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Ragnarok of braves ~こちらメリヴェール王立探偵事務所 another story~  作者: 恵良陸引


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メネア要塞の秘密【scene11】

11


 「僕が手にしているのは硝石です」

 提案したい話があるとウィル・フリーマンが司令部を訪れたのは、メネアの住民を避難させている最中のことだった。ウィルは同じ隊のレトをともなっていた。そこで、レトが懐にしまっていた石を取り出して、話を始めたのだ。

 「これが硝石……。これをどこで?」

 ザバダックが石を受け取ると、その石をくるくると回しながら尋ねた。

 「避難途中の子供が石ころ遊びで蹴っていたのです。子供に尋ねたら、町の周囲に転がっているというのです。まぁ、石の出どころは正直な話、見当はついていたのですが」

 「石の出どころ?」

 レトはうなずいた。

 「この硝石はメネア山の山頂から転げ落ちてきたものでしょう。ネメア山の山頂はかつてグリフォンの生息地で、山頂が青白いのは糞が堆積しているとのことでした。つまり、その土地は有機物が豊富に含まれているということです。さらにアンモニアなどの窒素化合物が地中にある亜硝酸菌や硝酸菌と反応するなどして硝石が形成されます。形成途中で生じる硝酸カリウムは水に溶けやすく、雨が多い土地では硝石の形成は難しいです。ですが、メネア山の山頂部分は雨が少なく、さらに火山がそばにあるせいか植物が育ちません。窒素化合物は肥料にも使われますから、植物が育つ環境でも硝石はできにくいのです。ギデオンフェル国内では、天然の硝石が採掘できるところは珍しいです。硝石は自然で手に入りにくいので、僕の村では共同手洗いの糞尿が沁みた土を集めて、そこから抽出する方法で硝石を手に入れています。硝石は肥料に使われたりしますが、あと、黒色火薬の原料にも使われます。僕の村はレンガ用の土を採取するため、火薬で崖を破砕して土を集めることがあります。火薬は市場で手に入らないので、僕たちは自前の火薬で土の採取をしてきたのです」

 「黒色火薬……か」

 ザバダックがつぶやくと、レトは話を聞いているほかの者たちにも顔を向けた。部屋にはウィルとザバダックのほかに、リオンとケイン、そしてスライスが同席していた。

 ウィルが話の先を促した。「先を続けてくれ」

 「黒色火薬は、純度の高い硝石と硫黄、そして炭が必要です。材料が希少で手に入りにくいので、僕の村では火薬はあまり使われていませんでした。特に必要のあるところだけ、限定的に使われてきたのです。ですが、メネア山にはおそらくこの希少な硝石が大量にあるはずです。何せ山頂全体がグリフォンの糞で覆われているのですからね。ここで拾った硝石のかけらは純度の高いものでしたから間違いないです。ハデス火山がそばにあるので、純度の高い硫黄も手に入ります。あとは一般的な炭を用意するだけで、大量の黒色火薬を作成できるのです」

 「火薬を大量に作ったとして、それをどう生かす? この国では火薬の文化は発展していない。魔法の進化が著しいので、火薬の必要性が少ないからだ。火薬の運用に慣れていない我々には、かえって荷が重い戦略物資じゃないかね?」

 ザバダックがあごに手をかけながら慎重そうに言った。それを聞いて、スライスが無言でうなずいている。

 「千年前、かつて魔王の攻撃にさらされたひとびとは、この地にメネアの要塞を築いて、魔王と対決しようとしました。僕は疑問に思ったのです。なぜ、ここで迎え撃とうとしたのだろうと。当時であれば、山頂にグリフォンが生息しているので、そこに要塞が築けないのは当然として、それでもこんな中途半端な中腹に要塞を築く必要はあったのでしょうか? しかし、この土地が硝石を大量に入手できる土地柄だとわかったとたんに閃いたのです。この要塞は爆薬で敵に打撃を与えるために築かれたのだと」

 「メネアが火薬で敵を迎撃するために建設されたと言うのか?」

 ザバダックが驚いたように大声をあげた。リオンも含め、ほかの者も同様に驚いた表情になっている。

 「根拠はメネアの外側に築かれた第一城壁です。ルッチさん……、同じカイル班の仲間ですが……、彼が第一城壁は要塞として理屈に合わない存在だと指摘していました。要塞を守るにはかえって邪魔になると。魔王と戦うために必死だったひとびとが、防衛に邪魔な設備をわざわざ用意するとは考えられません。で、あれば、あの壁には何らかの必然性があったはずです。例えば、防壁と見せかけた罠であるとか、です」

 「あの壁が罠?」

 ケインが不思議そうにつぶやいたが、ザバダックは目を輝かせて立ち上がった。

 「そうか! 大量の火薬を第一城壁と、その床に仕込んでおき、そこへ敵が密集したところを爆破するんだな! 第一城壁は、爆風の威力を最大限に引き出すための壁と、それが爆破されることで生じるがれきの山で、周囲の敵にも損害を与えるためのものなのか!」

 「僕は、そう考えています」

 レトは冷静な声で答えた。

 「何てことに気がつくんだ、君は」ケインが額に手を当てて言った。「メネアにそんな秘密があったなんて考えもしなかったよ」

 「僕は要塞の構造について知識がありません。ですが、軍事面に知識のあるルッチさんや、メネアとメネア山の歴史に詳しいデュプリさんから教えていただくことで、僕は気がつくことができたのです。あのふたりがいなければ、僕は今も気がついていません」

 「これから硝石を採取し、硫黄などの材料を用意するとして、明日一日で罠の準備はできるか?」

 ケインが考え込みながらつぶやいた。彼はすでに、レトの提案に乗る気でいた。

 「3千もひとがいるんだ。いっせいにかかれば、できないことはない。例えば、硝石採取隊に千人、硫黄や炭の準備を行なうのに千人、そして、火薬の生成に従事するのに千人、といった具合に」

 「いや、それではひとを割きすぎです、参謀」

 部屋の隅から声がした。リオンが発言したのだ。これまでリオンは、レトの話には興味がないようにそっぽを向いていた。しかし、今のリオンは仲間たちに真剣な眼差しを向けている。

 「第一城壁やその床に火薬を仕込んでも、敵がいきなり火矢を放ってくると、敵をおびき寄せる前に誘爆する危険があります。そうならないよう、敵を引きつける策が必要です。それに、ただ、敵を招き入れるだけでは罠を疑われるでしょう。第一城壁にも、ある程度人員を配置できるやぐらを建てて、その上から第一城壁越しに攻撃できるようにしておけば、その壁に罠が仕掛けてあると気づかれにくくなるでしょう」

 ケインは舌を巻いた。こちらはレトの発想に驚くばかりで、作戦の問題点まで頭が回っていなかった。一方で、リオンは冷静に作戦の問題点を指摘してみせたのだ。しかも、ただ否定するのではない。作戦の弱点を補う意見なのだ。

 「それなら、やぐらには火打石を仕込むというのはどうです? 壁内にやぐらが残されていれば、やつらは第二城壁を越えるためにそれを使おうとするでしょう。そこで、やぐらを動かせば火打石がこすれて火花を生じて火薬に着火するというものです」

 スライスが勢いよく話に参加した。

 「火打石より、魔法陣を仕込むほうが確実だな。やぐらの脚が一定距離移動すると発動するんだ。火花より大きな炎をあげるほうが、火薬に着火させやすいだろう」

 スライスの意見にうなずきながらも、ザバダックが違う考えを出した。

 「なるほど、そちらのほうが堅いですね」スライスは納得したようにうなずいた。

 「いけそうな気がしてきましたね」

 ウィルは嬉しそうに言った。「彼の話を持ってきて正解でした」

 「うむ。たしかにレト君の意見は重要なものだった。しかし、この作戦には最大の問題点がある」

 ザバダックは腕を組みながら言った。

 「……最大の、問題点、ですか」

 レトは不安そうな表情になった。それを見て、ザバダックは苦笑した。

 「君だってわかっているだろう? この作戦には後の一手がない、ということを。この作戦は初手で敵に大打撃を与えるものだが、おそらく、この作戦だけで敵に決定的打撃を与えるのは難しい。我々にはその次の一手を、あるいは、さらにもう何手かを用意する必要があるのだ」

 「……すみません。頭の片隅では思っていたのですが、最初の思いつきで気持ちがいっぱいになって……」

 申し訳なさそうにレトは詫びたが、ザバダックは鷹揚に手を振った。

 「君が詫びることはないよ。作戦の問題点を指摘したが、この作戦は実行しようと思う。敵にひと泡ふかそうという策だ。使わない手はない。それに、作戦を考えるのは我々の役目だ。その問題については我々が考えるとしよう」

 ウィルとレトが部屋を退出し、リオンたち『勇者の団』の幹部が残った。

 「面白いやつだな、あいつは」

 ケインが機嫌の良い声で言った。ザバダックとスライスもうなずく。

 「彼はいつも周囲を見渡し、疑問に思うことを追求する性格なのでしょう。前線に立たせるより、参謀の部下にしたほうがいいかもしれませんね」

 スライスがザバダックに顔を向けて言った。

 「俺の? よせよ、俺は弟子をとらない主義でやってきたんだ。俺の部下ではなく、君たち幹部の知恵袋を任せたほうが面白いんじゃないかな」

 ザバダックが笑いながら言うと、急に真顔になった。「どうした、リオン?」

 ケインとスライスが振り返ると、リオンが立ち上がっていた。表情は暗い。

 「まだ、気分がすぐれないようだ。俺は先に休ませてもらう。悪いが、さっきの作戦の詳細を詰めるのは、みんなでやってもらえないか?」

 リオンの声の暗さに、ケインだけでなくほかのふたりも心配顔になった。

 「大丈夫かね? わかった。後のことは俺たちに任せて、君は休みたまえ」

 ザバダックが言うと、リオンはうなずいて部屋を出て行った。

 リオンはうつむいたまま廊下を歩いていた。さきほどと違って、表情は険しいものに変わっていた。口の端が怒りで歪んでいる。

 「……あいつ、また、俺の前に姿を現わして……」

 リオンの口から、怒りに満ちた声が絞り出された。

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