第29話:神が芋背負ってやってきた
「では継太郎さま、榮太郎さま。行ってまいります」
年末、新暦ではもう一月だ。
今にも雪が降りそうな中、本家の門で出立の儀が行われていた。
本家の使用人の中では一番の有望株らしい福吉さんが、緊張した面持ちで見送りの私たちに礼をする。
「何かあっても必ず帰れ」
継太郎さんが厳しい表情で言う。
「盗賊に襲われた時は迷わず、銭を投げつけてその隙に逃げるんだ」
榮ちゃんの言葉に福吉さんが真剣な顔でうなづき、不懐の銭袋を確かめるように撫でる。
「まずは、前橋の陣屋に寄り、手形を交付してもらいなさい。そして川越の郡奉行様に甘藷の種芋をもらえないかお願いする。その後は江戸で⋯⋯」
誠一郎さんが最終チェックをしている。
この時代の旅は命がけ。
入念な支度が必要だとのこと。
私も餞別を渡す。
「これを持っていってください」
「これは?」
糒を一食分と塩ひとつまみ。
それにお母さんと一緒に作った白米のおにぎり。
最後に熱々に温めた懐石を入れた綿入れ。
「天なお寒し、自愛してね」
カッコつけて、じいちゃんから聞いたセリフをもじっちゃった。
にっこり笑って照れ隠しした。
本当は真剣だよ。
この人の肩に田口の未来が掛かっている。
「天狗さま、なんと言ってよいやら」
天狗言うなし。
わたしゃそんなに怖いんかい。
ま〜、頭の変な特異点と思われているらしいから不気味ではあるだろうけど。
こうして福吉さんは南へ向かって旅立っていった。
本家の門でお見送りをしてから村倉の見学をして、段々と積み上げられていく物資を確認。
少し安心感が広がったよ。
一応、田口村全員の食料の半年分は持つくらいは溜まったらしい。
普通ならこれで良しとすると思う。
でも四年以上続く飢饉を迎え撃つには、再生産の能力が必要不可欠だ。
その再生産も冷夏や干ばつに対応できる作物が必要。
甘藷。
サツマイモだよ。
これが超重要。
令和の時代でもサツマイモの産地であった、前橋の本藩である川越。
ここで種芋を分けてもらうことは飢饉対策の中心だ。
田口は自分の領地だから多分すんなり分けてもらえるはず。
だが問題は⋯⋯
栽培技術だ。
種芋があったとしても、その育て方がわからなければすぐだめになる未来しかない。
福吉さんの任務は、この人材の招聘だ。
私は福吉さんの向かった沼田街道の南に向かって拝んだ。
福吉さん。
どうかいっぱい福を持ってきてください。
「さてと。今日も寒いね。早くお家へ帰って囲炉裏の前で正月飾りを作ろっと」
沼田街道を横切りお家へ帰ろうとすると、道標の石の前に横たわっている人影が。
衣服は時代劇にでてくる浪人風。
刀も二本差している。
背中には大きな籠を背負っていて、菰も丸めて下げている。
「み、水をくれ」
うん。
典型的な行き倒れだ。
シルジェネでもよくあるイベントですな。
シルジェネイベントの癖はよく知っている。
こういったイベントでは、大抵数年後に後ろから殴ってくる罠になっているんだ。
忘れた頃に「お前だったのかぁ〜」となる。
〈水をあげる〉
〈立ち去る〉
〈石を投げる〉
〈誰かに通報する〉
みたいな選択肢が出てきて、初心者は大抵〈水をあげる〉を選ぶんだよ。
すると追い剥ぎだったり、盗賊だったりする。
だからって無視すると、たま〜に、その人が超重要人物で、後々その人に会った時、親密度や信頼度がマイナススタートとかあるある案件で。
からくり堂のニヤリ顔が目に見えるようです。
だから私は、本家に通報するだけにするよ。
と、踵を返して戻ろうとしたその時。
男の斜めっていた籠から一つの物体が落ち、地面をコロコロと私の足元まで転がってきた。
芋ですか?
あなたはもしやサツマイモとかいう名前ではありませぬか?
拾って確かめる。
手が震えたよ。
マジもんのサツマイモでした。
スゥィート・ポティトゥ。
あの甘くて焼くとホクホクで大満足なおやつ。
食物繊維が豊富な、淑女の強〜い味方!
「返していただきたい。それは命よりも大事な⋯⋯」
ぐぅ〜
いやいや、まて。
大量の芋を背負った、行き倒れの侍。
思考停止した。
「おじさん。なんでお芋食べないの?」
ついつい、話しかけてしまった。
シルジェネでは多分こんなオープン選択肢は出ない。
「それは大事な種芋で候にて。某が食べたらそれで終いでござる。しかしそれを植えれば何十人もの命綱になるであろう」
なんということでしょう。
飢饉バスターが行き倒れています。
〈助ける〉
〈水をあげる〉
〈ご飯を食べさせる〉
〈住人にスカウトする〉
〈崇拝する〉
五番を選択するしかありませんではないですか!
私は、シュタッとスライディング土下座をしてからお侍さんの両手をニギニギ。
「あなたが芋神様でしたか。毎日お芋さんをお供えいたします!」
こうして田口に芋神様、佐津間胤親さまがご降臨なされました。




