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通勤時間の違和感

通勤時間のある方。その時間は何をして過ごしておられますか。昔はうっすら寝ていた私ですが、去年から電車に乗っていたことがあったのですが、あまり携帯電話などで暇つぶししないようにして過ごしてみました。よく見ると携帯電話のスマートフォンの機能の凄さを発揮しているようで多数の方がスマートフォンの機能を使用してプライベートも仕事も楽しんでいるようでした。そんな印象深い日がありました。



通勤時間の違和感



 自転車で通勤する。車道が狭いので歩道を走る。一戸建てのおうちの中から子犬が鳴いた。ちょうどこちらは交差点で赤信号で止められた。ため息のような息をはく。

 すると、子供の泣き声が聞こえ始める。子犬の鳴き声と合わさってなかなかな声音だ。上のお姉ちゃんも居るようで、何か言って歩いているようだった。見えていないけれどお母さんのため息が聞こえてきたような気がした。心なしか私の身体にも重たい何かが現れるようだった。朝から疲労感が増す。

 負けないように前を向いて、上空の様子を見る。

 赤信号がようやく青信号に変わった。安堵した私は、自転車を走らせる。

 さきほどの鳴き声を振り払うように、風を感じることや景色を見ることや通勤や通学する人々を眺める。意識して行っていくことによって、どうにか鳴いていた時の空気感が軽くなってきたように思えた。

 大きな通りに出た時、ひと際大きな車両が車道を走っていく。通り過ぎた道の沿いに建っていたお宅の事情を感じている場合じゃない。歩道の場所で止めて待っている間だけでも、彼らの大型車が通るだけで迫力がある。こちらに集中しなければ。

 初めて見かける仕事場に登場する車両や車を運ぶ大型車などさまざまな車両を見た後にようやく信号が変わって青になった。渡れる。

 晴れやかな気持ちで大きな道路の信号を渡る。途中車道の向こうを見ると向こうの景色まで見れた。車があちらの方の信号に並んで待っていて、こちらには居ない状態になる手前左側から見るとなかなか壮観な景色となる。しかし、中央分離帯を超えた左側はここの信号を待っている運転者と目が合いやすいのでそちらを見ないようにしている。

 さっそく渡りきったところで、邪魔にならないように脇に止まって横に渡れるように待つ。

 そうやっていつもの道を移動している間に、太陽はさらに高く上り、逞しい日差しを向けてくるようになる。徐々に汗をかく。駅近くで脇汗を心配していたにもかかわらず、駅中のトイレでは脇汗を心配する余裕もなくなっていた。いつも乗車する電車が来る前にトイレを済ませてホームへと移動しなければと焦る。

 移動する人の列が途切れるのを待ってから列に並んで進んでいく。

 ホームを見渡すと、いつもの乗客が居た。お互いに居たと思っていることだろう。

 アナウンスを聞きながら、ホームに設置してある時計と案内表示を見て確認する。次に来るとわかると、ホームに描かれた線を目印に並ぶ。

 早くも喉が渇いたので、水筒を出して飲む。

 額の汗を拭い、携帯電話を取り出して時計を確認する。そうしてメールなどのチェックを済ませる。ほとんどが仕事とは別のプライベートで登録などしたサイトからだった。

 安堵してそのまま電車を待って左を見た。ホームの先が見える。

 待つ列もその先の方まではなく、私の待っている場所は連なる車両の端の方の車両にあたるのだと分かる。下を見て、時計を見た。携帯電話の表示のものだ。その時に、ふと、違和感を覚える。

 自分の目の前に立って、こちらを上から見てきているように思ったのだ。私の背丈が百六十三センチ。その背丈を優に超えた背丈の髪の長いウェーブのかかった髪の女性がだ。するどい眼差しでこちらを凝視しているかのような感覚に襲われているのだ。こういうのは目を合わせてはいけない。気づいていると気づかれてもいけないという。たしか怖い話しをしていた霊感のある方がおっしゃっていた。

 携帯電話を操作しながら動画を開いてみる。ちょうど猫の動画が表示された。好きだったので安堵して動画を見る。

―タラララタラララタララララン

 ビックリしたが、アナウンスの前に流れる曲だ。次にいつも乗る電車が来ることを知らせていた。安堵して、顔をあまり上げずに左横を見る。すると、電車がスピードを落としてホームに入ってきた。所定の位置で停車する。他の乗客に合わせて前に進んで空いた扉のところから電車に乗り込もうとする。勇気をもって目を瞑ってその違和感のある存在を居ない物として突き抜けたのだ。今もドキドキするが、他の乗客に邪魔にならないように咳の中ほどに進んで立っていると、電車の扉がしまった。

 走り出すときに、携帯電話を鞄にしまうふりをしてホームを見ないようにしてやり過ごした。

 目で確認して吊革につかむ。知らずため息が漏れる。

すると耳元で、

『確かに目が合った』

と女性の怒ったような声が聞こえた。

 これは不味い。ホームで別れることができたと思っていた相手が同じ車両に居ると思って、頭の中をとびきり楽しい時間を思い浮かべて満たそうとする。カフェに行く休日。図書館と本屋へ寄る休日。昼休みに休憩室でストレッチしてから畳の部屋で横になり仮眠をとる。かっこいい芸能人の番組を見る。バスタブに泡を満たしてお風呂で動画配信を視聴する。

 ここまで思いついた時、先ほどよりも離れた距離に移動したのか、怖さが薄れた。

 それでも肌でまだそばにはいるから警戒した方がいいと自分の中の警報が鳴る。

 繁華街に行ってブランド物やお洋服、流行のものなどを観に行くのもいいかもしれない。

 頭の中に楽しいことを思い浮かべはしたものの、どっかへとんでいってくれるくらいの効果があるものでもなかった。

 どうしたものか。

 乗客を見る。外を見る。

 うわー、外綺麗だ。朝日がちょうど雲間から覗いている状態だ。

 次の駅のホームではたくさんの乗客たちがホームで待っていて、車両が所定の位置で停車して扉が開くと、降りる人の後に乗り込んできた。

 さらに車内は込み合ってくる。

 もうひとつ次の駅でも乗り込む人の数は多くて、隙間が少ししかないくらいに車内は満員になっていった。

 さすがにこの中で居ることが厳しくなったのか、存在が消えたように思えた。

 安堵して、携帯電話を鞄から出して、時計を確認すると、座っている人間の上に座っていた。

 思わず声が出そうになる。

 息をつめた時、車両が

―がッバーン

と音がした。隣のレールに向かい合うように反対方向から電車がやって来て、すれ違う時に出る音がなったのだった。

 さらに肩がびくりと跳ねた。

 隣のレールを走る電車が通り過ぎたあとに、安堵のため息をはいた。

 右目の前に座っている女性と目が合った。無言で視線を外す。

 外した先にもその存在の足が見えていたが、今は通り過ぎていった時の音にビックリした心臓のドキドキをおさめることに集中する。

 あー、怖かった。トリプルでビックリな仕掛けがあったよう。

 相変わらずその存在は近くに居たが、気にすることをし続けることに疲れた私は、今度はリラックスして反応を起こすこともなく、いつもの乗車している時のような振る舞いができてきた。

 席を立って下車する人に道を譲り、空いた席に、その席のそばで立っている人間たちで譲り合い、納得のいく人物が座る。そして自分の中も立って待機状態になる。

 機械的なようなその仕草は、私をいつもの調子に戻してくれた。

 下車する駅に近づいてきた。

 ここで乗り換える人間は多い。降りる時も人の流れができていくので、その流れに沿って移動していく。

『チッ』

と舌打ちのような声が聞こえた気がしたが、流れに沿って歩く足は止まることなく、改札口まで移動して、通過していった。

 駅の建物から出て目的地がある方角へと歩き出す。その時ふと思った。あの違和感の招待も日頃から乗車しているのだろうか、と。

 そんな。それじゃ、また会うかもしれないじゃないか。自分の思いついた考えに自分で腹が立つやら怖いやらで、ムカついた私は、

「仕事仕事仕事」

と呪文のように唱えて、青信号を渡り始めた。

 信号の鳥の声が気持ちを上げてくれる。軽くなる足取り、弾む心。

 高いビルの上空で大きな鳥が鳴きながら飛んでいた。

 



誰につけられているわけでもないのに、危機感を抱いていて、ここで別れなければと思ったことがあります。当然誰ということも分からないその焦る気持ちは私の気持ちとは違ったことは分かっていますが、あれがなんだったのか。今も不思議でちょっと嫌な体験です。

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