第6話:重い思い、受け止めました
拝啓、視聴者様。
KINUは現在、チュートリアルをしております。
さすがナイトメアモード。
日々が無理ゲーの連続です。
あ、KINUは私のJカルで名乗っている仮名。
「どくとる、どうしているかな。チュートリアルに出てくる日本の農村風景にドハマリしていたっけ」
シルジェネの最初はチュートリアル風のスタートで、架空村が『はじまりの村』っぽい雑な作りだった。でも妙に風景とか凝っていて、それがジャパヲタのニキネキ達を惹きつけていた。
村を出るとなんか急に雑になって、簡易マップで前橋とかに出ちゃうんで、どこにあるか見当もつかなかった。
思い起こせば、あの簡易仕様は初見殺しの衝撃を和らげる親心だったのか? ⋯⋯。からくり堂に限ってそんな優しさはござらぬ。制作者のニヤリとする表情が見えるゲームだ。
だが、ここがもしシルジェネ準拠の世界だとすると、村の位置とかは現世と同じなのか? ニヤリ顔が見えてこない世界なら万々歳。
では、周りの状況をこの目で確認せねば〜、っということで見晴らしの良いところに立ってみた。
「おおお、さすがに農家の茅葺き屋根は高いわー。東西南北、一望のもと」
そうです。
ちょうどいい具合に、屋根の修繕をしている時のハシゴが屋根に立てかけてあったので、ひいこらいいながら登ってきたんだよ。
小学生の肋木登りよりきついわ。
登るときかいた汗が風で乾く。
六月初頭の風はここちいいのである。
この田口村。
令和では国道十七号が南北に走って、前橋と渋川の間くらいにあった。
でも当然、今は国道なんてない。
西には、くねくね流れる川。
たぶん桃ノ木川。
その向こうには、もっと大きな利根川。
南北には、川沿いの少し高いところを細い道が延びている。
南へ行けば前橋。
北へ行けば沼田方面。
西には渡し船らしきものも見える。
東はもう赤城の裾野だ。
これが見たかったのだよ。
実は、転生を実感した後、何度も家を抜け出してリアル実家を探そうとした。
けど、あの江戸直行便以来、危ないと言って外へ出してもらえなくなってしまった。
若気の至りとは言え、失敗したね。
「⋯⋯あれ?」
思っていたより、道が集まってる。
川があって、渡しがあって、前橋へ続く道があって、北にも抜けられる。
「田口って、意外と立地よくない?」
リアルで稼ぐなら、交通は大事。
そんなことを考えながら視線を東へ向けると、田んぼの向こうにひときわ大きな屋敷が見えた。
丘の上には神社。
その麓には、蔵に囲まれたでっかい屋敷。
「うん。あれ絶対、庄屋様とか地主様の家だ」
小さい時一緒に暮らしていたじいちゃんが見ていた時代劇を思い出す。
悪代官と結託する悪人の巣窟だね。
まあいいや。
前菜はここまで。
これからが、本日のメインディッシュである。
私は、額に両手のひらをかざして念じる。
「さあ、お前の性能を見せてみろ。発動、小栗レーダー!」
ぴくぴく。
ざざざっ。
「艦長、南南東に感あり。距離およそ百三十!」
百三十km。だいたいそのくらいかな。
小栗屋敷がある東京神田駿河台一丁目八番地まで、たぶんそのくらいだ。
くんか、くんかくんか。
両手を広げて、小栗成分をこの身に受ける。
なんとなく、通常の聖地巡礼よりも濃い気がするね。
やっぱ、時代がおんなじせいかな。
もうちょっと堪能しようか、と思っていたら
「絹乃、絹乃っ! なんてとこいるの! 危ないでしょ!!」
絹を切り裂く女の悲鳴。
びっくり感満載で、絹乃も切り裂かれそうじゃん。
「こら〜! 絹。早く降りてこい!」
お父さんもお冠かぁ。
あのげんこつは覚悟しよう。
それだけの収穫はあったからね。
グァキッ!
お父さんに抱えられて地上に降り立った私を迎えたのはもちろんげんこつ。
痛いっす。
お父様、いつもの十倍くらいは痛いっす。
「バカモノ! 落ちたら死ぬんだぞ。なぜそう思わない。なぜ先のことを考えない。なぜお母さんが心配すると思わない。なぜ⋯⋯!」
二発目三発目が来ると思ったけど、それは来なかった。
いつもは無口なお父さん。
無愛想なお父さん。
慎重なお父さん。
それが慌てている。
目にちょっと涙っぽいものが。
「絹乃! あなただけ。あなただけしか私たちにはいないの。あなたが死んじゃったら私、生きていけないのよっ!」
重たい思い。
重すぎる。
それ、言われるほうも辛いっす。
だって、おいそれと死ねないじゃん。
無理できないじゃん。
人生、冒険できないじゃん。
「絹、母さんはお前を生んでから体が弱くなった。お医者様に診てもらったがお前の兄弟は望めん」
なん⋯⋯と。
ああ。
道理で糸ちゃんちには兄ちゃん姉ちゃんがぞろぞろいるのに、うちは私一人なのがわかったよ。
むぎゅ。
むぎゅぎゅぎゅ。
お母さんのハグが強いのはこのせいだったか。
前世で感じなかった母の温もり、思いを身にしみて感じた。
ちょっとだけ。
ちょっとだけお転婆だったかな。
これからは、ちょっとだけいい子にしてみよう。
冒険はちょっとだけにして、慎重に慎重に。
二十九歳児。
自分の死よりも重たい思いを感じた。




