聖水
除霊は2人以上の人数が必要が望ましい。
私は縛られた少女を起こし、水を飲ませる。
少女は弱っている。
それは悪霊にも負担となるため、既に悪霊が去っている事もある。
それならば再度取り憑かれないようにまじないを唱えれば良い。
取り憑かれやすい状態をもとにもどす、気休め程度だが本来は気休めで十分であり、強い妬みや嘆き、恨みを持たねば問題ない。
「ぐなよのみ ぐなよのみ みんてまつ」
しかし少女は歯茎を引き絞り叫んだ。
悪霊は去っていない。
古来言葉が支離滅裂な悪霊は本当に恐ろしい霊ではないという。
典型的な支離滅裂な言葉を叫ぶ霊。
祓う際の危険性は多少低い。
しかしこの悪霊が本当に恐ろしい霊では無いこと等は我々には関係がない。
対処が分からず少女が数時間も縛らていた。
暴れた跡が見られ、地面を叩きつけたのか手は腫れている。
水や食事は多少は取っているようだが、場合によっては衰弱死していてもおかしくなかった。
”こんな事が頻発すれば村は滅ぶ。”
全ての悪霊は恐ろしい。
弟子はよく見えない目で少女を見つめ、その苦しみを慮る。
お祓いは流派にもよるが、清められた水を清められた杯に注ぎ、少量の酒を注ぐ。
そして神に祈る言葉をつぶやき、水の表面に指で神字を書き、祈りを続ける。
それにより水は悪霊の嫌がる聖水となる。
悪霊退治の前にまずこの神社にまつられる神に、
少女の悪霊退治にこの場所を使わせてもらうことを願う。
小さな村、神社が広場とされる事は珍しくない。
神社で除霊を行う事は珍しくない。
いつも、神社に祀られる神に許可を祈る。
けれど神は何も答えない。
一度も答えが返ってきたことはない。
「元に元に、前に前に、山に山に、河に河に、わにわに。」
「元に元に、前に前に、山に山に、河に河に、わにわに。」
私が呪文を唱え弟子が続く。
私の仕える神への祈りはあるべき姿に戻ることへの祈り。本当によいものなのか分からない土着の信仰。
宮司もないとはいえ、由緒ある神を祀るであろう神社で、素性のわからないものに祈る。
信じきれず、他の神の領域で祈っている。
それでも水は聖水に変わっていく。
夏の事、ぬるくなったはずの水は、冷たく冷えていく。ぴーん、ぴーん・・・、先程までなかったはずの静寂が訪れる。
周りの空気が結界となっていき、新たに何かがはいることを拒む。
物理的ではなく近寄り難い雰囲気が出来上がる。
悪霊は静寂が怖い。
だから少女を通して叫ぶ。
聖水は静寂のこもった水なのだ。
感情の揺らぎと共に自分が消えてしまう。
悪霊はそれをしっているのだろうか?
研ぎ澄まされながら、ないはずのものはやはりなかったのだとわかる。
そして消える。
僅か数分の祈りだが集中力を要す。
除霊は始まったばかり、これから何度もこれを繰り返す事になる。




