第13話:でかした、零号機
川面にたたずむ幼女ひとり。
頑張れど頑張れど、結果を出せない。
じっと手を見る。
チートは全部ダメだったよ。
作業開始すらできませんでした。
なにがいけなかったのだろう。
科学的思考が足りなかったのか?
エジソンさんは偉い人あ、そんなの常識だけど、彼の御仁が偉かったのは努力。
でも、その努力も失敗して失敗して、解決策をひらめきで結果を出したんだよね。
有名な格言になった
「天才とは、一%のひらめきと九十九%の努力である」
は、本当は
「一%のひらめきがなければ、九十九%の努力も実らない」
だったって、じいちゃんが言ったっけ。
そうだよ。
ひらめきだ。
ひらめきが訪れないのは、科学の神様への信心がまだ足りないのだ。
毎日拝んでないもんな、科学神。
天狗のお面にはたまに挨拶するけどね、ヒゲ引っ張ったりして。
では早速、科学神の御本尊を作らねば。
いや、もっと重要な存在を忘れてはいけない。
小栗大明神さまの御本尊⋯⋯は、連れてこれないけど、代りのものをまつろう!
「お母さん、この板借りるね」
「なにに使うんだい?」
「人生を切り開く開運祈願です」
「またよくわからないことを言って」
お母さんはだいぶ不審に思っているらしいが、結果が出れば文句は言うまい。
私は竈で消し炭を拾ってきて、縁側においた板に『小栗大明神』と書く。
が、なんということでしょう。
消し炭の不信心者めは、すぐに崩れてしまい、細かい文字は書けない。
努力と根性が足りぬ。
『おぐりだいみょうじん』
結局、書けたのはこれが精一杯だった。しかも私の汗と消し炭で汚れている。
私の今年の努力と根性は品切れになりました。
続いて
『かがくしん』
という御札を自作。
納戸から使われていない古い文机を引きずり出して、天狗のお面の下へ置く。
そこに二つの御札が鎮座ましました。
お父さんが昔使っていたおちょこに水を注ぎ、札の前に置く。
できた!
これから毎日拝もう。
私は敬虔な科学教の信者、そしてなによりも小栗教徒ですよ。
ぱんぱん。
二礼二拍手一礼。
ふ〜、疲れた。
額に汗して働いた甲斐があった。
でもお金は一銭も手に入らなかったけどね。
ん?
働くと手もきちゃない。
消し炭でまっくろ黒。
文明は依然、マーカーペンやシャーペンを生み出しておりませぬ。
だいたい鉛筆すらないじゃん。
あれ、いつぐらいから使い始めたんかな?
明治?
毛唐どもがもたらしたのか?
あれ。
じゃあ、私がよ?
先に作っちまえば大金持ちれる?
鉛筆なら作れそう。
小学校の国語の教科書に書いてあったよね。
黒鉛と粘土を混ぜて焼いて固めて、板材に挟んでくっつけてから切り分ける。
なんだ、意外と簡単じゃん。
では早速、試作品メイキングタ-イム。
ぎょりぎょりと消し炭を削って細くする。
むずいが、なんとかできた。
これを木切れで挟んでっと。
抜き足差し足で、ちょっと借りてきたお母さんの木綿糸でぐるぐる。
よしっ。
完成。
国産試作零号機よ、よくぞ私の手に舞い降りた。
いざ、実戦だ。
いろいろな室内のものにマークをつけていたら、頭がいたくなったよ。
やっぱりお父さんのげんこつは痛いです。
「よく来てくれたな。こっちだ」
しばらく頭を冷やしていると、げんこつ職人のお父さんが、見るからに何かの職人さんって人を家に迎えていた。
「これですかい?」
「ああ、お蚕様の棚だ。これが壊れていてはおまんまを食いっぱぐれる」
「このくらいなら半日で直せるぜ」
「よかった。じゃ、任せたぜ」
なるほど。
大工さんというか、木工職人さんかな?
手際いいわ。
どんどん準備が整っていく。
ぱちん。
ぱちん。
新しい木の板に墨のついた糸を張って、ぱちんと離して直線を引く。
次に墨壺を開いて、携帯しやすそうな筆に墨つけて、ものさしをあてながら印をつけていく。
さすがに手際が良いな。
だけど、その筆、いちいち置いたり墨付けたり大変だね。
私のイメージじゃ、こう、鉛筆を耳の上に挟んで、使う時は手でとってから芯を舐めて書くんだよね。
じいちゃんが競輪の新聞を見てよくやっていた。
じゃあ、この試作零号機でも可能か?
善は急げ〜っと。
「おじちゃん。これつかってみてよ。印付けるのに楽だよ」
幼女の声に振り向いた職人さん。
「ん? この家の嬢ちゃんかい。どうした?」
よしっ、試作零号機を渡して、使ってと懇願するのだ。
「一生のお願いです。どうかこれを使ってくんなまし」
決まったな。
これでロリ〇ンじゃなくても断れまい。
「気味わり〜お願いだな。まあ、依頼された家の嬢ちゃんだ。しかたないな」
失礼な言葉はこの際無視。
「どうでしょ〜、この炭、木にはさんであるから壊れにくいし、手も汚くなりません。だからこんなところにも挟めます」
しゃがんだ職人さんの耳に挟んでみる。
「見た目、華奢ですぐ壊れそうだが。まあ、書けるな」
「どうです? どうです? 使えますか?」
「わりいが、筆のほうがいい」
「え、なんで?」
「慣れてないからな」
「じゃあ、慣れれば?」
「⋯⋯まあ、便利っちゃ便利かな」
やった!
作業の最前線での運用で結果を出したぞ。
でかした、零号機。
返してもらった零号機をみてみると、満身創痍になっておられる。
やはり零号機は満身創痍で実戦から帰還なされたか。
お役目ご苦労。
あなたの経験を活かして、息子を量産しますね。
私は初号機を作り始めた。
◇◇◇◇
「なんだこれは」
「初号機です。きっと様々な分野で活躍できます」
私が差し出した、消し炭サンド型鉛筆を、本家の榮ちゃんに手渡した。
「名付けて、えんぴつ。墨がいりません。持ち運び便利な筆記用具です」
「なにに使うんだ」
「大抵のものに目印がつけられます」
榮ちゃん、胡乱そうな目つきで初号機を弄ぶ。
「これなら矢立て、携帯用の筆のほうがよいだろう」
む、職人さんと同じことを言ってくる。
ここで逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ。
私は初号機の利点を、前と同じように強調した。
「それで、その木工職人は使える、便利と言ったのだな」
「はい、それはもう。ほしいと言っていました」
ウソ言っちゃいました。
でも零号機は、結局渡してきたんだから真実には少し近いはず。
捨てられていなければだが!
「⋯⋯、わかった。では父上に計ってみよう。来い」
やたっ!
第一関門突破成功。
これはもしかするともしかするぞ。
転生後初のチート商売なるか?
◇◇◇◇
「それで?」
真新しい畳の書斎。
その上座には初めて会う塩原家当主、つまり榮ちゃんの父さんが座っている。
でっかいな。
榮ちゃんも大人になるとこれくらいになるのか?
塩原家は大男の血筋なのかも。
「はい。絹乃の申すには、木工での印を付けるのに便利だそうです」
「そうなのか?」
私は何度も練り上げた説明を繰り広げた。
手が汚れないから、どこにでも置けるし持ち運びに便利。
墨をすらずに、すぐ使える。
「紙も木も布も書ける? 書けそうにないが。雨でも流れるぞ」
「これからの改良の余地です、そこは」
下手なことは言えないな。
厳しい取り調べみたい。
「ほかにも直接物差しにあてて、簡単に直線が引けます」
普通の筆は物差しに直接は当てられない。
「壊れやすそうだが」
それは初号機だからです。
逃げないだけましだよね。
「本当は黒鉛と粘土が欲しいです。それを練って焼き上げる。その細い芯を木材で挟んでくっつけて切り分けて棒状にします」
黙って聞いていた当主、継太郎さんは榮ちゃんよりも遥かにきつい視線を私に向けていたよ。
「それはお前の考えたものか?」
う。
それは言えませんな。
だって発明者の名前知らんがな。
「て、天狗様に教えてもらいました」
天狗様、またお世話になります。
「そういえば、そんなことを作造が言っていたな」
天狗に頭を、という話がここにも流れてきていたか。
感謝です。天狗様。
明日はもっとお供え物を増やします。
「榮太郎。明日、前橋に使いを出して、黒鉛というものを調べさせなさい。どこで入手できるか、相場はいくらか。どこが引き受けてくれるか」
「承知いたしました」
結構、すんなり話に乗ってきた?
私が大満足な顔をしていたのがわかったのか、ご主人様は釘を差してきた。
「その、えんぴつといったか。売れるものである確率は一割以下だろう。が、その一割を見逃がすほど、わが田口は窮してはおらぬ。絹乃、これは榮太郎の修行として試すのだ。ゆめゆめうまく行ったと勘違いするでないぞ」
こりゃ、榮ちゃんの性格がひねくれるのは当たり前ですな。
この時代の人って、こんなに子育て厳しいの?
うちとは段ちだわ。
現在、アース・スターノベル大賞とドリコム大賞に参加中です。
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