後に向かって叫んだ。

 「伏せろ!」

 リオンは土塁の陰に飛び込んだ。ガニメデスの魔法は土塁に激突して爆発した。轟音とともに辺りは黒煙に包まれる。ようやく煙が晴れてくると、のそりと立ち上がる影が見えた。リオンだった。

 「やられた者はいないか? みんな無事か?」

 リオンは辺りに声をかけた。土塁のおかげで直撃は免れたものの、被害は大きかった。何名かの兵士は明らかにこと切れた状態で横たわっているし、勇者の団からも重傷者がいるようだった。地面に横たわったまま呻き声しか出せない者もいるのだ。リオンはガニメデスがいた方角に目を向けた。そこにガニメデスの姿はなかった。敵の部隊も近くには見えない。ガニメデスは味方を率いて後方に向かって行ったのだろう。リオンと戦うより後方の大軍と戦うほうが、まだ分があると判断したらしい。

 「退いたか……」リオンはつぶやいた。

 「リオン!」

 背後からエリスの叫び声が聞こえた。リオンの戦っているところで大爆発が起きたので、駆け寄ってきたのだ。

 「君は来るな! 周囲には、まだ敵が潜んでいるかもしれないんだ!」

 リオンはエリスが近づく前に怒鳴りつけた。エリスはびくっとして立ち止まった。エリスの後を追ってきた別の魔法使いの女性がエリスの肩に手をかける。

 「行くんだ。ハイクラス相手では、俺は君を守り切れるかわからない」

 エリスは何かを言いかけて口を開いた。しかし、その口から言葉が発せられることはなかった。エリスはぎゅっと口をつぐむとリオンに背を向けた。エリスはかたわらの魔法使いに促されるように、その場から立ち去った。

 リオンは再び前方に目を向けた。煙は晴れたが、砂ぼこりがひどくてあたりの様子がよく見えない。視界が届く範囲では敵の姿はないようだ。

 「急げ! 重傷者を早く下げるんだ!」

 爆発のあった現場では救助活動が始まっていた。誰ともなく声をかけあい、負傷者を運び出していく。ここでの戦いは終わったが、誰もが慌ただしく動き回っていた。リオンは深く息を吐いて、土塁の残骸に腰を下ろした。先ほどのエリスに対する態度を思い返し、暗い気持ちになる。言いようのない疲労感がリオンの肩にのしかかっていた。


 ガニメデス率いる魔侯軍2万は、背後を襲ったランブル将軍率いる3万の王国軍と激突した。メネアとの戦いで陣形が乱れていた魔侯軍は、王国軍に隙をつかれた形で大敗した。ガニメデスは半数の兵を失いながら、なんとか戦場から離脱した。王国側も約2千名もの戦死者を出したことが、この戦いの苛烈さを示していた。

 一方のメネアでは、駐留軍の兵士が10数人戦死したが、勇者の団からは大勢の負傷者を出したものの、戦死者は出なかった。

 その意味では、リオンの狙い通りに事は運んだと言えた。勇者の団は、今回の戦いで戦死者を出さずに、メネアの防衛に成功したのである。

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