早く終わった学校の後で
少しドジで霊感があるとかどうとかあまり気にしてないことにしている男子学生の日常の一コマを描いてみました。
早く終わった学校の後で
自転車で走る。歩く人と自転車の人のレーンがある歩道に入った。そこの歩道の自転車車レーンに入った時に入射角が足りなかったらしい、一瞬前輪が乗り上げるも、直ぐにバランスを取ろうとして右側に乗り上げたにもかかわらず左にハンドルを向ける形をとっていた。ビックリした身体がとっさにとった反応でもう一度左の段の下へと車輪が落ちたが、もう一度右の段の上に乗り上がろうと右にハンドルをとったところ、乗り上げずに、タイヤの横を段の高さ分の壁をこすりつける形となった一瞬の出来事のあとに、それに瞬時に対応しようとしてハンドルをまたきって動かした拍子にバランスを崩した。
ブレーキを作動させたことで、転ぶことはなかったが、お尻とペダルが足に当たったことと、ショックな気持ちに下を向いた。
痛みに耐えている間にも車道では車が通り過ぎる。後ろから自転車レーンのところをおばあさんとおじいさんが自転車で通り過ぎる。自分と同じ若者よりも速度は無いものの安全に走れていることに羨ましさを感じた。
行こうと自分に言い聞かせて走り出す。今度はゆっくりと入射角もつけて車輪を右の段の上へと導くことができた。ホッとした。
それにしてもこういう時に地面に足がしっかりつくような設定をしておいてよかった。大した怪我も故障も無くて済んだ。買ってもらった時の値段や店に並んでいる時のこの自転車の姿を思い出す。うん、傷がついたりへこんだりしなくてよかった。
そのことを思うと、はらはらしたり落ち込んだりする気持ちが落ち着いてきた。
歩行者や他の自転車、わき道からの自動車が出てくるのに気を付けながら進む。大通りを進む。その道のりは自転車でも三十分近くかかる。目的の場所である本屋さんまでの距離だ。大通りの少し中に本屋がある。
ようやくたどり着いた時には、少しお尻が痛かった。ごわつくお尻の筋肉は歩いたりなど動くことによって解消していく。
駐輪場にもたくさんの自転車が並んでいた。
久し振りに学校帰りに寄る本屋。
扉を開けると、独特の本に使われている紙の匂いと空調の涼しい風が身体を吹き抜けていった。扉が後ろで閉まる時には、密閉空間化のように音がした。
微かに小さな音になった外の車などの音を聞きながら、入ってすぐのコーナーの本に目をやると、人気だとインターネットのサイトで評されていた書籍も並んでいた。受賞された作品や注目の新刊、そしてこの町のことが書かれた書籍がある。
自分が幼い頃に今住んでいる街に引っ越してきた。新しく建てた戸建ての家だ。父親が母親に約束して建てたと言っていた。そう、結婚する気があるなら、家建てて暮らしていくくらいの甲斐性があるところを見せることを約束しなさい、と。独身で仕事も役職を持っていて部下を率いていた母親のアプローチしてきた父への答えだったらしい。
母親的には当時仕事が楽しかったから断りずらい中の策だったようだが、父親はなんとそれをして見せたということだ。母親は自分の部下と仲の良かった他部署の後輩に当たる人物だったとか。
約束するからと押し切られたと言っていた母親は結局結婚後に仕事の良を減らして家のことをして、逆に父親は役職を任されて仕事の量が増えたと言っていた。一緒に居る時間が少し減ったけれど給料は増えたから、この家に巡り合えた時に即決できたのは有難かったよなぁとしみじみしていた。
俺が生まれた後に家を手に入れている。承諾させた時の決めては結局話しをしていない、そう聞いていないことに気が付いた。
棚の下の方の平積みの書籍に目をやっていると、その棚の向こう側から視線を感じた。何かと思って視線をふと上げてみると、そこには奥に設置されている雑誌の棚が目に入った。雑誌を立ち読みしている人はいるが、こちらへ視線を向けていたような人物はいない感じがする。
ん? どういうことだ?
疑問に思うも、心の中にある書籍を見たいという願望に突き動かされた自分の中の感情はもう疑問から楽しい気持ちへと切り替わっていった。足を踏み出すとそう変わっていくのを感じて恐怖すら味わっていると感じる部分すらある。そしてどの分野をどの書籍をと自分の中のその人物に向かって問いかける。
そして顔を向けた先には実用書や物語の描かれた小説の棚に向かっていた。その棚の法を見ると、若者の楽しい時やお酒の入っている時のような喧騒が聞こえた気がした。が、室内は店内用放送が流れていた。カフェのような落ち着いて爽やかな世界を作り出すような音楽。小鳥のさえずり、川の流れる音、せせらぎなどだ。
小説の作家のあの行から始まる棚の前を通った時に、若い男性のしかもカッコいい声が耳に届いた気がした。
振り返る。
視界に入るのは小説の棚の姿。平積みされたものやポップ。帯の文字。下を見ても変わらない。あの姿。
数歩歩いた後には、妖艶な女性の声が聞こえてきた。こちらをお香とともに誘おうとしているような薄い羽衣を身につけているようなそんな日本人の美人さだろうか。羽衣は中国の人も身につけていたことがあるのだろうか。
この不思議な体験をしている自分は身体に疲労感があって、痛みも朝起きた時からある。低気圧で頭痛はするし、だるいのでそのまま、省エネで生存しておこうとしていたはずだ。
んー、これは早めにお目当ての書籍を見つけて、それを購入して帰るか、このまま帰るか。
いや、購入してから帰るか。
あー、身体が拒否反応出た、しかたない。
ファンタジーものの書籍も面白くて呼んだが、今は別のものがいい。とか言いつつしっかり気になっていた書籍をチェックして財布の中身と相談と予定をつける。
歴史の隣にある哲学系を見る。
入門で面白いものがあった。これにするか。
そして財布の中身と電子マネーの中身を確認し、今度の収入日を確認。この日までの支出を考えると、
「ま、やっぱ今はこの一冊にしておかないと」
と少し大き目な独り言を言ってからレジに向かう。
泣くような声がする。服ごとお腹の一部を握りしめられているような感覚になった。
「い、いてッ」
冷や汗が出てきそうな感じになった後に、お腹が痛みを感じた。
これは、まずい。
確かこの本屋には有難いことにトイレが設置されている。が、売り物の書籍は持って入れない。仕方がないので、一旦棚に戻そうと考えた時に、それを嫌がある自分の中の自分が居た。そして訴えてくる。
よく見ろ。その書籍を戻そうとしている棚にはその書籍はひとつしかないんだぞ。他にないんだ。他の誰かにもっていかれたらどうする。
読みたい自分が後押しするように、自分の中で囁いた。
「レジへ」
お尻を気にしつつ、腹部に力を入れないで、素早く会計レジへと向かう。有難いことに会計レジには他に人がいなかった。会計を済ませる。
鞄に購入した本をしまう時間すら惜しいことに気が付いたので、このままトイレへと向かう。
一目散に向かった先には、トイレの文字。
神からの祝福の鐘が聞こえてきそうなこの感動を尻目に滞りなく、扉を開けて、鍵をかけてズボンを下ろす。そう、用を足した。
無事間に合った喜びに打ちひしがれている時に、ガスがなった。おなら、つまり屁である。しかしこの腹の痛みはこのガスを出し切った後にあの物を出し切ってから解放感が訪れることが頭の中に告げられた。
己の常識人である人格が涙を呑んで、握りこぶしを作り、
「くっ」
と悔しがった。そしてもうせき止められないと盛大に便器へとぶちまけた。自分の常識人なデリカシー加減も一時撤退でもしたかのようにスーッといなくなった。
有難いことに消臭スプレーもある。
しっかり綺麗にして、水洗トイレなので水を流し、綺麗にしてから服を整えて、消臭スプレーを使った。
「ごほんごほん」
むせた自分へダサいと思いながら、落ち着くためにひと息ついてから扉を開けると、小さい子が親と一緒に待っていた。
この後に入るのか。消臭スプレーは使用したが、数分置いてから入った方がいい。その気持ちを抱えつつ、実際は恥ずかしさからくる緊張で無言になりスルーした。手を洗い移動する。
罪悪感を感じる中、またさきほどの女性の声が聞こえた気がした。
「少なくともエチケットは守ったわ」
と。
なんだかその言葉に救われたような気がした。
口の端、口角が上がって店を出る。
鞄を自転車のカゴに入れる時に書籍を入れたのかを確認する。すると、書籍はあった。あったが、なんだかまたトイレの時の逡巡を思い出して凹みそうになるのを、阻止するべく、空を仰いだ。
晴れている。雲もある。風もある。
視線も声も外の世界の方が気になってこっちへは向いていないようだ。
幾ばくかの解放感を感じて、気持ちはウキウキで、帰宅する。
すると、さきほどの声はいう。
「なぜそのまま家に帰った」と。
家にいる母親に
「これを付けておきなさい」
と渡された数珠タイプのブレスレット。
「ちょっとそれ系な感じがして」
「危ないよりマシでしょう」
「じゃ、母さん落ち込みタイプから抜け出してね」
「それはちょっとどうかなぁ」
ため息をついて自分の部屋に戻った。
今日買った書籍を開く。
人はどこから来たか。パンは小麦粉から作られるが、その小麦粉は土から何を貰って小麦へと変化することができたのか。その変化、へんげとはいったい。
と書かれていた。冒頭からぶっ飛んでると思ったが、その続きを読むと、
哲学の世界は昔々の時代から始まる。まだ科学も誕生していなかった頃に誕生していて人々のこう言った疑問に答えてきたとあった。
なるほど、時代が昔だから土から小麦へと変化するこの構造が不思議だったのだと素直に受け止められた。成分とか養分とかまだ言葉がなさそうな時代らしいからなぁ。
違う女性が言った気がした。
「ふ、つまらぬ」
と。
薄い書籍だったので、この日に全て読み終えて、いつのまにかベッドでうたたねしていた。
名前を呼んで起こされた時に、聞こえてきた声は、先ほどの声の女性だったが、目の前に映る人物は聞こえてきた声の位置とは違った。母親だった。
「父さんも帰って来てご飯食べているからあんたも起きて食べてからまた寝なさい」
「うん、わかった」
俺が生まれる前に仕事をやめた母親は、話しに聞いていた独身時代の部下を率いていた女性社員とはほど遠いような気がした。
家でリラックスしているからだろうか。
ついうっかりそのことを母親に話すと、父はむせた。
「よく言った。今度メイクしてばっちり決めるから、あんたもばっちり決めて休日に出かけるわよ」
と凄まれたけれど、いつものように忘れているだろう。
「ん」
とひと言返しておいた。
「父さん今月ピンチなのに」
「分かった。母さんが念じて出してあげよう」
「母さん?」と父さんがびっくりしている。
「ご先祖様息子様どうか母さんにプレゼントする父さんの小遣いを慮って少し恵んであげてください」と母さんがお道化て父さんの悩みを解消しようと言い始めた。
「最低だが、恵んでやらないこともない」有難い提案に即座に乗る。
「あの、もうちょっと素直に、私へのプレゼントを父と息子で出し合って買おうかとか言えないのかい?」と父さんが俺たち親子を諭した。
「ごめんなさい。で、どうかしら」
「それはどうなんだ?」
「いいよ。その話し。自分もちょっとピンチなので助かります」
「親子して事前に分かるプレゼント購入についてもうすこしなんていうのか。ひどいよう」
「ごめん」
「わるかった」
「反省会も兼ねて、焼き肉でも食べに行こう」
姿は見えないが、家族だけじゃなく声の人物も喜んでいるようだ。華やいだ着物や昔の楽器が音を鳴らしているようだった。
本屋行くとトイレに行きたくなるというタイプの人が一定数存在するとテレビで知ったことがあります。私もトイレに行きました。ありがといことありがたいこと。




