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『絹乃国』〜推しの小栗上野介を救いたい転生幼女、まずは天保の大飢饉から村を救います〜  作者: 天のまにまに
第2章:十匹の約束

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第16話:未来人、学び直す(第2章、終わり〜)

 あれから美濃の岐阜の大店に製造を委託して、販売のうち東国を前橋の厩橋屋が受け持つことになった。

 さすがに発明の権利だけで売上の一割はがめつかったのか、八分、つまり八%が田口の塩原家へ支払われる約定となった。


 眼の前に置いてある古ぼけた文箱。立派な私の踏み台になった功績で、礼拝台へと昇格。

 その上には手付金千文のうちの一割、百文が紐に通して置いてある。


 天狗様。

 科学の神様。

 そして、小栗大明神さま。


 突然、勝手がわからないまま幼児転生した江戸時代。

 定番の技術知識チートが全滅する中でも、私にちょっとだけど稼ぐ手助けをしてくれてありがとうございます。


 まあ、あまり科学神、働いていないけどさ。

 江戸時代を見直したよ。

 科学じゃなくても、きちんと高度な製造と商売をしていたんだね。


 榮ちゃんなんか、計算が速っや。

 そろばんって暗算よりも速いんだね。

 びっくりしたよ。


 今度、もし現代へ帰れたら、生成AIで計算ソフト『榮太郎』を作ってやろう。

 ワープロ機能じゃなければ商標登録できるかも?


 で、榮ちゃんがそろばん弾きながら最初の斡旋料を渡してくれた。

 一月で九十六文あった。

 立ち食いそばが十二文だというから、一杯四百円計算で八倍の三千二百円也。

 五歳児のお小遣いとしてはバカ高いよね。


 うっしっし。

 これ、ヒット商品になれば億万長者一直線じゃね?

 これをNISAに積み立てる。

 三十年もすれば⋯⋯。


 うん、言っている途中で気がついたよ。

 ここ江戸時代じゃん。

 インデックス積立自動投資できる証券会社ないじゃん。


 でもじいちゃんが言ってた、二、三百年前からあったアメリカやイギリスの銀行株も、この時代ならもう買えるんじゃないかな。

 だったら、百年でも二百年でも持っとけば……未来はガッポガッポ?


 いや待て私。

 それ、NISAの自動積立じゃない。

 超長期・先祖代々ホールドだ。

 うむ。

 夢が広がるけど、二百年ガチホ計画はこっちに置いといてっと。


 ま〜、この三千二百円も立派な不労所得。

 やっぱ、うっしっし案件。


「絹、それを使って読み書きそろばんを習え」


 笑っていられたのは一日だけでした。次の日には榮ちゃんのご指示がでた。

 他人様の人生にズカズカと入ってくるなよ、おい。

 いつの間にか私のこと、省略して呼び捨てにしておられるし。


 だけど、うちのお父さんとお母さんに話が行っていたらしく、お二方、狂喜なされて。

 本家の御曹司が目をかけてくださった。

 学をつけろとお金まで出してくださる、と。

 いや、一応、それ私の銭っす。


 といっても、耳に入りませんでした。

 ゆくゆくは本家の跡取りの奥方に!

 とか、散々夢を馳せてから、私が一人っ子だったことにお気づきあそばされ、一件落着。

 そう簡単に私の未来を決めないでほしいですな。


 そういう騒動の後、眼の前には、真新しい文机が置かれましたよ。

 村のお寺で小さな寺子屋やってるんですが、そこに月十回通い、読み書きそろばんを習っています。

 家での学習が中心だとかで。

 まあ、通常の子どもは六歳くらいからもう毎日家のお手伝いですよ。


 糸ちゃんちは、寺子屋にいくだけの余裕がないのだけど、私がわがままを言って一緒に通っている。

 えんぴつ様のおかげだね。

 今度、えんぴつも神棚へ進出かな?


 こういった銭の使い方も悪くないよね。

 NISAよりよっぽど老後を安心できると思う。

 自分への投資、そして糸ちゃんという親友への投資。

 いや、真面目に糸ちゃん、勉強すればすごい才能を開花させると思うんだ。

 二十九歳児を何度も負かしているんだから。

 それに美人さんになる顔立ち。


 そういえば『容姿によって女性の生涯年収は数%上下する』なんていう身も蓋もない研究結果があるとか。

 それ聞いて、私思ったよ。

 底辺ライバーやっている、学歴も県立の女子大卒、派遣あんどフリー契約の底辺女子。

 それでも同接数十人来ていたから、まあそれなりの容姿だったのか?

 ホモ・サピエンスの平均的な容姿だったのかな。


 だけどさっき、ふと気になってお母さんの小さな鏡を覗き込んで、自分の顔を確認したら、なんとマジで可愛いかった。

 どうりで木地師のおじちゃんがお願いを聞いてくれたわけだよ。


 じゃ、今世は私、やっぱ大富豪一直線じゃね?


 と思った時が私にもありました。


 糸ちゃん、未来の美人。

 お父さんお母さん、美男美女属性。

 榮ちゃん、ハムサンド。

 榮ちゃんの父ちゃん、イケオジ。


 あの〜、乙女MODよ。

 世界全部に影響広げすぎてない?

 働きすぎよ?

 労働基準監督署が査察に来るよ?


 私、やっぱりホモ・サピエンス(乙女MOD)の平均値なのか。

 がっくし。


 ◇◇◇◇


 秋が深まった。

 外は上州名物、からっ風が猛威をふるっています。

 そういや、漫画で『お前はまだグンマー帝国をしらない』というのがあったっけ。

 あの中に

「遅刻の理由は何だ」

「風が強くて自転車が進みませんでした」

「それじゃしかたないな、座れ」

 とか言うネタがあったな。

 あれは実際に住んでみないとわからないネタだった。


 うちは中規模のそこそこ裕福な農家、それにお蚕様のおかげで、少しなら現金収入と貯蓄はある。

 だからたぶん、この建物はこの時代にしては良いものだと思う。


 だけど、風が吹き込むんだよね。

 さらにからっ風で砂が入り込む。

 毎朝雑巾がけしても、夕方には「ここは砂場か?」レベルに汚れちゃう。


 それに風の強い日は風呂は炊けない。

 まあ、風呂がある家はホント少ないけど、お父さんの唯一の贅沢だそうで、たまに沸かすんだ。

 でもそれには家の周りの用水路から水を何度も汲んできて、薪《たきぎ》を大量に使う。

 そして外にはずっと薪当番が温度調節をするというシステム。

 うちだけ使うんじゃもったいないので近くのお家も呼んで楽しむんだ。

 だからそれなりにうちは頼りにされてるみたい。


 令和の世じゃ、バスユニットが当たり前。

 蛇口ポンで、適温のお湯がジャー。

 外出時もスマホ操作、玄関開けたら二分でお風呂。

 からっ風にも負けず、雨にも負けない丈夫な家が普通に。


 くしゅん。


 ⋯⋯。

 さび〜〜〜いよ~。

 文明さまカムバッ~~ク。

 お湯につかりたいわ〜。

 シャワー浴びたいわ〜。

 エアコンつけたいわ〜〜。

 カップ麺食いたいわ〜〜。

 うまか棒かぶりつきたいわ〜。


 ◇◇◇◇


 冬になりました。

 からっ風には慣れてきた。

 大根やら大豆やら雑穀をお米に混ぜた糅飯《かてめし》も、いろいろなお味が染みていて食べ慣れると結構美味しい。

 おっきり込みも凍える体にしみるね。


 だが、掃除洗濯の毎日はつらい。

 お母さんの指はいつもあかぎれが治らない。

 いや、洗濯板、初めて使った時、これヤバいやつ、と思ったね。

 半刻、一時間は同じ姿勢で重労働。

 腰痛いわ。

 手は冷たいわ。

 汚れ落ちないわ〜で。


 ご飯準備と合わせて、労働時間=起きている時間。


 それでいてこの住環境と、質素な食事。

 やっぱ文明さま、神棚へ祀ろうか。


 と、考えていたらじいちゃんの言葉を思い出したよ。


「絹乃。今の世の中、人が自然を見ない。人工の明かり、超加工された食い物。高性能な家。便利な交通機関。

 そんな中、電気が止まったらどうする。水が止まったらどうする。便利なものほど、それ一つ止まった時に困るぞ。水が止まったらどうする。便利になりすぎるとな、自分で何もできなくなるぞ」


 聞いた時は、またじいちゃんのお説教か、と思ったけど、実際に便利なものが奪われるとそのありがたみが身にしみたね。


 まだここには自力で動かせる装置がある。

 人力で動かせるシステム。

 動力は人、牛馬、水車くらい。

 井戸は桶が壊れても縄を直せば水が汲める。

 薪は斧があれば割れる。

 だけどエアコンが壊れても私には基板一枚直せない


 高度な科学になればなるほど、一旦壊れればもとに戻すまで時間がかかるし、その時、人は本当に脆弱になるんだね。


 そしてじいちゃんが言いたかった結論。


「いざというときに、別の方法を用意しとくんだ。重要なものは全部、同じかごに盛るな。かごがひっくり返ると全てが壊れる。かごをいくつも用意しろ」


 投資歴七十年のじいちゃんの重い言葉。

 と言っても、じいちゃん自身が実践していなかったから、すかんぴんだったけどね。


 そうか〜。

 製糸だけじゃダメなのかな。

 シルジェネでも一本足打法はコケると大怪我だったからね。

 時間がある時に、なにか他の儲け口を考えておこう。

 生糸を作るにも複線化させる。

 儲けは少なくなるけど、ここはリアル世界だ。

 死んだらおしまい。

 リセットはできない。

 たぶん。


 だって、あのMODで入れちゃったもん。

 確定死MOD。

 死んだら蘇らない。


「いのちをだいじに」


 世界に広めたい格言だよ。


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