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『絹乃国』〜推しの小栗上野介を救いたい転生幼女、まずは天保の大飢饉から村を救います〜  作者: 天のまにまに
第1章:絹の家

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第5話:幼女は夜な夜な作戦立案

「お冬さん。いつもいつも糸がお世話になってありがとうございます。こんなものしか、お返しできませんけど」


 糸ちゃん先生がお家に帰る時刻になって、糸ちゃんのお母さんが迎えに来た。

 ちなみに、お冬さんはうちのお母さんの名前。


「トモさん、そんな気にしないでいいんさね。それ、立派なお大根ねぇ。じゃあ、うちでふろふき大根にするから、一緒に食べましょ」


 糸ちゃんのお母さんのトモさんは、いらないというのにいつもお礼として何かしら家でとれた野菜を持ってきてくれる。


 だが糸ちゃんちは庄屋さんの小作人、いわゆる水呑み百姓。だからそんな余裕はないはず。

 それでもお礼を持ってくるから、お母さんはお料理してお返しする。

 小作人には料理のための薪、ましてや炭を買うような余裕はない。

 だからお母さんは、面子を潰さないように支援しているんだ。

 そのため糸ちゃんちのお父さんやお母さんは、うちの桑畑の手入れや水路の修繕をしてくれるので助かっているんだ。


 こういった義理と人情でつながっているのが昔の日本なんだね。

 前世の私は、アパートの隣に住んでいる人の顔を見ることもほとんどなかったよ。いざという時、なにかあっても助けてくれないだろうなぁ。


「きぬちゃん、ばいばい。またあしたね」

「うん。また明日も蚕の世話、おしえてたもんせ」


 ついつい、どこかの方言を使ってしまったい。

 そろそろ上州弁にも慣れてきたので、脳内変換していこう。


 糸ちゃんが、お母さんに手を引かれて、うちのすぐ裏の自宅へ、とてとてと帰っていく。


「おっかあ、それでね、きぬちゃんね、さいきんおかしいの。なんかちがうひとみたい」


 なんと。

 気がついていたのか。

 おそるべし糸ちゃん先生。

 満四歳ですでに違いがわかる大人になっているとは。


「でも、まえよりおもしろいから、あそんでいてたのしいよ」


 さいですか。

 天狗様、よい働きをしなさる。

 私を改造して、人に好かれる人物にしてくれたんですね。

 居間に飾ってある天狗面を毎日拝めば、もっと優秀な改造人間にしてくれるであろう。


 ◇◇◇◇


 最近日課にしている寝床のなかの作戦立案タイムになった。

 

 なんとか、養蚕でぼろ儲け作戦の糸口はみつかった。糸ちゃん先生といっしょに世話しているお蚕様は元気に育っている。

 さすが私。

 ゲームで何千回も育てた実力を発揮して⋯⋯ないな。


 全部糸ちゃん先生が主導で作業しているのが実情。

 不甲斐ないぞ私。

 なんとか挽回せねば、二十九歳年長さんの沽券《こけん》に関わる。


 そうだよ。

 私には、ゲームクリアへの執念とデータ集計、分析、解決策の立案能力があるではないか。

 怪しいシルジェネ検証班からのお誘いも何度かあったし。


 でも、小栗様の生き残り作戦ばっか提案してたら連絡が来なくなった。


『勤王派巨頭を小栗流近代化政策で洗脳する方法論』


 とか、


『菱垣廻船を私掠海賊化させて、薩摩藩の琉球密輸船を略奪する海戦例』


 とかの検証データを出しまくったからかな。

 結構、自分ではうまくいくと思ったんだけど。

 懐かしい思い出ですな。


 その攻略術を駆使して、リアル養蚕をシステム化する。

 まず必要なのはデータだ。


 温度。

 湿度。

 桑を与えた量。

 食べ残し。

 フンの量。

 成長速度。

 病気になった数。

 これを毎日記録する。


 完璧だ。

 科学的養蚕への第一歩である。


 ⋯⋯。

 うん、温度計ないじゃん。

 当たり前だが湿度計もない。


「⋯⋯」


 作る?

 温度計ってどうやって作るんだっけ。

 水銀?

 いやいや、五歳児が水銀扱ったら普通に怒られる。

 その前に水銀どこで買うんだ。

 却下。


 なら体感温度。


 暑い。

 ちょっと暑い。

 ちょうどいい。

 寒い。

 四段階評価。


 科学はどこへ。


 湿度は?


 じめじめ。

 ちょいじめ。

 ふつう。

 からから。

 よし、四段階。


 科学ってなんだっけ。


 次いってみよ〜。

 桑の量。

 これは数えればいい。

 一枚、二枚、三枚。

 いや葉っぱの大きさ違うじゃん。

 重さで量る?

 秤《はかり》?は、あるな。


 でもお母さんが料理とか商売に使う大事なやつ。

 五歳児が、

「おかいこさまの、ごはんはかりたいからかして~」

 なんて言って貸してくれるかな。


 ⋯⋯無理だな。

 だったら束で数える。

 ひとつかみ。

 ふたつかみ。

 三つかみ。

 私の手、小さいけど。


 まあ、毎回同じ手なんだから比較はできる。


「おお」


 いけるじゃん。

 紙に記録して⋯⋯。

 紙。

 高いよ、きっと。

 そうだった。江戸時代だった。


 じゃあ木の板に炭で書く?

 消せるし。


 おお。これならいける。


 温度、四段階。

 湿度、四段階。

 桑、ひとつかみ単位。


 お蚕様の元気度。

 元気。

 普通。

 ちょっと変。

 死にそう。


 ⋯⋯。

 最後だけ急に雑だが、なんとかなるであろう。


 れっつとらい。

 最初から完璧なシステムなんてない。

 データを取り、分析、検証し、改善する。

 PDCAである。


 江戸時代にPDCA。

 なんかカッコよくね?


 これを積み重ねれば、


 病気になりにくい条件がわかる。

 ↓

 よく育つ桑の量もわかる。

 ↓

 繭の出来が良くなる条件もわかる。

 ↓

 そして収量アップ。

 ↓

 品質アップ。

 ↓

 利益アップ。

 ↓

 お金が貯まる。

 ↓

 江戸へ行ける。

 ↓

 小栗様に会える。

 ↓

 小栗様を強化できる。

 ↓

 横須賀製鉄所が建つ。

 ↓

 幕府財政再建。

 ↓

 日本近代化。

 ↓

 明治政府でも超活躍。

 ↓

 小栗忠順は、死んでも政治を離れませんでした。


「完璧じゃん」


 お蚕様五匹から、日本近代化までつながった。

 その中心には小栗様の快進撃!

 我ながら美しい攻略チャートである。


 その礎に我が家の養蚕革命を!

 うん、いける。

 このゴールデンルートを明日から作成し、さくせぃ⋯⋯ぐーすぴーー。


 いつも睡眠のゴールデンタイムに中断される作戦タイム。

 幼体特有の強制終了、なんとか解除できないものか。


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