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『絹乃国』〜推しの小栗上野介を救いたい転生幼女、まずは天保の大飢饉から村を救います〜  作者: 天のまにまに
第1章:絹の家

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第3話:もしやここは乙女ゲー世界。だったらいいねー

 どうやら私は、天保二年、西暦一八三一年の上野国にいるらしい。


 つまり江戸時代末期の群馬県。くわしく言うと前橋の北の端、田口という集落。


 しかもここ。私のリアル実家がある町だったよ。名前もなぜか同じ絹乃。隠し苗字はやっぱり塩原。


「⋯⋯そこまで一緒かい」


 ま〜、考えてもしかたない。心の棚の片隅にしまっておこう。大したことじゃなかろ〜。

 いや。大したことかもしれないけどさ。人生、なんでも深刻に考えたらおもしろくないでしょ〜に。


 それより重要なのは、どうやらこれは、知らない幼女の体を乗っ取ったとか、そういう感じではないことだった。


 数日生活していると、女の人がお母さんで、男の人がお父さんであるという実感が少しずつ湧いてきた。


 この家も憶えている。

 あの柱の傷も、お父さんが私の背丈を計ってくれたものだ。囲炉裏で作る上州名物おっきり込みも、味に馴染みがある。便所の使い方も憶えていたし、前に肥溜めへ落っこちそうになって怖い思いをしたことまで思い出した。


 つまり。


 ここにはちゃんと、「この時代の絹乃」として暮らしていた記憶がある。


「⋯⋯どういう仕組み?」


 もちろん答えなんてない。なぜ私がこんなことになったのかも、全然心当たりがなかった。


 トラックに轢《ひ》かれた憶えもない。水色髪の駄女神様とか、存在えっくす的な老人に話しかけられた記憶もない。


 だけどスライムでも、剣でも蜘蛛でもない、ごく普通の幼女に転生したのだからラッキーとしかいいようがないね。

 世界大戦もしていないから、魔導士官になって泥沼の東部戦線で戦わずに済むし。


 あとで日本を戦乱に巻き込むペリーの野郎が来るのも、二十二年も先。

 まだまだ平和です。

 たぶん。


 そこで私は、前から頭の隅に引っかかっていたことを思い出した。


「ん?」


 ちょっと待って。

 シルジェネの開始年って、天保七年だよね?

 今、天保二年。

 五年前じゃん。


 もしここがシルジェネそのものなら、時代設定が違う。

 いや。

「シルジェネじゃね?」とは思ったけど。でも、よく考えれば一致しているのは、


 上州。

 天保年間。

 養蚕農家の子。


 そのくらい。


「⋯⋯なんで五年前?」


 これは放っておけぬ。

 超重要な問題だ。

 CPU全開!


 真っ先に思いついたのは、やっぱり乙女MOD。


「そうか!」


 乙女MODセットに、幼馴染みモードがあったとか!

 攻略対象と幼少期から始められるやつ!?

 あまり確認せずにPCに突っ込んじゃったからね。

 もしかしたら幼馴染みモードだけじゃなくて、乙女ゲー準拠の学園ものに書き換えられていて、そのゲームの中に転生とか!?


「ある。十分ある」


 だってMODだし。

 何が起きても、からくり堂界隈なら不思議ではない。しかも幸いなことに、私は小栗様と同い年の数え五歳。


 ということは。

 通っていた塾や道場で一緒になれる可能性がある。

 隣の席に座る。

 一緒に勉強する。

 幼い頃から未来知識を仕込む。


 そして――。


「甘い幼馴染み交際計画、発動だ〜!」


 なにしようかな。

 前世、動画で集めた知識を伝授しまくるの、どうよ。


 まずは、上司と敵対しないための、やんわりとした受け答えレッスン。

 リアルで私がやったら、

「舐めてんのか、ゴルァ!」

 と言われたけどね。


 外部との折衝の際、できるビジネスパーソンとしてのプレゼン四十八手なんてどうよ?

 企業勤めなんてしなかったから、私には無駄テク知識だったけどね。


 為替介入時に西洋に負けないためのチャートの見方もいいね。

 FXや先物売買、一回も儲けたことなかったから、ハイパー小栗様に夢を託すのだ。


 いいね、乙女ゲー。

 すごいぞ、幼馴染みモード。

 夢が広がるわぁ。


「じゃ、いざ鎌倉――じゃなくて、いざ江戸へ参るっ!!」


 そう叫んで走り出した。

 が。家を出るとき、草履《ぞうり》を忘れるわ、逆方向の北へ向かうわ、足が遅いわ、家から百メートルくらいで息が切れるわーで。


 私、悟ったね。


「自分、数え五歳の幼女。江戸まで行くのは無理ゲーです、上野介様、無念であります!」


 我が家は前橋の北のはし。


 田口という集落。

 江戸まで百キロ以上ある。


 しかも私の数少ない解像度の高い知識、小栗家が拝領している西群馬の権田村から中山道まで出て、高崎を通って江戸までの道は聖地巡礼コースだからわかるけど、こっから高崎までの道がわからん。


 私の推し活知識、役に立たね〜。


 そこで作戦を練ったよ。

 まずは体を鍛える。

 それからお金も貯める。

 家族の信頼を勝ち取って、江戸へ行く理由を作る。


 なんとかして小栗様のお屋敷にたどり着いたら、その敷地内にある安積艮斎《あさかごんさい》の私塾・見山楼に潜り込む。


 四年後くらいに、小栗様は安積艮斎の塾へ入るはず。

 私も小栗様も、数え九つ。


 え?

 女が入塾できるもんかって?

 この世界が乙女ゲーMOD準拠なら当然入れるであろ〜。


 もし入れないんだったら、入れるように工作するまで。

 でも。

 工作するにはお金がいる。

 多分いる。

 たくさんいる。


「なら、まずは小銭を稼がねば」


 次第に稼ぐ金額を上げていかないといけない。

 さいわい、この上州は養蚕が盛んだ。

 お蚕様に稼いでもらおう。

 ゲームでは何千回も育てたし。

 なら現実でも余裕っしょ。


「勝ったな。先おめ」


 私は再び勝どきポーズを食事中にしてしまった。

 どうやら口からは、唾とともに大量のお米やら何やらが飛んでいった。

 その晩は、興奮からか頭が痛かったね。

 ズキズキです。


 しつけに厳しいお父さんってばさ⋯⋯。

 そのげんこつ、超痛いです。

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