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Ragnarok of braves ~こちらメリヴェール王立探偵事務所 another story~  作者: 恵良陸引


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軍議【scene21】

21


 「敵の大将は逃げていったが、敵そのものは撤退の気配はない。『緑龍』が本陣に留まって指揮しているのか、別の司令官に交代したかは定かではないが、敵の態勢が整っていないのは間違いない。ここは打って出るべきではないのか?」

 ウィル・フリーマンがよく通る声で意見を出している。

 司令部の会議室で、リオンとその仲間、そして『勇者の団』各隊の隊長をあつめての軍議が開かれていた。各隊といっても10番隊は『名もなき陵墓』の警護で不在なので、参加している隊長は8名である。1番隊の隊長はリオンが兼任していた。

 「俺も打って出るに賛成だ」ウィルの意見にディレイノ・ハーディーが手を挙げて賛成した。「どうせ援軍なんて来やしないんだ。援軍を待っているうちに、敵の援軍のほうが来てしまうぜ」

 「あんたたちはリザードマンどもを見ていない」

 9番隊リーダーのウォレスが否定的な声をあげた。

 「特に『緑龍』の力はケタ違いだった。攻撃を仕掛けた王国兵士たちを一瞬で殺しちまったんだからな。勇者が何とか退けてくれたからいいものの、リザードマンがゴブリンやオークどもとは別格だということを思い知らされたよ。やつらがあと何匹いるのかわからないのに、そこに攻め込むのは得策だとは思えんな」

 「勇者が『緑龍』を追い詰めたと聞いてはいるが……」

 口を挟んだのは6番隊リーダーのグエン・マクドナルドだ。マクドナルド家は王国では有数の貴族として名高い。グエンはその名家の嫡男でありながら、冒険者の道に進んだ変わり者として知られている。細いふちの眼鏡をかけ、目つきの鋭い男だ。

 「同時に、勇者は死にかけの『緑龍』にとどめをささなかったとも聞いている。何でも身体の具合がまだ優れぬとか。敵の態勢がどうのというより、我らの態勢も盤石か怪しくはないか?」

 「その言いかただと、勇者が不調だから攻めるべきでないと聞こえるが」

 ウィルが不愉快そうな目をグエンに向けた。当のグエンはまったく気にする様子がない。

 「確かに今のリオンは万全ではない」

 ケインがグエンの指摘をいったん認めたが、

 「しかし、議論すべきはリオンがどうという話ではない。この膠着状態をどう打開するかの議論だ。そこは間違えないでほしい」

 厳しい表情でグエンに釘を刺した。グエンは目を閉じて腕を組んだ。話題にされたリオン本人も目を閉じて沈黙している。

 「今、援軍の話が出ていたが、援軍が来るという連絡はないのか? 誰も聞いていないのか?」

 3番隊リーダー、ベイノンが手を挙げて言った。身体のよく肥えた大男で、力自慢の冒険者として知られる。『黒狼』と同じ狼面族の1匹を一騎打ちで倒したことがある。冒険者たちの間では有名人だ。

 「あいにく、通信手段がないのでコリントの状況はわからない。最近は通信魔法というものが開発されてはいるのだが、通信する術者同士が互いの座標を把握しなければならないなど制約が多くてな。コリントとの連絡は途絶えているのが現状だ」

 ザバダックがベイノンの質問に答えた。

 「通信魔法……。魔法も技術が進化するんだな」

 感心したような声をあげているのは2番隊リーダーのピピンだ。彼はもっとも多くの仲間を引き連れて入団した冒険者だ。10名を超えるため、数名を他の班に分ける際には少しもめたことがあった。班の運用は10名ずつと考えていたためだ。現在は、ピピンともうひとつの班、ふたつの班が協力する体制で運用されている。

 「はたして、将軍は兵を送ってくれるのですか? せめて、その是非だけでもわかれば覚悟を決めて打って出ようと考えるのですが」

 そう発言したのは5番隊リーダーのハリスだ。リオンと同じように金髪の青年だ。金髪は王国北部の民に多い。ハリスも北部の街、ザクセン出身だ。

 「私も5番隊隊長の意見と同じだ。援軍が来るのであれば、危険を冒してまで打って出る必要はない。だが、援軍が来ないとなれば、補給の見込みのない籠城は死を待つのと同じだ。それなら、打って出て活路を見出すのが最善だと思う」

 7番隊リーダーのデアンドリアがハリスに続いて発言した。デアンドリアは髪も肌色も茶褐色のシャリロア族の男だ。王国の中でも身体が大きい部族で、手足も長いのが特徴だ。かつては狩猟民族として生活していたが、ギデオンフェル王国成立後は文化的な生活を送るようになり、学者など知的職業に就く者は珍しくない。デアンドリアも学位を持つ、異色の冒険者だ。発言も論理的である。

 「現時点では打って出るが2名、反対に2名。条件付きで打って出るが2名という感じだな。2番隊隊長と3番隊隊長は何か意見はあるか?」

 ケインはベイノンとピピンの顔を交互に見ながら尋ねた。

 「その前に私からよろしいですか?」

 テーブルの端で手を挙げたのはハミルトン少佐だ。彼も王国側代表として軍議に参加していた。

 「皆さんは将軍を疑っておられるようだが、将軍が我々を見殺しにするなど考えられません。将軍はひとが死ぬのを一番嫌う方です。我々が死んでいくのをみすみす放置するなど、将軍の信念に反します」

 「それが本当に将軍の信念であればな」

 デアンドリアの声は懐疑的だった。

 「7番隊隊長殿、それはどういう意味ですか!」

 ハミルトン少佐は顔を赤くして大声をあげた。

 「俺たちはすでに将軍に一度裏切られているんだよ」

 ディレイノが両手を頭の後ろで組んで言った。少し上体をそらし気味で、少佐を見下ろすような視線で見ている。

 「アングリア攻略後、俺たちはメネアに向かうことになった。それは、敵がメネアに大軍を送る見込みが強かったからで、将軍はそれを承知していた。しかし、将軍は軍の主力をメネアとは真逆のコリントに置き、ここには2千の兵しか送らなかった。そもそも籠城戦を強いられているのは、将軍のせいだって言えるんだぜ。俺たちは王国の正規軍じゃない。将軍は身内でない俺たちとあまり協力する考えがないと思うが」

 「仮にあなた方に対して否定的な考えだったとしても、ここには我々2千の友軍がいるのです。将軍は我々をお見捨てになりません!」

 「たぶん、すぐには来られない」

 一同は驚いたように注目した。これまで沈黙していたリオンが口を開いたからだ。

 「……勇者殿。どうして、そうお考えで?」

 少佐は不安そうな表情で尋ねた。

 「援軍を要請するために送った者は大きなう回路を使っている。もちろん、途中の敵に捕捉されないためだ。その道は狭く、大軍が通るのは難しい。もし、将軍が要請に応じて兵を派遣するには、来た道をたどっていくしかない。精鋭の騎馬隊ならまだしも、歩兵だと何日もかかることだろう。そして、将軍は騎馬隊を送らない」

 「そ、それはなぜ?」

 少佐は困惑の表情で質問を続ける。

 「将軍は『鉄壁将軍』と異名を持つほど守備偏向型の人物だ。軍の中心も歩兵で固められていて、強い騎馬隊が存在しない。あなたは、将軍が援軍として実力の疑われる部隊を派遣すると考えられますか?」

 少佐は答えられずに沈黙した。

 「さらに、将軍は歩兵も送らない」

 「な、なんですと!」少佐は再び気色ばんだ。

 「将軍が援軍を送るとすれば、『勝ち』を確信できるほどの大軍のはずだ。ただ、それを可能にするにはチリンスの丘を奪い返さないといけない。現在、将軍は丘を攻める考えはないだろう。と、なれば」

 「援軍の可能性はない、ということか」

 ケインが代わりに結論を言った。少佐は沈黙したままうつむいている。

 「少佐。たしかに将軍は私たちを見捨てる考えはないでしょう。ですが、結果的にそうなる、という話なのです」

 「たしかに……、ただ手をこまねいているというのは、俺たちにとっては見殺しにされるのと等しいな」

 ディレイノは同じ姿勢のままつぶやいた。

 「ならば、結論は出たのじゃないか」

 ウォレスが身を乗り出した。

 「打って出て戦う。それに決まりだろ、な?」

 ウォレスはまだ具体的な意見を述べていないベイノンとピピンに顔を向けた。ベイノンは顔をそむけ、ピピンは腕を組んで目を閉じた。ピピンは口が重そうな感じでゆっくりと話し出した。

 「結論は、その一択しかないように思うが……。しかし、無策で飛び出すのもどうかと……」

 「策がないわけではない」

 ザバダックは立ち上がると、テーブルの上にひとつの小ビンを置いた。小ビンの口には白い布が詰められて、その端がひものように垂れさがっている。

 「それは……?」

 ケインが小ビンに顔を近づけて尋ねた。

 「この小ビンには火薬が詰められている」

 ザバダックの答えに、ケインは慌てて顔を遠ざけた。

 「大丈夫。火を点けん限り、爆発しない」

 ケインはザバダックに保障されても不安そうに苦笑を浮かべた。

 「爆弾、ですか」

 ハリスがあごに手を当てて小ビンを見つめた。

 「第一城壁を爆破するのに使った火薬が大量に余ってな。利用法を考えていたところだ。手投げ爆弾を試作した者がいて、それがこれなのだが、使い方次第では魔法以上に役に立つ」

 「魔法は呪文の詠唱時間という最大の弱点がありますからね」ハリスはうなずいた。

 「爆弾を抱えて敵に突っ込むのですか? それじゃあ、自殺兵だ。いや、手投げ爆弾と言ったか。でも、人間の投げる力では、爆弾を遠くに飛ばせない。結局、敵に近づく危険を冒さなければならない」

 ハミルトン少佐は汗を流していた。もし、爆弾を抱えて打って出る話がまとまれば、自分たちもその作戦に参加しなければならない。だが、参謀の言う策は危険きわまりないものに思えたのだ。

 「俺も大きな危険は冒したくないね」

 なぜか、ザバダックは少佐の意見に賛成した。少佐は目をぱちくりとさせた。

 「そこで提案だ。打って出る前に、そろそろ二の矢を放ってみないかね?」

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