除霊③
夕刻から始まった除霊は深夜、そして夏の日の早い明け方までつづく。
昨日も早朝から山を越え、村についた夕刻からはあまり間を置かず明け方までつづく除霊。
聖水はくさり、異臭を放つ、再度聖水を作り直し、取り憑かれた少女にかける。
その繰り返し。
もう感覚は麻痺しだしている。
「えんっ、えんっ、らつ、らつ。恨みは消えぬが恨みは保たぬ」
飛び交い顔に当たる何かは徐々に硬さをます。
悪霊は霊に戻ることはよいことだ。
悪霊であり続ける事は苦しみだ。
そう伝え続ける無理問答。
名も無き神は肩に手を置いている。
私の肩に手を置き離れ、次は弟子。
振り返ってはならない。
確かめてはならない。確かめる事は神を試す事。
取り憑かれた少女はその時だけ、それまで吐きつづけた意味は分からないが口調から怒っているとわかる言葉をとめる。
私の後ろにいるものをみている。
そして言葉を失った。
木々は大きく揺れる。
最後の抵抗だ。
私は強い目で少女を見つめる。
悪霊から霊に戻れる。
悩むことはない。
「元に元に、前に前に、山に山に、河に河に、わにわに。」
弟子もここを逃すまいと強く祈りを重ねる。
悪霊は霊に戻る。
それを悩まぬのは人の理屈。
悪霊が霊に戻る。それは悪霊は存在が消える事。
霊は悪霊に変質したが、霊は霊であり、悪霊は悪霊で別のものでしかない・・・。
説得は騙す事。
私の隣を何かが通りぬける。
ぴーん、ぴーん・・・。
静寂が歩いている。
ドシン、ドシン、ドシン。
静寂が静寂のまま何かを叩いた。
静寂は悪霊を静かに無に返す。
悪霊はカラカラサラサラという悲鳴を上げ苦しみの中消えていく。
「カラカラサラサラ クスクス」
再び静寂が私の隣を通り過ぎる時、そう聞こえた。
川の神は女性だという。
口調は女性だった。
声色は恐怖そのものだった。
弟子は倒れるが、気は失っていない。
疲れ果てそのように座りこんだ。
祈りの込められた絹衣は、腐り水により所々破れ目のやり場に困ってしまう。
聖水を作る器ももう使えまい。
年頃の女性だが怪我もたえない仕事、よくついてきてくれている。
ようやく恐怖は去った。
ようやく悪霊と我等の祈る名を持たぬ神は去った
弟子は家族を失ったあの日以来、目がほとんどみえないがその分鼻が効く。
異臭の中少し顔をしかめたが少女を悪霊から救えた喜びで笑顔を見せる。
そんな助手だからこそ、転職を勧めた事は何度もあるが彼女は頑なに聞かなかった。
今回の報酬は300万であり、300万という金額は大金ではあるが使用した道具等考えると赤字になる事も多い。
今回も赤字だろうか、
弟子には贅沢もおしゃれもさせてやれない。
それでも必要以上の金額を要求することは誰もが余裕なく生きる中で出来るものではない。
足の悪い師と目の悪い弟子、恨まれる事の方が遥かにオソロシイ。
そのギリギリ金額さえも除霊がすんだとたんごねられる時もある。
ほとんどのものはそうでないが村にそれを言い出す人が一人いれば強くとめるものはない。
次回いよいよ勇者登場!




