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『絹乃国』〜推しの小栗上野介を救いたい転生幼女、まずは天保の大飢饉から村を救います〜  作者: 天のまにまに
第4章:転章

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第28話:防災設備投資

 秋だ。

 行楽の秋。

 食欲の秋。

 防災の秋だ。

 そして何と言っても、天高く、小栗恋し秋である!


 レジャーを諦め、美味しいものから目をそらし、ただひたすら備蓄をする。

 うん、修行僧だね。

 これを村人全員がするのは厳しい。

 なにせ

「必ず来る飢饉」

 ではあっても

「いつ来るかわからない」

 のだ。


 これはきついよ。

 でもさ、令和のときにも

「少なくとも三日間、できれば一週間分の備蓄を」

 と、東京都は呼びかけていたけど、わたしゃしなかったね。

 都民だったけど、収入カツカツ。

 備蓄に回せるお金なんてなかった。


 え?

 七年分のボーナス?

 あれは必要経費だよ。

 生きていく上のね。

 私から小栗様を取ったらなにが残るのかね、ちみぃ?



「絹乃、こっち手伝って」


 お母さんが縁側に沢山の笊を並べている。

 天狗様のお言いつけで、うちでは飢饉対策が他の家に比べて捗《はかど》っている。

 私、去年から比べて、大分いろいろ成功させてきたから、なんか信じてもらえているみたいだよ。

 突飛なことを言っても「そんなもんか」と思われているらしい。


 その信頼を使って備蓄品を作る

 まずは戦国時代からの兵糧である、糒《ほしいい》。

 蒸した米をカラッカラに乾かす。

 たったそれだけ。

 それだけで軽く一年は持つ。


 これを昔の武士のお侍さんは、布に入れて体に巻き付けて戦ったんだよね。

 戦国時代にやけに詳しい、じいちゃんの受け入りだよ。

 その糒を足軽さん達の三角形の鉄の傘でお湯沸かして、おかゆにして食べた。


 考えてみれば昔版、アルファ化米だよ。

 アルファ化米と違っておかゆになっちゃう。

 でもそのほうがお腹に溜まると思うね。


「は〜い。美味しそうだね。お母さん」


 熱々のお米を木綿の布で運んで、しゃもじで丁寧に笊の上に広げる。

 なんか楽しいね。

 お母さんも楽しそう。

 なんてたって収穫の秋だよ。


「あんた、だめだよ」


 お母さんの後ろからお父さんが、お米をヒョイとひとつまみ。

 お父さんはつまみ職人でもあられましたか。


「ん、うまい」


 無口なお父さんだけど、たまにお母さんをからかう。

 家の中心にはお父さん。

 それを支えるお母さん。

 私の知らない世界がここにはある。

 なんか。

 いいね。


 これをずっと守りたい。

 そう決心した。


 ◇◇◇◇


 うまく行ったのは、糒《ほしいい》だけだった。

 正月には餅をつくので、それはきっと半年一年くらいは保管できると思う。

 けど、他のものはすぐだめになったよ。


 お父さんが釣ってきた川魚。

 鮎とフナ。

 鮎は干物に、フナは甘露煮にした。

 干し魚は時代劇なんかにでてくるように囲炉裏の上に差しておいた。

 砂糖は贅沢品なのでちょっとしか作れなかったし、両方ともすぐカビた。


 大根は干してたくあんにした。

 これは春までは持つと、お母さんが言っていた。

 それ以上は駄目だと。


 野菜の干物。

 乾燥が完全でないとすぐだめになる。

 乾燥機がほしいところですな。

 でもここは令和じゃない。


 瓶《びん》があれば、塩漬けができるのに。

 熱湯消毒してからなら、カビないで済むはず。


 塩も足りないな〜。 銭が欲しいぜ。


 あれ?

 待てよ?

 私って、結構銭持ってね?


 あれよ。

 ここのところ忙しくてさ。

 えんぴつの収入、毎月の銭を確かめもせずに、金庫代わりの床下貯金してたわけ。


 大きな瓶《かめ》にジャラジャラと。

 あれ、いくらになってる?

 早速数えてみよう。



 ふぁっ?


 今、私はどこへ行っていた?

 意識が飛んだ。

 気のせいか?

 目の前にある瓶の中。 そこには⋯⋯。


 ふらっ。


 なんということでしょう。

 知らないうちに私ってばさ。大金持ちになっていたよ。


 ま、まあね。なんとなくは感じていた。

 本家の誠一郎ちゃんから、毎月お父さんが預かってくる銭が増えていることを。


 だが待て。

 なんじゃい、この量は?

 改めて計算したよ。


 平均して毎月えんぴつが四百本売れている。 途中から高価な色鉛筆が爆売れしていたようで、月平均の売上は三万文を越えている。

 私の取り分は、その一分。 つまり百分の一。

 だから毎月、不労所得が三百文以上。

 これまで十ヶ月の間に――。


 三千文以上になっちょりました!


 シルジェネなら二年目の総資産としては大したことない。

 けど。

 現実の江戸時代に、六歳児が自由に使える銭としては金額がバグっています。


 やばっ。

 気を抜くと、また意識が飛ぶ。

 銅銭が三千枚の質量の暴力がヤバい。


 ふ〜っ

 ふ〜っ

 落ち着け、私。

 れ、令和のお金に換算してみよう。


 かけ蕎麦を十二文とすると――二百五十杯。

 一杯五百円換算なら、十二万五千円。


「なーんだ。そのくらいか」


 ⋯⋯と思った私よ。

 甘いぞ。

 ここ、江戸時代なんよ。

 そもそも、かけ蕎麦を基準に令和へ換算しようってのが間違っとる。

 物価が安〜〜〜〜い!

 しかも農村じゃ、現金そのものが貴重。


 十二万五千円というより、

「かけ蕎麦を二百五十杯、現金一括払いできます」

 と考えたほうが、たぶん近い。

 みんなが持っていない中、一人だけクレカ持っていて、一括払いしてくれるお得意様。


 六歳児が。

 自分の銭で。

 誰にも借りずに。


「⋯⋯私、富豪幼女にジョブチェンしている」


 しかも、この銭。

 全部、使い道が決まってない。


 つまり――。

 防災予算、爆誕だよ。


 ◇◇◇◇


「今頃、気がついたのか」


 いつもの榮ちゃんの呆れ顔。


「いや〜、まさか何もしないでここまで増えいるとは。NISAのインデックス投資感覚でいたら、福利計算を間違っておりました」


「なんのことだ?」

「なんでもありません」


 本家の榮ちゃんに、この資金で防災備蓄をできないかと相談に来た。

 全部突っ込んだら相当な量の備蓄ができるのでは、と。


「やめておけ」

「なにゆえでござろう」


「お前な⋯⋯。まあいい。いいか。江戸や京大阪と違い、銭は農村では貴重なんだ」

「知っています」

「だからだ。いざという時、何かの役に立つ。最後の手段だ」


 それはそうだけど。

 そうだけどさ。

 飢饉になったら銭よりも米なんじゃないかな。


「米だけではない。たとえば薬だ。すぐ必要になった時は米よりも手っ取り早いし、安全だ」


 安全か。

 米は目立つ。

 銭は不懐や持ち物に忍ばせられる。

 なるほど。

 腐らないし、隠すのに楽。


 じいちゃんも「複数持て」と言っていたし。


「半分は備蓄に使え。あとは隠しておけ」


「そだね。らじゃ」

「なんだそれは」

「なんでもないです!」


 私は榮ちゃんにペコリとお辞儀をして駆け出した。

 どこへ?

 それは


 ◇◇◇◇


「これ作ってください!」

「な、なんでぇ、家に入ってきた途端によ」


 最近、田口に引っ越してきた工夫神こと、喜平次さんに早口にまくし立てた。


「工夫神様、これとこれとこれ、作ってください! 貢物はグラインダーかチェーンソーがいいでしょうか。あ、無理か」


 こう言って以下のものを注文した。


 一、竹と木で作る段重ねの干し棚。 芋、大根、魚なんかを一気に乾かせて、雨なら軒下へ移動できるやつ。


 二、囲炉裏の上に吊るす燻製《くんせい》棚。 川魚を干して煙にも働いてもらう。


 三、鼠返し付きの保存棚。 食料を鼠に献上する気はございません。


 四、干し芋や大根を同じ厚さに切れる簡単な切り台。 厚さがバラバラだと乾き方もバラバラなのだ。


 五、乾物を種類ごとに分けて入れられる保存箱。 札を差して、いつ作ったものか分かるようにする。


「⋯⋯お前、食い物を作りたいのか、道具を作りたいのか、どっちなんだ」

「食べ物を腐らせない道具を作りたいんです!」


 私は胸を張った。

 六歳児、防災設備投資に目覚めました。


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