表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ragnarok of braves ~こちらメリヴェール王立探偵事務所 another story~  作者: 恵良陸引


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/235

薄暗い倉庫の中で【scene14】

14


 メネアに向かう急坂で行なわれた、後に「タバルの戦い」と呼ばれる戦闘が終了すると、リオンはメネアに戻って出立の準備を開始した。リオンが流した噂では、リオンがチリンスの丘で『勇者宣言』を行なうとしていたが、リオン本人にそれを実行しようなど全く考えていなかった。もっとも、それを行なおうにも、ランブル将軍が丘を陣取って大規模な戦死者の追悼の儀を行なっていたので、それは叶わなかっただろう。むろん、リオンを牽制するために将軍が行なったものであるが、リオンにとってはそんなことなぞ「どうでもよい」ことだったのである。

 勇者の団がメネアに帰還してしばらく後、王都から1通の手紙が届けられた。送り主はパジェット教授からだった。

 手紙には、王国軍が造反の疑いで辺境の魔導士連盟を急襲し、数名の魔導士を捕らえたこと、彼らへの尋問から、これまで「名もなき陵墓」と呼ばれていた遺跡が、何らかを封印していたものであることが明らかになったとしたためられていた。捕らえられた魔導士は組織内では重要な人物でなかったらしく、陵墓が封印の遺跡であること以外は知らなかったようだった。そこで、教授が破壊された遺跡の分析を行ない、遺跡には必ず封印の女神像が設置されていたことを発見したのだった。そして、それらの女神像は「ある方向」を向いていたというのである。

 「女神像が向いていたのはいずれも東の方角で、しかもそれぞれが微妙に異なっていた。アングリアの遺跡では真東を向いていたのに対し、ドドナの遺跡は南東を向いていたというように。女神の方角に意味があるのではと、それぞれの視線の先を線で伸ばしてみると、ある一点で交わったのだ。そこはミュルクヴィズの森の中心部で、伝承により古城があるとされているところだった。つまり、これらの遺跡は、その古城か、あるいはその古城内のあるものを封印していると考えられるのだ。私が考えるに、魔侯アルタイルはその城にいるのではないか。かの人物は、そこで何かを解き放とうとしているのではないか。私はそう推察している。むろん、その考えが正しいと証明はできない。確かめるには、そこへ直接足を踏み入れるよりほかはない。魔侯の真の企みが何であるか、いまだ見当がつかないが、封印の謎を明らかにし、魔侯の企みを潰えさせることができるのは君たちだけだと考えている。

 私は分析した結果を宰相や大臣に報告したのだが、魔導士連盟の追及が終わらなければ、私の報告はあくまで仮説のひとつでしかないと一蹴された。どういうわけか、王国は魔侯の追討も、遺跡の謎の解明にも熱心でないのだ。王国軍は王国からの命令が無ければ動かない。つまり、誰もミュルクヴィズの森の探索に向かわないということなのだ。遺跡の封印がすべて破壊された以上、森の古城を放置するなど考えられない。封印された『何か』が解き放たれたとき、この世界がこれまでの姿を保っていられるか保証できないからだ。

 王国の中枢にいない私が言える話ではないが、この危険な探索ができるのは君たちしかいない。現在の王国は、私のようなのんびりした男でさえ首をかしげるほど危機感に乏しいのだ。立場をわきまえず、こんな手紙を送ったことを許してほしい……とある」

 ケインは教授からの長い手紙を読み終えた。作戦の司令部は重苦しい雰囲気に包まれていた。聞いていた各隊の隊長たちは無言のままなのだ。

 「……魔導士連盟が王国に楯突いているのは知っていたけどよ。まさか、『名もなき陵墓』の秘密を握っていたなんてな……」

 ラリーがつぶやいた。ケインの報告に対し、何か発言しなければと思ったのだ。そうしなければ、ただ空気が白けるだけになりそうだからだ。

 「タバルの戦いが終わって以来、王国側から何の指令が下されないのはおかしいと思っていた。それが、王国の危機感が希薄だからという理由であれば、これは由々しき事態と言えるんじゃないか。ミュルクヴィズの森へ侵攻する作戦は具申してあるのだろ?」

 トルバがリオンに顔を向けた。リオンは小さくうなずいた。「もちろんだ」

 「おや、ザバダックの旦那。どうかしたのかい?」

 ベイノンがザバダックに話しかけた。ザバダックはケインから受け取った手紙を見つめながら、眉をひそめて沈黙していたのだ。ザバダックはベイノンにそのしかめ面を向けた。

 「魔導士連盟が造反の罪だなんてな。俺には理解できん。彼らは政治的な影響力なんて持ち合わせておらんのだ。そんなのが造反だぞ。しかも、『名もなき陵墓』の秘密を握っていたんだぞ。さすがに困惑しているのだ、俺は」

 「重要なところはそこではない」

 デアンドリアが口を挟んだ。

 「教授の手紙には、魔侯の居所が記されている。我々はもともと、拉致された人びとを探すために森へ入るつもりだった。やむを得ないとはいえ、行き当たりばったりの探索になると思っていた。しかし、極めて蓋然性の高い話が持ち込まれたのだ。我々の行先はその古城に定めるべき。議論すべきなのはそのことだ」

 「君の言う通りだ、デアンドリア」ザバダックは素直に認めた。しかし、彼の表情を見る限り、感情面では受け入れられたとは言い難いようだ。魔導士連盟は、魔導士と呼ばれる者すべてにとって頂点の存在だった。不正とは呼べないまでも、長年に渡る連盟の行動は、ザバダックの畏敬の念を底辺から揺るがしたのだ。

 「こちらの判断で森に入るわけにはいかないのか?」

 ウォレスが誰に尋ねるともなく尋ねた。

 「それは止めた方がいい。『名もなき陵墓』の秘密を隠していただけで造反の罪に問われたんだ。命令や許可なく魔の森へ侵入したとなれば、反乱罪に問われかねない」

 ウィル・フリーマンが首を左右に振りながら、冷静な口調で答えた。

 「反乱だと!」ウォレスが憤りの声をあげた。「俺は、囚われた同胞を救いに行こうと言っているだけだぞ!」

 「私だって、同じ気持ちだ! しかし、王国は我々の考えに賛同していないのだ。彼らからすれば、統制のとれない軍は反乱軍なのだ。王国の許しもなく勝手に行動などできるわけがない!」

 珍しく、ウィルが怒鳴り声をあげた。これまで激昂などしなかったウィルの反応に、ウォレスはたじろいだ。周囲の者も目を丸くしていた。

 「落ち着いてくれ、ウィル。俺は君の考えが正しいと思う。ただ、ウォレスの気持ちは俺の気持ちでもある。そこもわかってほしい」

 ケインがなだめるように言った。すると、ウィルはケインにも怒りの眼を向けた。「わかってほしいのは私のほうだ! 私だって、ウォレスと同じように森へ行きたいのだ。だが、こうして手をこまねいている自分に腹が立つ。君たちは私と同じ気持ちではないのか?」

 「……腹が立つ、か……。たしかにな」ディレイノがうなずいた。「俺たちは結果を出すために戦っている。勝利ってやつをな。ここでちんたらしていると、俺たちはじじいになってしまうぜ」

 ピピンとハリスは口を挟まなかったが、うんうんとうなずいている。全員が同じ気持ちでいるようだ。つまり、ミュルクヴィズの森へ踏み込んで、魔侯を倒し、囚われた人びとを救い出したい。この一点においては、一同の思いは一致しているのである。

 「リオン、どうする? ガニメデスは残党を率いて森まで退却してしまった。セルネドとポラトリスに立て籠もっている連中は、まもなく王国軍が壊滅させるだろう。王国内の魔侯軍が一掃されれば、王国は俺たちを解散させるかもしれないんだ」

 「そうはならないさ」

 ケインの問いかけに、リオンは立ち上がりながら答えた。リオンはウィルのかたわらまで歩み寄ると、ウィルの肩に手を置いた。「あと少し待とう。俺たちは森へ進むことになるよ」

 「どうして、そう思う?」ケインは不思議そうな顔で尋ねる。

 リオンは茶目っ気たっぷりに片目をつむってみせた。

 「俺が王国のお偉方に嫌われているからさ」


 「どう思う? リオンの話」

 薄暗い倉庫の中だった。ラリーは扉にもたれた姿勢で、メリーに話しかけていた。メリーは在庫表の書類を手に、倉庫内の食糧を調べているところだった。

 「どう思うって、何の話よ?」

 メリーは振り返りもせずに尋ね返した。書類と棚のラベルを見比べるので忙しいようだ。ろくに相手にされていないことに、少し気分を害しながらも、ラリーは答えた。

 「王国が俺たちに森に行くことを認めるって話だよ。王国の連中は、これ以上戦いを続けたくないんだ。魔侯軍を追いだしたことで満足なんだよ。それを、わざわざ戦いに出向く話に乗るとは思えない」

 「あなたはリオンを信じないの?」

 「……信じる、信じないの話じゃないさ。決定するのは王国側だよ。リオンじゃない。王国の考えをリオンが操作できるとは思えないんだ」

 「でも、ランブル将軍は操ってみせたわよ」

 「そりゃそうだけどさ……」

 そのことはラリーも認めるところだった。メリーは書類を閉じると、ラリーに振り返った。

 「どうかしたの? 何かリオンに疑わしいところでもあるの?」

 ラリーはどきりとした。仲間の遺体を屍霊グールにする作戦を聞いたときから、あるいはリオンが神官を篭絡する様子を目撃したときから、リオンを信用しきれなくなっていたのだ。リオンには、これまで知っているリオンとは全く別の一面がある。それはこれまでの心優しいリオンではなく、冷徹で計算高い、ラリーにとっては俗悪とも取れる闇の顔を、リオンから垣間見たのである。思えば、その闇の部分は一部ではあるがこれまでに顔をのぞかせていた。それは、勇者の団の入団審査の際、レトという若者相手に『聖光十字撃グランド・クロス』を喰らわせたことだ。ケインが叫んでいたが、あれはたしかに人間相手に使う技ではない。聖光十字撃グランド・クロスの威力がどれほどなのかラリーは知らなかったが、その脅威を目の当たりにし、彼は恐怖したのだ。あの技は手加減で助かる保証なぞ無い。そんな危険なことをリオンはしでかしていたのだ。

 しかし、ラリーはそのことをメリーに指摘することはできなかった。彼の中にはもうひとつほかの疑問があったのだ。

 「メリー。君はどういった経緯でリオンの仲間になった? この間の態度を見る限り、君はリオンに従順に見えた。いや、従順すぎるぐらいだと思った。なぜだ? 君は気位が高いじゃないか。そんな君がリオンに反論ひとつせずに従うなんて……」

 もし、ここでラリーがリオンについて批判的なことを口にしても、メリーは決して同意することはないだろう。それは、もちろん、リオンが屍霊グールを使った作戦を口にする前、メリーはあからさまに遠ざけられたにもかかわらず、メリーが特に言い返すこともせずに従っていた出来事がラリーの頭にあったからだ。

 「あのひとに従うのに、特別な理由が必要なのかしら?」

 ラリーはメリーの表情を見て、顔をこわばらせた。メリーはこれまでラリーが見たことのない表情を見せていた。何の感情をうかがわせないほど変化のない表情。それなのに、暗い瞳の奥に、何か強い意志を感じさせる光が宿っていたのだ。

 ラリーは戸惑いの表情を浮かべた。「特別な理由は無いのか……?」

 「あるに決まっているじゃない」

 メリーはラリーに背を向けた。ラリーはずっこけそうになった。「あるのかよ!」

 メリーは背を向けたまま、しばらくじっとうつむいていたが、やがて顔を上げると、意を決したように話し始めた。

 「私ね、ずっと孤児だったんだ。何歳だったかもわからないぐらい小さいころ。おかげで私、自分の正確な年齢がわかんないんだ。たぶん20歳ぐらいって思っているけど、2、3歳は若く見積もってるかもね」

 ラリーは首をかしげた。いきなり何の話をするんだ?

 「子供の私に、生きていく方法なんて限られていた。盗みにかっぱらい。怪しいやつらに混じって自分の手を汚す以外、何もできなかった。やったのは奪うことだけじゃない。身体がある程度大きくなったら、身体を売ることだってしていたわ」

 ラリーは目を見開いた。

 「わかる? 私はそんな汚れた女だったの。数年前には盗賊団のひとりとして、王国内を荒らし回っていたわ。弓の扱いはそこで身につけた。狙いが正確なので重宝されたわ。しばらくはこうして過ごしてきた。でも、ずいぶん暴れまくっていたから討伐対象になって、討伐隊に攻められたの。その討伐隊がリオンの団だったわ。去年のことよ。あなたが仲間になる、ほんの少し前」

 「リオンの……」

 「すでに覚醒者となっていたリオンの団に、私がいた盗賊団は太刀打ちできなかった。あっという間にやられてしまったわ。私も捕らえられた。縛られて身動きできず、私はうなだれるしかなかった。その場で縛り首になることも覚悟した。盗賊の処遇については、捕らえた冒険者に委ねられているのが慣習だから。私の前に立ったリオンは、しゃがみ込んで私に話しかけた。『なぜ、こんな連中に混じっている?』って」

 「……なんて答えたんだ?」

 「こんな世の中で女がひとりで生きていくのに、ほかの方法があるのかって。そうしたら、リオンはしばらく考えてから私の縄を切った。戸惑う私に、リオンはこう言ったの。『盗賊に混じるより、冒険者に混じってみないか』って」

 「いきなり仲間に誘われたのか?」

 「私は嘲笑ってやった。『それは私が女だから? 暇なときに慰み者にするつもり?』。私はリオンに食って掛かったわ」

……まぁ、そうなるよな……

 ラリーは心の中でうなずいた。

 「私の挑発的な態度に、リオンは顔色ひとつ変えなかった。ただ、ケインの肩に手を置いて、『気張らなくていい仲間って良いもんだよ』とだけ言ったの。チェックがどこの誰ともわからない者を仲間にできないって言ったんだけど、リオンは折れなかった。リオンがチェックと言い争っている間に、ケインがこっそり教えてくれたの。リオンも両親のいない孤独な境遇だったんだって。だから、似た境遇の私を仲間にしたいと考えたんだろうって。私は言ってやったわ。『そんな甘いことで私を殺さなかったら後悔するわよ』って。そうしたらケインが笑って答えたの。『リオンだったら、そんなの上等だって答えるさ』。それで私、仲間になったの。それからずうっとね。リオンは今でも私に甘いまま。私に汚いことはさせまいとしているの。ずっと汚いことをして生きてきた私に。そんな彼に、私が逆らえるとでも思うの?」

 ラリーは何も言わなかった。いや、何も言えなかった。メリーはリオンが何をしようとしていたのか気づいていたのだ。だから、リオンから席を外すよう言われたとき、素直に従ったのだ。

 「正直なところ、リオンが森へ行けると確信している理由はわからない。でも、私はあのひとを信じている。それだけで私は充分なの。私はただ、あのひとのために、この命を使うだけだわ」

 メリーはそこで、ラリーと向かい合った。さきほどの無表情ではなく、何かを問いかけるような真剣な表情だった。

 「さぁ。私はぶっちゃけたわよ。あなたはどうなの? リオンについていけなくなったの?」

 ラリーは頭をかいた。メリーの告白とも言える話に、衝撃も受けていた。すぐ適切な言葉が浮かんでは来ない。ラリーは迷いながら答えた。

 「俺は盲目的にリオンを信じちゃいない。そりゃ、特別な力に覚醒した勇者だよ。だがな。あいつだって普通の男なんだ。俺たちとそれほど変わらない。あいつがすべて正しいわけじゃないんだぜ」

 「わかっているわよ、そんなこと。当たり前じゃない」

 メリーは呆れたように言った。ラリーはきょとんとした。

 「私はリオンのことを覚醒者とか、勇者とか、そんなふうに見ていない。私にとって、リオンは特別な男。それだけよ」

 「メリー……、それは……」

 「おかしい? 私だってひとりの女なのよ。リオンにそういう感情を抱いたって不自然じゃないでしょ?」

 「リオンにはエリスがいる。それをわかって言ってるのか?」

 メリーはそっぽを向いた。「言わせたのは、あなたでしょ」

 ラリーはうつむいた。「……すまない」

 「そろそろ仕事に戻っていいかしら? 私、在庫の確認を続けたいの」

 メリーの冷たい声に、ラリーはそれ以上かける言葉がなかった。彼は無言でうなずくと倉庫から出て行った。ひとり残ったメリーは、しばらくその場に立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ