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『絹乃国』〜推しの小栗上野介を救いたい転生幼女、まずは天保の大飢饉から村を救います〜  作者: 天のまにまに
第3章:小栗歴六年

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第21話:経験神、降臨!

「きぬちゃん。おかいこさま、いっぱいだね。うれしいね」


「そうだね。私もうんと嬉しい!」


 ついに、お蚕様五十匹をゲットだぜ。


 去年は五匹。

 しかも、途中まで育った子を分けてもらっただけだった。


 今年は違う。

 最初から見る。育てる。

 小さなお蚕様を棚に並べる掃立《はきた》てから、眠って、起きて、大きくなって、繭になるまで。


 二階の養蚕部屋の隅に、五つの笊《ざる》を並べた。

 まだお蚕様は小さいから、笊の中もすかすかだ。

 五十匹もいるのに、ちっさ。

 シルジェネだと画面の中でわちゃわちゃ動いていたから、もっと存在感があった気がするんだよね。


「糸ちゃん、さっき言ったように、お蚕様をよく見て、違いがあったら教えてね」

「うん。去年よりいっぱいだから、ちゃんと見ないとね」


 お。

 糸ちゃん、去年よりしっかりしてなさる。


「さすが糸研究員。頼りにしております」

「けんきゅういんってなに?」


「偉い人です」

「じゃあ、やる」


 よし。

 一発採用ですな。

 私は帳面を開いた。


 昨日考えた計画では、五十匹を十匹ずつ五組。


 基準。

 葉っぱ。

 餌。

 広さ。

 掃除。


 一度に変える条件は一つだけ。

 科学神さまの御教えである。


「では糸研究員に聞き取り調査です。小さいお蚕様には、どんな葉っぱがいいですか?」

「やわらかいの」


「どのくらい?」

「やわらかいのは、やわらかいよ」


 ⋯⋯。


 説明になっておりませぬ。


「じゃあ、大きくなったら?」

「おおきくなったら、もう少しかたい葉っぱでもいいよ。ずっとやわらかいのじゃないよ」

「え?」


 私は帳面を見た。


『葉っぱ群』

 ⋯⋯。


 待て。


 葉っぱって、ひとつの条件じゃないじゃん。


「糸ちゃん。ちょっと待ってて」


 私は桑の枝を何本か持ってきて、葉っぱを一枚ずつ並べた。


 大きいの。

 小さいの。

 色の濃いの。

 まだ薄いの。


「この中なら、今のお蚕様にはどれ?」

「これ」


 即答。


「じゃあ、こっちは?」

「これかな」


「これは?」

「それはまだちょっとかたいよ」


 私は糸ちゃんが選んだ葉を並べてみた。


 大きさが似ている。

 色も似ている。

 触ると、たしかに柔らかい。


「どうやって分かるの?」

「見ればわかるよ」


「その『見ればわかる』が分からんのですよ!」


 糸ちゃんは不思議そうに私を見る。

 私は一枚取って、まねして触った。


「これ?」

「ちがう」


「じゃあ、こっち?」

「それもちがう」


「どこが?」

「うーん⋯⋯なんか、ちがう」


 経験論の申し子は単純な言葉でしかくださらない。


 去年だったら、ここで経験論の使徒襲来!

 科学の力で殲滅してくれるわ〜、とか考えていたところだ。


 でも今年の私は一味違うのだよ。


 糸ちゃんは適当に言っているわけじゃない。

 毎年お蚕様を見て、桑を触って、その中で残ったやり方なんだ。


 理由を説明できないことと、間違っていることは同じじゃない。


「⋯⋯お味方になっていただけばいいのか」

「きぬちゃん?」


「糸ちゃん。本日より経験神に昇格です」

「けいけんしん?」


「はい。科学神さまの新しいお仲間です」

「わたし、かみさまなの?」


「神様です」


 糸ちゃん、にぱ〜っと笑った。


「じゃあ、がんばる」


 可愛いのでよし。


 科学神さま。

 本日、新しい神様が御降臨なされました。

 祭壇で仲良く同居してください。


 ただし経験神さまには、ひとつ重大な弱点がある。


「なんでこの葉っぱがいいの?」

「いい葉っぱだから」


 説明能力、ほぼゼロ。

 なら、そこを私が調べればいい。


 葉っぱの位置。

 色。

 柔らかさ。

 お蚕様の大きさ。

 食べ残し。


 糸ちゃんが「いい」と言うものを記録して、あとから共通点を探す。


 おお。

 これなら経験を科学できるんじゃない?


「糸ちゃん。元気がないお蚕様って、なにか違う?」

「たべなくなるよ。葉っぱものこすし、うごきも少なくなる」


「なるほど」


 私は帳面に書いた。


『食べ残し:なし・少し・多い』

『動き:元気・ふつう・少ない』


 数字じゃない。

 でも去年の「なんとなく元気」よりずっとましだ。


 そこで、ふと頭の中にシルジェネの画面が浮かんだ。


 養蚕小屋。

 何段にも並んだ蚕棚。

 温度表示。

 換気。

 それから――


「⋯⋯網、かな?」


 たしか、蚕の上に網みたいなものが載っていた。

 あれ、なんだったっけ。

 ゲームでは背景の一部くらいにしか見ていなかった。

 でも、今なら分かる。

 たぶん、意味のないものじゃない。


「糸ちゃん。新しい桑を上に置いたら、お蚕様ってどうする?」

「食べに上がってくるよ」


「上に?」

「うん。桑があれば来るよ」


 ⋯⋯。


 私の頭の中で、ゲーム画面の網と、目の前のお蚕様が重なった。


 あ。

 これ、なんか使えるんじゃね?


 でも、まだ分からない。

 決めつけるのはやめよう。


 去年より一つだけ賢くなったことがある。

 分からない時は、まず見る。


「糸研究員」

「はい」


「今年は忙しくなるよ」

「うん。でも、たのしいね」

「そだね。楽しい!」


 五つの笊の中で、お蚕様たちは何も知らずに桑を食べている。


 去年は五匹。

 今年は五十匹。


 増えたのは数だけじゃない。


 私も。

 糸ちゃんも。

 たぶん、去年より少しだけ先に進んでいる。


 そして、科学神さまには経験神という強力なお味方が加わった。


 あとは――。


 私は帳面に大きく書いた。


『温度』

 ⋯⋯。


 温度計、ないんだよなあ。

 科学神さま。


 今年は道具まで要求なされますか。


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