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紅葉鬼~鬼に嫁いだ姫~  作者: ariya
7章 土蜘蛛の里

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4.土蜘蛛の姫

 尹褄(いつま)の棲む社の中で突然強い風が吹いた。長い髪が揺れ尹褄はくすりと笑った。

 祭壇の上に置いた千紘の髪が揺れ、それが一瞬で白く変わっていった。

「主がわざわざ来てくれるとは、久しいの?」

 白く豹変した髪は起き上がり人の姿を中から表わした。空閑御であった。

 白い髪に肌の鬼姫はじっと尹褄の方をみつめた。金色の瞳がきらめき尹褄を睨みつける。

 その表情は険しいものであった。

 尹褄はその眼をみてうっとりと微笑んだ。

「美しい瞳だ………あの方が愛しただけはある」

「あなたがここまでするとは思いませんでした。尹褄姫」

 空閑御の厳しい口調に尹褄は何のことだと首を傾げた。

「とぼけないで。三の姫の髪を使い呪詛にかけ、一族の棟梁を殺そうとした罪、三の姫を誘拐した罪、どう償ってもらうでしょうか」「はは、操った姫の持ち物からここまでやってくるとはさすが空閑御姫」

 空閑御の言葉を聞いているのか聞いていないのか尹褄は空閑御の術者としての能力を心から敬愛した。

「髪を使用し姫を操ればお前がここまでやってくるとは思っていた。だが、それだけの価値はあった。一瞬でもお前の難攻不落の結界を解除させ、手駒を中に侵入させることはできた」

「あなたは何を望んでいるの?」

「わかったことを………。お前と三の姫が持っていた資格だ」

 それに空閑御は険しい表情を浮かべた。

「バカなことを」

 空閑御は心から辟易した。たったそんなことのために千紘を傷つけ奪いとるなんて。

「なんとでもいいなさい。あなたにはわからないわ。あなたには」

 尹褄はふぅっと息を吐いた。すると空気が揺れ、空閑御の姿が薄くなっていく。



「大丈夫か?」


 心配そうにのぞき込んでくる須洛によって空閑御は現実に戻された。

「須洛………九州へ行きなさい」

 千紘は九州にいる。

 それを聞い須洛はこくりと頷いた。

「ちょっとその間は里はどうするの?」

「頼む」

 須洛は朱音に対して頭を下げた。自分が不在の間は里をまとめてほしいということだ。

「ひどい棟梁ね………何百年も守り続けていた里より娘をとるのね」

「ああ………俺は千紘をこのままにしておけない」

 棟梁失格と言われ、その座から降ろされても構わないと彼は言った。それに朱音はため息をついた。

 彼は十分長い間里を守ってきた。ようやく出会うことができた大切な者を優先させてあげたい気持ちは朱音にもあった。

「あとあいつらは」

 朱音はちらりと外で鬼たちによって囲まれ動くことができない源頼光一行を示した。

「一時休戦、とはいえしばらくはここで拘束させてもらおう。千紘奪還が済めば京に返してしまっていい」

 九州の土蜘蛛とさらわれた千紘についてだけで頭いっぱいの須洛はそう言った。

 一時休戦を謳っているとはいえ、一旦京に戻り体裁を整え再度里に攻めてこられては厄介だ。

「なるべく早く帰りなさいね」

 朱音にそう見送られ、須洛は社を飛び出した。

「あ、おい」

 鬼に囲まれ動けずにいた綱が須洛に声をかけた。

「なんだ? 俺は急いでいるんだ」

「………姫は」

「お前らが襲ってきたごたごたで土蜘蛛にさらわれた。今助けに向かうところだ」

 須洛は端的に説明してやった。邪魔するなと暗に示していた。それを感じ取り綱は悩んだ。

 千紘を救うためにやってきたというのに、肝心の彼女は別の化け物に攫われてしまったのだ。

 ふと千紘の文の内容を思い出した。

 自分を鬼を愛した愚かな娘と名乗っていた。

 この赤髪の男こそ千紘が愛した鬼なのか。そして今のこの表情をみて鬼は千紘のことをひどく心配しているようであった。

「他に何もないなら行くな」

 そういい須洛はその場を走り去った。風のように早く進みすぐに姿が消えてしまった。




   ◇   ◇   ◇



 山を下りてから磐南に用意された輿に乗せられた。ほんの少ししか時間が経過していないのがかなり遠くの山に連れてこられた。目的の場所にたどり着いた為、輿を下される。

「手荒なことはしたくないから逃げようと考えるなよ」

 磐南がそう千紘に言い小さな社の中へ通された。

 本当に小さな社で誰かがいるようには感じられなかった。

「ここは最近手に入れた霊場で長の呪い道具で特殊な通路に使用しています」

 耶麻禰がそう説明し、中へ通された。社の中は鏡が簡素な形で飾られたのみであった。耶麻禰は鏡の台より奥の方へ行き扉を開いた。大きさからしてそこからは外へ通じるものと考えていたが、開けると岩肌がみえた。山の林の中で洞窟も岩壁もなさそうな場所に建てられた社であるのに。

「ある一定時間だけですが、直接我が里に通じるようにしています。これで我が一族の里へ案内します」

 耶麻禰は穏やかに笑い千紘に手を差し伸べた。千紘は怯えながらもその手をとり扉の奥へ進んだ。後を磐南が追う。

 通った瞬間、空気が明らかなに異なることに千紘は不安に感じた。

 千紘が立っているのは洞窟の中にある小さな社の入り口であった。周囲をみると暗い雰囲気の洞窟で出口が見当たらない。

「さぁ、たどり着きました。伊都馬(イツマ)の里です」

 洞窟の奥へいくと奥には大きな穴が開いていた。その下をみると多くの家と無数の穴が開いていた。耶麻禰が言うには無数の小さな穴には多くの土蜘蛛が棲みついているという。そういうとひとつの穴から大きな蜘蛛が姿を現し、穴の近くにいた術者に甘えるように寄り添っていた。

「術者は幼い頃に生まれたての土蜘蛛を一匹与えられ、使役の手法を見つけさせられる。人によっては数匹与えられる場合もある」

 それを聞き千紘はめまいを覚えた。

「大丈夫ですか?」

「………ここからたくさんの土蜘蛛が生み出されるのかと思うと怖くて」

「まぁ、そうですね。外の人にとってはそう感じるでしょうね」

 耶麻禰はそう説明しながら洞窟の穴の奥に降りるように案内した。穴の集落に入るには坂がありそこから下へ降りた。

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