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Ragnarok of braves ~こちらメリヴェール王立探偵事務所 another story~  作者: 恵良陸引


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光の柱【scene5】

5


 陵墓の壁をよじ登ろうとした暗黒処刑人ダーク・アサシンは、背後から小さな影が自分めがけて飛んできていることに気づいた。すばやく壁から離れると、ナイフを片手に身構える。コーデリアは壁の上に着地すると、壁を蹴って方向を変えた。ボールのように壁から跳ね返るコーデリアに、暗黒処刑人ダーク・アサシンも面喰ったようだ。ほんの一瞬だけ、逡巡する様子が見えた。しかし、その一瞬で暗黒処刑人ダーク・アサシンの運命が決まった。コーデリアはすっと、暗黒処刑人ダーク・アサシンのかたわらを抜けるように着地すると、そのまま駆け去っていった。コーデリアの行方を目で追おうとした暗黒処刑人ダーク・アサシンの首が奇妙な角度に曲がると、そのまま地面に落下した。かたわらを通り過ぎたときに、コーデリアのナイフは暗黒処刑人ダーク・アサシンの首を斬っていたのである。

 「強制拘束バインド!」

 教授が両手を天に突き上げると、陵墓の周囲に散らばっていた暗黒処刑人ダーク・アサシンの胴体に光の輪が浮かび上がり、急にすぼんで暗黒処刑人ダーク・アサシンを締め付けた。暗黒処刑人ダーク・アサシンは自由を失い、ばたばたと地面に倒れていく。

 「これだけの暗黒処刑人ダーク・アサシンを『強制拘束バインド』の魔法で封じるとは!」

 ヒルディーは驚嘆の声をあげた。ふざけた老人のようで、やはり魔法学院の教授だ。教授の視界に入る暗黒処刑人ダーク・アサシンは、完全に捕えられている。

 「ほっほ。こいつらには聞きたいことがあるからのう。生け捕りせねばと考えておったのじゃ」

 教授は機嫌の良い声で言った。教授にしても、この魔法は会心の出来だったようだ。

 強制拘束バインドの影響圏外にいた暗黒処刑人ダーク・アサシンは、教授から距離を取った。暗黒処刑人ダーク・アサシンの技は体術中心だ。広範囲に魔法を放つ教授を警戒するのは当然だ。

 「教授! 陵墓の裏に、まだ暗黒処刑人ダーク・アサシンがいます!」

 ヒルディーの声に、教授は困ったような表情を浮かべた。

 「ううむ、いかんのう。一度掴んだ者を放さん限り、別の者を捕らえられんのじゃ。ウスキ君、君のほうで何とかできんかの」

 「捕らえるのは無理ですが」

 そう言いながらヴィクトリアは前に進み出た。腕輪をはめた左手を掲げながら、すばやく呪文を唱えた。

 「雷球衝撃ライトニング!」

 ヴィクトリアの放った雷は、陵墓の壁から様子をうかがうように顔を出した暗黒処刑人ダーク・アサシンの頭部を撃ち抜いた。暗黒処刑人ダーク・アサシンは、黒焦げになって倒れた。

 「ほっほ。さすがウスキ君。彼女とつき合いたい男は気をつけるんじゃな。浮気がバレると、あの通り黒焦げじゃ」

 教授はかたわらで教授を守ろうと剣を構える兵士に声をかけた。兵士は困ったようなあいまいな笑みを浮かべるだけだった。

 「私が『焼き』を入れるときは浮気だけではありませんよ」

 ヴィクトリアが怒りを抑えた笑みを見せた。握りこぶしが震えている。教授は「おおっと」と顔をそむけると、近くで倒れている暗黒処刑人ダーク・アサシンに手をかざした。身体を拘束している光の環が太くなり、さらにきつく締まりだした。光の輪を抜け出そうとあがいていた暗黒処刑人ダーク・アサシンは身もだえしながら呻き声をあげた。

……すごいのか、しょうもないのか、まるでわからない……

 かたわらの兵士は心の中でつぶやいた。

 そのころ、ヒルディーはひとりの暗黒処刑人ダーク・アサシンを壁際に追い詰めたところだった。

 「武器を捨てて投降しろ。たとえ魔族であっても、捕虜の取り扱いは人間と同じにしてやる。ここで無駄に死ぬことはないぞ」

 胸元にヒルディーから剣を突きつけられて、その暗黒処刑人ダーク・アサシンは観念するかと思いきや、不敵な笑みを浮かべた。

 「お前、何もワカッテイナイ」

 皮肉な口調で返すと、くっくっくっと忍び笑いを漏らしている

 「降伏しないのはそっちの勝手だが、私が殺さないと思うのは甘い考えだぞ。抵抗するなら容赦なく斬る。そっちこそ、私のことをわかっていない」

 ヒルディーは冷徹な調子で剣を握る手に力を込めた。怪しい動きを見せれば、すぐさま剣が突き立てられることだろう。

 「それがドウシタ? 我らハ任務を果たすためだけにココへ来た。我らノ覚悟は、お前タチを超エテイル!」

 暗黒処刑人ダーク・アサシンは自分の胸をはだけさせた。ヒルディーは表情を険しくさせると、動かしかけた剣を止めた。暗黒処刑人ダーク・アサシンのはだけた胸から白く光る魔法陣が浮かび上がっていたのだ。

 「こいつ、何を仕込んでいる?」

 「いかん! 下がるんじゃ、お嬢さん!」

 ふたりのやり取りを見ていた教授が叫んだ。「それは『自爆の陣』じゃ!」

 ヒルディーはさっと後ろへ飛び下がると同時に、暗黒処刑人ダーク・アサシンは白い光に包まれ出した。

 「伏せろ!」ヒルディーの怒鳴り声と同時に爆音が響き渡り、あたりは白煙に包まれた。

 「何も自爆しなくても……」

 伏せた状態から頭だけをあげて、ヒルディーはつぶやいた。やがて白煙が晴れてくると、自爆した暗黒処刑人ダーク・アサシンがいた位置が良く見えるようになってきた。

 「……まさか」

 ヒルディーは目を見開いた。『名もなき陵墓』の壁が崩れていたのだ。月明かりに照らされて、陵墓の本体である丸形の土台と尖塔が視界に入ってきた。

 壁が崩れたことを確認するや、残りの身体が自由な暗黒処刑人ダーク・アサシンが行動を始めた。崩れた跡から遺跡に飛び込んでいったのだ。

 「バカな! そんなことをすれば……」

 さすがに教授も動揺した声をあげた。「陵墓が攻撃するじゃろが!」

 『名もなき陵墓』の尖塔が青白く輝くと、先端から青白い稲妻が暗黒処刑人ダーク・アサシンの身体を刺し貫いた。暗黒処刑人ダーク・アサシンは地面に倒れた。しかし、それも白い光に包まれると爆発した。

 「ぐぅううっ! 自分ごと陵墓を破壊するつもりじゃ!」

 爆風を腕でさえぎりながら教授は大声を出した。陵墓へ飛び込んだのは、その1匹だけでは終わらなかった。後を追うように2匹が続く。陵墓から容赦なく稲妻が放たれ、そのたびに爆発が起きた。

 「くそ、いかん!」

 教授は両手をパンと叩いた。すると、教授の魔法で身動きできない暗黒処刑人ダーク・アサシンを拘束している光の輪がさらに光を増した。ギリリという音とともに、暗黒処刑人ダーク・アサシンの口から血が噴き出す。

 「かわいそうじゃが魔法の力を増した。意識を失うだけなら良し。死なせてもやむをえん。このままじゃと、こいつらも自爆するじゃろうからな」

 教授は緊張した表情でつぶやいた。がさがさと教授の背後の茂みが動くと、そこから暗黒処刑人ダーク・アサシンが1匹現れた。それは教授の背後に向かって飛んでいく。

 「まだいたか!」

 ヒルディーがすばやく動き、剣を一閃させた。ヒルディーの剣は暗黒処刑人ダーク・アサシンの足を斬り飛ばした。それでも暗黒処刑人ダーク・アサシンは動きを止めなかった。崩れた壁から陵墓へ飛び込んだのだ。しかし、今回は陵墓からの攻撃がない。

 「いかん、さっきの自爆で防御機構に不具合が生じた!」

 教授が絶望的な声で叫ぶのと同時だった。爆発音が轟き渡り、壁から白い煙が噴き出した。

 「陵墓が……」

 ヒルディーの口からも思わず声が漏れた。そのとき、壁に囲まれた陵墓から光があふれ出した。光は太い柱となって、陵墓から天に向かって伸びていく。

 「りょ、陵墓から光が……」

 兵士のひとりが呆然とつぶやいた。かたわらでコーデリアも静かに見つめている。

 「この光は何だ? 何が起こっている?」

 さすがのヒルディーも、この事態に動揺した様子だ。教授も光の柱を目にして顔色を変えた。

 「まさか……。そんなことが……」

 教授は近くで拘束している暗黒処刑人ダーク・アサシンの肩に手をかけて揺さぶった。

 「教えるのじゃ! 陵墓を狙った目的は何じゃ! お前たちは何を知っている!」

 教授にしては珍しい剣幕で詰問している。すると、教授の揺さぶっていた手が急に止まった。

 「……自爆を止められたら、自ら舌を噛み切ったか……。何てやつらじゃ」

 教授はゆっくりと暗黒処刑人ダーク・アサシンの身体を地面に下した。暗黒処刑人ダーク・アサシンは糸の切れた操り人形のように、力なく地面に横たわった。

 「教授……」

 ヴィクトリアは不安な表情を浮かべて歩み寄った。教授は陵墓に――陵墓だったがれきに目を向けていた。尖塔は折れて地上に落ち、半球状の土台はところどころが崩壊して原形をとどめていない。光の柱はいつの間にか消えていた。

 「ウスキ君……」

 教授はヴィクトリアに目を向けずに話しかけた。

 「はい、教授」

 ヴィクトリアは素直に返事した。

 「君は学院に戻り、理事会にこれまでのことを報告しなさい。この件はこれで終了じゃ」

 「報告を……、私が、ですか? 教授はどうなさるんです?」

 ヴィクトリアは戸惑った声をあげた。

 「ワシは、この破壊された陵墓を調査したのち、あるところへ出かけるつもりじゃ。もし、10日経ってもワシが戻らなかった場合、君はこの『名もなき陵墓』に関わるすべてを忘れるんじゃ。誰にも語ってはならん」

 ヴィクトリアは目を見張った。日頃、真面目なことを口にしたことのない教授から、ただならぬ口調で命令されたからだ。

 「いったい何なのです? この陵墓の正体は? 教授は何かに気づいたのですか?」

 教授は首を左右に振った。

 「この陵墓について確信的な考えは浮かんでおらん。しかし、別のことが引っ掛かったのじゃ。この違和感の正体が本物であれば、ワシたちはとんだ道化を演じさせられたことになる」

 教授はヴィクトリアに顔を向けた。

 「ウスキ君。このいくさは異常のひと言じゃ。まともな理屈など存在せん。戦略性も戦いの意義もあったものじゃない。こんな戦いに巻き込まれるとは、ワシらはよほど運命の巡り合わせが悪いようじゃ。じゃが、こんな運命にあらがうすべがないわけでもない」

 「何ですか、それは?」

 「意志を見せることじゃ。何ものにも屈しないと強い決意を見せること。これ以上に勝るすべはない。これはどんな時代も関係ない唯一のものじゃ」

 「意志を見せる……ですか」

 ヴィクトリアはあいまいにうなずいた。教授の話を理解できたと思えなかったのだ。

 「暗黒処刑人ダーク・アサシンは全員、自決したようですね」

 ヒルディーが教授たちに近づいてきた。彼女は教授によって拘束された暗黒処刑人ダーク・アサシンたちの様子を確認して回っていたのだ。

 「少佐。不甲斐ないことで申し訳ない。やつらが陵墓のために命をなげうつなど、想像できていなかったワシの落ち度じゃ」

 教授が詫びると、ヒルディーは首を振った。

 「いいえ、教授。それを言うのであれば私も同罪です。この陵墓に、敵がそこまでする意義を認識できていなかったのです」

 「敵側の意義、か……」

 教授は低い声でつぶやいた。

 「少佐。そのことでは他に責任を問われるべきものがおるようじゃ。この一件、ワシに預けてはもらえんか? ただ、少佐にきちんとした報告ができる可能性は低いのじゃが」

 ヒルディーはじっと教授の顔を見つめた。ヴィクトリアは教授の背後でハラハラしている。こんなあいまいな申し出を、厳格そうなヒルディーが認めるとは思えないからだ。

 「いいでしょう、教授」

 意外にも、ヒルディーはあっさりと許可した。ヴィクトリアは驚くと同時に、ヒルディーの素早い決断力や胆力に舌を巻いた。この美しい女性は、並みの男たちでは持ちえない芯の強さや意志の強さを持っている。陵墓防衛に失敗した彼女は、すでに次の戦いのための思考を始めているのだ。

 「敵は目的を果たしました。これで敵は王国から撤退しますかね?」

 ヒルディーはがれきを見つめながら教授に尋ねた。

 「魔侯はそんなに甘くないじゃろ。この機会に奪えるものは何でも奪うじゃろうな。たとえば国のひとつ、とかな」

 ヒルディーの表情は大きく動かなかった。教授の返答は予想の範囲内なのだろう。ヒルディーは大きく息を吐いた。

 「だと、思いましたよ」

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