第二章 開花異変編 第十七話「調査」
妖幻郷――沙霧村。
春でもないのに、村のあちこちで桜が咲いている。
それは美しく――
だが、確かに“異常”だった。
「……思ったより、多いね」
源 梨花は、村の道を歩きながら周囲を見回す。
家の軒先。
道端。
井戸のそば。
ぽつり、ぽつりと――
まるで“植えられた”わけでもないのに、桜が咲いている。
「うむ」
八咫烏が低く応じる。
「しかも、どれも咲き方が不自然だ」
「不自然……?」
梨花が近くの桜に歩み寄る。
よく見ると――
「……これ、一本の木じゃない」
地面から直接、枝のようなものが伸びている。
まるで、“途中だけ”が存在しているような。
「根も幹も曖昧だな」
八咫烏が観察する。
「自然の植物とは思えん」
「……じゃあ、誰かが作ってる?」
「可能性はある」
短く答える。
その時。
「領主様〜!」
畑仕事をしていた村人が声をかけてきた。
「どうしましたか?」
梨花が駆け寄る。
「この花なんですがねぇ……」
困ったように桜を指差す。
「綺麗なのはいいんですが、気づいたら急に咲いてて……」
「急に?」
「えぇ。昨日まではなかったはずなんです」
梨花と八咫烏は顔を見合わせる。
「一晩で……か」
八咫烏が呟く。
「成長速度としては異常だな」
「それにですね……」
村人は少し声を潜める。
「なんだか、近くにいると……落ち着くというか……」
「落ち着く?」
「えぇ、不思議と気分が良くなるんですよ」
その言葉に、八咫烏の目が細くなる。
「……精神に干渉している可能性があるな」
「え?」
梨花が振り向く。
「この花、ただ咲いているだけではない」
低く続ける。
「人の感情に作用している」
梨花はもう一度、桜を見る。
確かに――
見ていると、どこか安心する。
嫌なことが、どうでもよくなるような。
「……これ、危なくない?」
「使い方次第だな」
八咫烏は淡々と答える。
「だが、意図的にばら撒かれているのだとすれば……」
そこで言葉を切る。
「……異変だな」
静かな断定。
梨花は小さく頷いた。
その後も――
二人は村の各所を回った。
井戸の周り。
子供たちの遊び場。
家々の裏手。
どこにも共通しているのは――
“突然現れた桜”
そして、
“見ていると心が緩む感覚”
「……数が多すぎる」
一通り見終え、八咫烏が言う。
「一点から広がったものではないな」
「うん……」
梨花も考え込む。
「いろんな場所に、同時に出てる感じ」
「となると……」
八咫烏は視線を遠くへ向ける。
「発生源は別にある可能性が高い」
風が吹く。
桜の花びらが、ひらりと舞った。
「……ねぇ、八咫烏」
「なんだ」
「村の外も、調べたほうがいいよね」
「あぁ」
即答だった。
「特に、水場や作物のある場所は要注意だ」
その言葉に、梨花ははっとする。
「……田んぼ」
村の外れに広がる、広大な田畑。
もしそこにも――
「次は、そこを調べよう」
「うん!」
二人は顔を上げる。
静かに広がる異変。
その正体は、まだ見えない。
だが確実に――
“なにか”が、この妖幻郷に干渉している。
調査は、まだ続く。
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次回もお楽しみに




