勇者の帰還①
私の目に燃える鉄棒が迫る。
小夜様の父、私の伯父。
「メラメラクラクラ、イヒヒヒヒヒ」
伯父はそう唄った。
悪霊がついている。
弱い悪霊は完全に意味の分からない言葉をつぶやく。強い悪霊はまるで人のように。
本当に強い霊は唄う。
悪霊でも、精霊でも。
唄う霊には人は近づいてはならず、こちらから近づかなくとも目をつけられれば逃げられない。
人の運命など簡単に操る存在。
カラカラサラサラが小夜様と2人の水子だと言う事を、だから師匠は気が付かなかった。
「助けて下さい」
私は泣きながら許しを請う。
ご隠居も伯母も私の両親も殺された。
唄う程の悪霊にとってはただの遊び。
伯父の心、いや、一部の思考の欠片をわずかに残し、一番憎い私を後回しにさせた。
うまいものは最後に・・・。
「メラメラクラクラ、グフフフフフ」
精霊は伯父の体を借り唄う。
私は目をつぶる。熱がまぶたを焼いている。
「ギィ゙ァァァァァァ」
鉄棒で貫けば私は死ぬ。
けれど奴は私の目を焼くにとどめた。
「ユウリちゃん!!」
師匠が叫び走る。
家の中の事、わずか数メートル。
急に手を離された小夜様は手を突き倒れた。
勇者の亡骸は地下に安置されている。
私は勇者の死体を確認する。
死体は綺麗なままだった。
勇者としての聖なる気とやらでもあるのか腐りはしていない。
私は目は見えないが、鼻は効く。
また今はキラキラ チカチカと唄う精霊の唄声の反射を聞き多少は様子もわかる。
「キラキラ チカチカ」
私の隣で精霊が唄うが誰もきづかない。
「この状態でしたら3日程度で動けるようになるでしょう。」
争いを避ける為。
内乱を避ける為。
勇者は記憶と心と力を残したまま別の魂を入れられる。
「ありがとうございます・・・、ありがとうございます。術師様。」
王が私の手をとりすがりつきなく。
私は手を離した。
私はあの時、師匠から手を離した。
今は王の手をとっている。
私があの時縋り付けば2人は離れなかった。
小夜様の執着は師匠ではなく私。
2人なら師匠は殺されなかったのではと未だに思う。




