第8話 町を守れ!勇気の一太刀!
町外れの森。
夕焼けが、木々の隙間から斜めに差し込んでいた。
赤く染まる空。長く伸びる影。
その中に――“異物”が蠢く。
低い唸り声。
「グギギ……」
地面を引っかく爪。
枯葉を踏み潰す音が、じわじわと広がっていく。
現れたのは――ゴブリンの群れ。
だが、ただのそれではない。
黒い装甲。
粗雑ながらも、体に打ち付けられた金属片が不気味に光る。
そして何より――その目。
血のように赤く、ぎらついていた。
「グギャアアア……」
涎を垂らしながら、獲物を見据える。
セリアが小さく息を呑む。
「……間違いありません」
杖を握る手に力がこもる。
「魔王軍の個体です」
その一言で、ただの戦闘ではないことが分かる。
だが、王土はむしろ楽しげに目を細めた。
「へぇ……情報通りってわけか」
剣を構える。
夕焼けの光を受け、刃が赤く染まる。
「いいじゃねぇか…」
口元が吊り上がる。
「相手にとって不足無しだぜ。」
――その瞬間。
ゴブリンたちがこちらに気付き一斉に動いた。
「ギャアア!!」
地面を蹴り、獣のように飛びかかる。
数は五――いや、六。
包囲するように散開しながら、一気に距離を詰める。
王土の目が鋭く光る。
「来たな!」
勢い良く、踏み込む。
最初の一体が牙を剥いて迫る。
――振るう。
ガキィン!!
鈍い衝撃。
刃と装甲がぶつかり、火花が散る。
「っ……!」
一体を弾き飛ばす。
だが――
「チッ……数が多いな」
横から影。
もう一体が低く滑り込み、足元を狙う。
その瞬間――
「右です!」
セリアの声。
王土の体が反射的に動く。
「っ!」
紙一重で跳び退き、足元を掠める爪。
その攻撃で地面が抉れる。
だが全てを躱すことは出来ず、王土の腕に浅く傷が走り血が滲む。
「……っ!」
セリアの瞳が揺れる。
(早く回復して差し上げなきゃ……!)
杖を構え淡い光が集まり始める。
「――≪癒光≫!」
柔らかな光が王土を包む。
暖かい光。
まるで春の陽だまりのような優しさが、傷口に染み込む。
じわり、と痛みが引き王土の動きが、軽くなる。
「ありがとう……助かる!」
王土は息を整えながら、ゴブリンの動きを見る。
ほんの一瞬――
その瞳が、冷たく研ぎ澄まされる。
「そこだ!!」
王土の剣がゴブリンを切り裂く。
「ギャァァ!!」
ゴブリンが断末魔を上げ倒れる。
「まずは一匹!!!」
セリアが叫ぶ。
「後ろも来ます!」
今度は背後から、二体のゴブリンが包囲を固める。
前。横。後ろ。
逃げ場がない。
だが――
王土は、笑っていた。
「まさに漫画みたいな展開だな……燃えてくるぜ」
一歩、前に踏み出す――
あえて、包囲の中心へ。
「主人公は――」
鼓動が高鳴り、
王土の剣が赤く燃え上がる。
炎が、刃に絡みつき渦を巻く。
「逆境でこそ燃えるんだよ!!」
踏みこみ、地面が砕ける。
そして――
「≪烈魂龍斬!!≫」
振り抜いた瞬間、
龍のようにうねる炎が、横薙ぎに解き放たれる。
ズバァァァッ!!
空気を裂き、炎の軌跡が残る。
前方のゴブリン三体を――装甲ごと断ち切る。
「ギャアアアッ!!」
焼き裂かれ、吹き飛ぶ身体。
地面に叩きつけられ、土煙が巻き上がる。
その余波が、残るゴブリンを押し返す。
一瞬の――静寂。
土煙の中から、王土の影が浮かび上がり
剣を構えたまま、ゆっくりと顔を上げる。
残ったゴブリンたちの動きが止まる。
「ギ……」
怯え。
本能が理解してしまった。
“勝てない”と。
王土は一歩、踏み出す。
ジャリ、と砂を踏む音。
「まだやるか?」
それだけで十分だった。
次の瞬間――
「ギャアアア!!」
蜘蛛の子を散らすように、ゴブリン達は森の奥へと逃げ出した。




