小学三年生になる
霊感のある人は子供のころから体験していると聞く。その様子を子供の成長と共に描けれたらと挑戦してみました。
小学三年生になる
とるとるとれーる。そう頭の中で唱えて、いつの日だったか貼ってしまったシールをはがす。ポイントはシールはがし用のスプレーを使うことだ。もうひとつのポイントはこの地味な作業を楽しめるように工夫することだ。あろうことか、以前の私は机にも箪笥にもさまざまなシールを貼って楽しんでいた。朝の支度をする時そのシールを見てはにっこりしてご機嫌で朝をスタートさせたものだった。
しかしそれも部活をする前までの話しだ。部活に明け暮れるようになったある時にこのシールにイライラしている自分が居ることにきがついた。盛り上がったシールは滑り止めの役割をして私の動きを阻害する。
「ああ」
何度かイライラした体験の後に、はずすことに決めたのだ。
自分の中にその外す行為を否定する声が無かったわけじゃない。が、そこまで強い主張でもなかったので、楽しみながら外しましょうということになった。まだ貼っていないお気に入りのシールはちゃんと残しておく。これが私が私に課した譲歩だった。
「この量。楽しかったんだろうなぁ」
友達とのシール交換をする時間は楽しく、得も言われぬ幸福感をもたらした。恐らく、お肉好きがお肉を食べている時の幸福感と同じだろう。
シールをめくる。
―バリバリ
や爪で端のところを
―カリカリ
と掻く音が聞こえる室内に奇妙な音がなった。
―ぷくぅ
「え」
何今の。小さい子供が腹を立てて頬を膨らませる擬態語のような音。いや、声か。
しかし振り向いてはいけないような気がして、シールから視線を外さずにシールをはがす作業を続ける。
すると、また、
―ぷくぅ
と声がした。今のは声に聞こえた。誰の声だったか、聞いたことのある声だ。
そうやって考えを巡らせている間に、ふと、気が付いた。
今自分の居る部屋は自分の部屋で自宅で、その自宅には母と私以外居ないはずだ。いや、弟は居たか。遊びに行っていて居ないはずだ。
しかも自分の部屋に自分と今は他に人は居ないはずだ。では、あの「ぷくぅ」とは誰の声か。その声に答えてしまってはいけない気がする。
「ああ、疲れた。シールをはがすにも大変だわ」
とうそぶいてこの部屋を出て母のもとへと移動することにした。注意が散漫だったのか、椅子の背もたれに腕が当たった。椅子をもとの位置に戻そうとして今度は前に出過ぎた足の指が椅子に当たった。
「イタッ」
痛い足をもう一つの足で軽く抑えて痛みを和らげる。
「ああー、もう」
そのまましばらく耐えていると、笑い声が聞こえたような気がした。とても幼い声でひとつ下の弟よりも幼く感じた。こだます声は女の子にも男の子にも聞こえた。その声もクリアガラスの向こうへと消えていくかのように聞こえなくなってきた。
足の痛みのひいて、母のもとへ向かった。
台所にいた母親はキョトンとした顔をしてこちらを見て確認すると、
「どうした? お腹すいた?」
と聞いてきた。
特に空いているわけではなかったが、
「空いた」と答えて、母が用意してくれていたお菓子を食べて過ごす。
台所で下ごしらえなどを行っている母の様子を眺めながら、母親のこうするといいのよいうコーナーのワンポイントアドバイスのようなことを聞く。
そしてついでのように思い出したのか、
「悪いけれど、お野菜冷蔵庫からとって」
「どのお野菜」
「あんたが嫌いな人参とピーマン」
ふふふと笑いながら伝えてくる母親の顔が憎らしかった。
「なんだよ!」
と抗議の声を上げると、
「美味しく食べられるレシピを手に入れたのだよ。まぁ、ものは試しだ作るから試しに食べてみて」
「人参とピーマンは別々?」
「ははは、一緒だよ」
「ぐっ。何故一緒にする」
「そう、怒りなさんな」
「なんてことだ」
「そんなに嫌がらないの。食べとけばよかったって思うから後で」
「ふん。とにかく人参とピーマン出したから」
「はいはいありがとう」
まったく母親というものはなんでも先生も残さず食べろというが、食べず嫌いで食べていない食材はそれぞれあるだろうに。食材の買い物を母親と共に向かった先で、「これ買わないの」と聞いたら「それ好きじゃないから、こっち」とどうどうと何でもないことのように告げた母親を私は忘れはしない。
その二つが無くても食べられるレシピを考えてそれ色に変えていかなければならないか。
私はそう決意すると、自分の部屋からノートと鉛筆を持ち出し、母親が契約しているタブレットを用いてリビングで人参とピーマンが入っていない料理。他の野菜の料理を検索して美味しいそうなものや自分でも作れそうな簡単なものを選んで、ノートに書き記していった。
「名に調べてるの?」
「内緒」
「ふふふ」
余裕で笑っているがいい。人参のない食卓を目指してピーマン以外の野菜で同じ料理を作ってやる。
下ごしらえする母親の様子から、基本的な料理のことを学ばなければと思い至った私は、もうひとつ料理の基本を検索して、ノートにメモをしていく。
こうして始まった私の料理歴、母親の手伝いをしながらさまざまなことを吸収することにした。母親にそれを伝えると喜んで手伝いを受け入れてくれた。
「おお、嫌いな食べ物があってその解決策に乗り出した結果が、料理を覚えることだとは」
母親は手に持っていた食材を所定の位置に戻すと、携帯電話を持って、素早く両手の親指を使ってチャットで文字を送っているようだった。
「なに?」といって、覗くと
「パパに知らせなきゃ」
と楽し気にしている。
呆れたので、今度はその所定の位置に置いた食材にかけるスパイスを用意していく。
「わー、いつのまに覚えたの。合ってるよ」
ふん。私を誰だと思っているんだ。
そもそもこの母親が私に教えてくれていたのを、もう本人は忘れているようだった。
「お母さん」
「なあに」
「お母さんが教えてくれたの、忘れたの?」
「そう?」
「そうだよ。もう、め、でしょ」
「ごめん。ありがとう」
「そうです。どういたしまして」
「ははは。なんだか一気に大人びたなぁ」
「もう三年生になるからね」
「そうだね。やっと小学校三年生になるね」
携帯電話での会話を終わらせた母親は飲み物を用意してくれて、一緒に飲みながら話しをし始める。
「で、さっき部屋で何をしていたの?」
「ああ、えっと。昔貼って遊んでいたシールをはがそうとして爪でカリカリしていた」
「なにその地味な作業」
「うるさいなぁ」
「確かにあんた凄いシールそのとき好きで買ってってせがんでいたもんね。そしたら自分の部屋にバンバン貼っていってさぁ。参ったけど。ま、リビングじゃないし自分の部屋だからいいかと。ルール決めておいてよかったよね」
睨みつけている私の視線を見ても笑う母親。ムカつく。
そうして話しを終えた後に、飲み物のお代わりをもって、自分の部屋に移動した。
「あっちいけ!」
と一喝して怒る。
すると窓ががたがた揺れた。そこで、窓を開ける。すると、風と共にするすると移動したようだった。
鼻息荒くして、腰に手をやっていた私は、飲み物をひと口飲むと、またシールをはがし始める。今度は机の一部を残して置いて、後は全てはがした。はがすのに時間はかかったが思い描いていた当初の目的に近い形に収まった。
置いておいた飲み物はすっかりぬるくなっていてあまりおいしいものじゃなかったけれど、終った最後に飲み干した。
「あ゛あ゛」
掃除をした後の母親のような姿が自分にも現れたのに気が付いて、恥ずかしくなった。嬉しい気持ちもあるが、恥ずかしい。さきほどあれだけ反発心が芽生えたのに。
階下で弟の声が聞こえる。
「ただいまー」
「おかえりー」
彼らの挨拶を聞いていて何故か疎外感を感じたので、階段の上から、
「おかえりー」と声をかけた。
すると弟は、リビングから駆けだしてきて、階段の下まで来てこちらをのぞいて、
「ただいまー」と目を合わせて挨拶をしてくれた。
安心した私は、うんと笑顔で頷いてから自分の部屋に戻って、空のグラスをもって階下へ降りた。
「お姉ちゃんただいま」
「おかえり弟よ」
「ふふふ」
家族三人で、ゲームをして過ごした。
いかがでしたか。なんだか大人っぽいと感じたあなた。正解です。言葉を意識して大人のような言葉遣いにしました。本人が家族と話すときは子供の言葉遣いになってたかと思います。私が意識してそうしました。その方が読む方に伝わるだろうと。さらっと読んでまた大人たちの会話に入って行くには、これくらいの言葉遣いが良いだろうと考えたからです。以上。




