↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『絹乃国』〜推しの小栗上野介を救いたい転生幼女、まずは天保の大飢饉から村を救います〜  作者: 天のまにまに
第4章:転章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/27

第7話:二十九歳児の自由研究

 考えてみればさ。

 お父さんも若いんよ。


 怒られてから気がついたけど、お父さんの年齢は満で二十三だよ。

 私より六歳も年下。

 お母さんも同じ。

 私が小学校卒業した時、ピカピカの一年生で入学じゃん。


 ちょんまげと日焼け顔に騙されたよ。

 ついでに名前が『作造』だもんね。

 うちの金造じいちゃんのイメージ強すぎでございました。


 金造じいちゃん、田口の家で五歳まで一緒に住んでいたけど、糖尿病が悪化して透析生活の後、死んじゃったんだよね。

 あの家、まだ空き家で残っているけど、もうボロくなって住めないだろうな。

 住めれば住居費浮くんだけど。

 そろそろお金貯めて、地に足をつけた人生を送ろうかなと、ちょっとだけ考えていた。


 よし、今回の屋根登り騒動でも懲りたから、地道に生きよう。

 地に足をつけて、安全に慎重に計画的に生きるんだ。


 ◇◇◇◇


「ということで、今日から地上の星を探すんだ。地道に養蚕を科学します」


「? かがくってなあに?」


 糸ちゃん先生が五匹のお蚕様に餌をあげながら質問してきた。


「むふー。よくぞ聞いてくれました。そう。科学。昨日と今日を比べて、どうすればお蚕様がもっと元気に育つか調べるのです」


 糸ちゃんに取って代わって先生になってやる。

 自慢ポーズをとって講義を始める。


「ふ〜ん」


 しかし反応が薄い。


 ちっ。


 いいでしょう。

 今に見てなさい。


 科学の神様、あなたの信奉者にご助力を。

 技術の天使さま、我に力を。


 糸ちゃんよ、二十一世紀の知識チートの津波に押し流されるがよいぞ。


 ふぁ〜っ、はっはっは〜。


「きぬちゃん。ここ、うんちあるよ」


「⋯⋯片づけます」


 下剋上失敗。

 科学以前の問題でした。




「まずは個体管理からです」


 私は小さな板切れと消し炭を用意した。


 そこへ、


 一。

 二。

 三。

 四。

 五。


 と書く。


「いち、にい、さん⋯⋯?」


 糸ちゃんが覗き込む。


「こっちがカイコ一号。隣がカイコ二号。その隣がカイコV3、まちがい、三

号」

「なんで?」


「一匹ずつ成長を記録するからなのだよ」

「せいちょう?」


「大きくなったかどうか」

「ああ」


 わかったらしい。

 さすが糸ちゃん先生。

 ではカイコ一号さんから観察しましょう。


「⋯⋯あれ?」


 五匹がもぞもぞ動いている。

 一号が二号の場所へ。

 二号らしき個体が三号の方へ。

 三号と四号は接触。


「一号、どれ?」

「わかんない」


「二号は?」

「わかんないよ?」


「⋯⋯」


 識別不能です。


 五匹とも白いナイスなバディ。

 五匹とも似てる。


「個体管理、開始五分で終了しました」

「おわったの?」

「おわりました」


 ま、最初からうまく行かないのはお約束。

 ならば全体の管理から始めよう。




「次。記録です!」


 桑をあげたら一本線。

 掃除をしたら丸。

 食べ残しがあったら三角。

 板に消し炭で記録する。


 うん。

 わかりやすい。


 昼。

 板の半分が埋まった。


「⋯⋯」


 夕方。

 ほとんど埋まった。


「⋯⋯保存領域が足りない」

「ほぞん?」


「書くところがなくなりました」

「けせば?」


「消したら昨日と比べられないでしょうが!」

「なんでおこるの?」

「ごめんなさい」


 二十九歳児、満四歳児にたしなめられる。


 さて、どうする。

 紙があれば。

 いや、紙はある。

 でも現代みたいにノートを何冊も使える世界じゃない。


 そもそも私は五歳児だ。

 自由研究用ノート買ってきて、なんて言ったらお父さんに、


「じゆうけんきゅうとはね〜」


 から説明しなきゃならない。

 面倒くさい。


「きぬちゃん」

「なに?」


「いしじゃだめ?」

「石?」


 糸ちゃんが庭から小石を拾ってきた。

 白っぽいのをこっち。

 黒っぽいのをあっち。


「くわあげたら、こっちにいっこ」


 ころん。


「おそうじしたら、こっち」


 ころん。


「⋯⋯」

「だめ?」

「いや」


 待て。

 これ。


「記録できてるじゃん」

「きろく?」


 しかも消し炭みたいに擦れて消えない。

 板みたいに書く場所もなくならない。

 昨日の分は少し離して並べておけばいい。


「糸ちゃん先生」

「なあに?」


 トンビ座りの太ももの上、糸ちゃんのお手々をグァシと握る。


「あなたが神ですね」

「?」


 幼女の皮をかぶった科学の神様は、理解できずににっこりしていた。




 次は桑だ。


「毎回同じ量をあげます」


 ひとつかみ。

 これで一回分。


「糸ちゃんもやって」

「うん」


 ひとつかみ。


「⋯⋯」


 小柄な糸ちゃんの手の方が小さい。

 当然、桑の量も少ない。


「手の規格が違う」

「きかく?」

「なんでもありません」


 だったら秤。


 ……ない。


 技術の天使さまは、早くもお助けになってくれませんです。


「これでいいんじゃない?」


 糸ちゃんが持ってきたのは、小さな竹籠だった。

 前におままごとで使ったやつ。


「これにいれるの」

「⋯⋯」


 一杯。

 二杯。

 誰がやっても同じくらいになる。


「計量カップじゃん」

「おままごとのだよ」


「本日より主力研究兵器に昇格しました」

「?」


 科学技術の進歩とは、身近なものから始まるのである。

 たぶん。




 午後。


 糸ちゃんが、すっと障子を開けた。

 ほんの少しだけ。


「なんで開けたの?」

「あつそうだから」


「糸ちゃんが?」

「おかいこさま」

「⋯⋯」


 私は蚕を見た。

 わからん。


「どこ見てそう思ったの?」

「なんとなく」


 出たな経験則め。

 科学の敵。


 ⋯⋯いや。

 待てよ。

 糸ちゃんは朝からずっと蚕を見ていた。


 桑を食べる様子。

 動き。

 触った感じ。


 私は?


 部屋が暑いとか。

 風があるとか。

 障子から日が入るとか。

 そっちばかり見ていた。


「私、部屋見てた」

「へや?」


「糸ちゃんは、お蚕様見てた」

「うん」


 当然みたいな顔をされた。

 解せぬ。


 いや。

 これ、解せるぞ。

 部屋の状態だけ記録しても駄目なんだ。

 そのとき蚕がどうだったか、一緒に残さないと意味がない。


「⋯⋯糸ちゃん」

「なあに?」


「石、もっと拾おう」

「いっぱい?」

「いっぱい」


 障子を閉めた日。

 ちょっと開けた日。

 たくさん開けた日。

 桑を一籠食べた日。

 二籠食べた日。

 よく食べた日。

 あまり食べなかった日。


 全部並べておけばいい。

 そして、あとで比べる。


「ふふふ」

「きぬちゃん?」

「見えてきましたよ」


 お蚕様、五匹。

 研究員、二名。

 小石、いっぱい。

 研究器具、おままごとの籠。

 予算、ほぼゼロ。


「田口村養蚕研究会、ここに発足です!」

「いとと、きぬちゃんだけ?」

「最初はいつだって少数精鋭なのです」


「なにするの?」


 私は五匹のお蚕様を指さした。


「こいつらを元気に育てて、いっぱいお金を稼ぎます」

「おかね?」


「そう。そして江戸へ行く」

「えど?」

「そして小栗様に会う!」


 札幌のクラーク博士ポーズ、決まったな。

 やはり大志は持つべきですよ。


 糸ちゃんは、お蚕様を見た。

 私を見た。

 もう一度、お蚕様を見た。


「⋯⋯とおくない?」


「⋯⋯」


 蚕五匹。

 小栗様まで約百三十キロ。


「まあ、始まりなんてこんなもんです」


 たぶん。





 五匹のお蚕様の御殿、小さなザルがおいてある廊下の片隅。

 そこに並べておいた小石をお母さんが片付けたと聞いて、愕然とした。


「あそんだら、しっかり後片付けしなさい」


 科学技術発展の道は険しい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。