第二章 開花異変編 第十六話「開花異変」
妖幻郷――沙霧村。
穏やかな朝の光が村を包み込んでいた。
「領主様、おはようございます」
「おはよ、元気そうだね。変わりない?」
源 梨花は軽く手を振りながら答える。
「えぇ、えぇ、あなた様のおかげです。領主様はどうしてこちらに?」
「散歩。たまには外に出ないとね」
のんびりとした空気。
つい先日、大きな異変を解決したばかりとは思えないほど、平和な時間が流れていた。
「おやおや、領主様も散歩をなさるのですね」
ふいに声がかかる。
振り向くと――
そこには、奇妙な姿の少女がいた。
空中に浮かぶ、大きな鎧の“大袖”が二つ。
その中心に、小柄な少女がいる。
「亜子!」
「はい。人妖、塗壁一族――不老 亜子です」
丁寧に頭を下げる少女。
その後ろから、豪快な笑い声が響く。
「はっはっはっ!この天気ですじゃ、きっと散歩も気持ちのいいもんでしょう」
「おじいちゃん……」
現れたのは、塗爺。
人妖・塗壁。
人の行く手を阻む存在として知られる妖怪の一種であり、近年では人間が妖怪化した“人妖”としての個体も増えている。
「塗爺! 山から出てきて大丈夫なの?」
梨花が驚いたように言う。
「はっはっはっ!問題なんぞありゃせんよ。孫の様子をたまには見んとな」
「おじいちゃん、私はもう子供では……」
「はっはっはっ!!」
豪快な笑い声が、村に響く。
――その時。
「……ん?」
梨花の視界の端で、何かが揺れた。
ぽつり、と。
「……花?」
そこには、一輪の桜が咲いていた。
「でも、なんでここに……」
今は、季節ではない。
それなのに――
「む? ……ここでもか」
塗爺が、少しだけ真剣な顔になる。
「塗爺、なにか知ってるの?」
「いやなに、最近のことじゃ」
ゆっくりと語る。
「時期でもないのに、桜が咲くんじゃよ。そのようにな」
「はい」
亜子も頷く。
「村でも、よく見かけますね」
そして、小さく言葉を続ける。
「……異変、でしょうか」
沈黙。
風が、静かに吹き抜ける。
「……うん」
梨花は、その花を見つめながら頷いた。
「調査してみよう」
――沙霧村、源家屋敷。
「ふむ……」
八咫烏は腕を組み、考え込む。
「時期でもないのに、桜が様々な場所で咲く、か……」
低く呟く。
「調査してみる価値はあるな」
「ですよね」
梨花も真剣な表情で頷く。
「まずは、沙霧村を調査しよう」
「はい!」
こうして――
新たな異変の調査が始まる。
静かに咲く、一輪の桜。
それは、美しくもあり――
どこか、不気味でもあった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




